紅茶
助手席に転がしていたiPhoneが静かに震える。
一瞥すると、待ち合わせ場所変更の連絡が入ったらしい。半ば放心状態のまま車を走らせ、約束の場所へ向かう。
待っていたのはハシモトさん。続いてしんいちさんとも合流する。気づけばすっかり落ち着く顔になった。
しかし今回は、しんいちさんが新たな刺客を送り込んでいた。人間、適度な緊張感は必要だ。
刺客は2人。
つちやそさん。
しんいちさんから「すごくいいやつ」とは聞いていた。逆に言えばそれしか事前情報が無かったのだが、しかしその情報が正しい事は、目と目が合った瞬間に理解させられた。ネタバレすると最初から最後までトップギアでいい人だった。
池田さん。
しんいちさんからは「もしかしたらおじさんと同じ県の割と近いエリアに住んでいるかも」という情報を直前に仕入れていたが、近いエリアどころか買い物に行ってるスーパーまで同じレベルで生活圏が被っているという衝撃。ここは群馬なのに。
2人を加えて5人揃ったところで、乗ってきた車を預かり所に停め、みんなで行動しやすいようにハシモトさんとしんいちさんの車2台に相乗りする。
メンバーは、グーッパで決めた。掛け声を声に出しながら、「これ確かめちゃくちゃ掛け声に地域差あるやつだ…」と頭によぎったが後の祭り。勢いで押し切るが勝ちというやつだ。伝わったし。
結果、しんいちさんとおじさん、ハシモトさんとつちやそさんと池田さんというチーム編成に。車は、山道を登っていく。道中の展望台で休憩を挟みながら、上に、上に。
辿り着いた大沼。
以前訪れた事があるが、あの穏やかだった場所とは思えないほど厳しい表情を見せていた。吹き荒れる風と打ち付ける波。そして寒い。とても寒い。
腰を据えて撮ればきっと素晴らしい画が撮れるだろう。しかし今回は根性とか忍耐とかそういうのはノーサンキューだ。それは日々の生活で間に合っている。
さらに車を走らせ、小沼へ。
寒いのは変わらないが、風が無い。それだけで体感温度は10度近く違うのではないだろうか。穏やかな光が差し込み、水面は波紋に沿ってイルミネーションのように輝いている。他に訪れる人も両手の指の数に満たないようで、静かな空間が広がっている。
圧巻は群生する霜柱だ。下界では見た事がないほど大きく成長したそれは気軽に踏み付けることが躊躇われるような美しさで、結局その神々しさは手に掬いとって眺めるのが精一杯だった。
軽く、と言いながら結局は湖畔(湖…?)を一周ぐるりとハイキングして、ベストプレイスに辿り着いた。道中すれ違う人は例外なく熊鈴を付けていたような気がするが、それはまぁ些細な問題だ。
さて、今回のメインイベントである。
静かな湖畔(湖…?)で自然に抱かれ、ハシモトさんの淹れたコーヒーを飲む。この贅沢の為に今日まで生きてきたと言っていい。
コトリ、コトリ。広げた机にコーヒーミルやヤカンが置かれていく。
昨年のBBQの際にはヤカンを忘れるという大技を繰り出したハシモトさん。鍋で湯を沸かしてなんとかするウルトラCを見せたしんいちさんだけでなく今回はハシモトさんもしっかりヤカンを準備しており、何もアクシデントが無いことに一抹の寂しさを感じながら空を仰ぐ。
「あっ!!!!!」
ハシモトさんである。
やっちまった、という顔をしている。瞬間、心拍数と期待が唸りをあげて高まっていき、自然と頬が緩む。そうだ、これだ。この為に今日まで生きてきたのだ。
結果的に、コーヒーフィルターを忘れたハシモトさんの奥様が忍ばせた紅茶パックに救われる形になった我々のハイキング。奥様の気遣い心遣いには感謝してもしきれない。この場を借りて御礼申し上げます。
今回の登場人物(到着順)
・ハシモトさん
https://x.com/hashimo_nr/
・めじろおじさん
・しんいちさん
https://x.com/i_shinchan0205/
・つちやそさん
https://x.com/tnkrkkr/
・池田さん
https://x.com/seepfly/