しゃべりたい2:相談事(1)
「いらっしゃいませー」
「あ、19時に予約の山崎です」
「山崎さま・・、2名様ですね。どうぞ」
そんなやり取りを山崎さんの後ろで聞きながら、店の入り口の低くなっている天井を見上げていた。この前来た時には気がつかなかったけれど、漆喰の壁から天井はアーチ状になっていて、居心地が良かった。席に通された後、店員が立ち去る前に、ビールで良いか尋ねると、山崎さんはちょっと考えてから
「俺はウーロン茶にしとく。お前は飲んで良いぞ」
と言った。なんだかよく分からないけれど、ビールとウーロン茶を注文した。おかしい。飲みに誘っておきながら、自分が飲まないなんて。
「山崎さん、体調よくないんですか」「いや、そんなことないよ」
山崎さんは上着を脱いで座り、手のひらでごしごしと顔をこすっている。
おかしい。何だかそわそわしている。
ビールとウーロン茶が来たタイミングで、食べ物を注文することにした。適当に注文するぞ、と言いながらメニューをめくり、親子サラダとエスニックチキンの満月ソース添えを注文しようとしたので、俺は慌てて止めた。
「山崎さん、その2つ似てるんでどっちかで良いと思います」
「そうか、じゃあ親子サラダで」
店員が立ち去った後、山崎さんはウーロン茶を半分ぐらい飲んで言った。
「なんだ五十嵐、この店来たことあるんだ」
「はい、このまえ大学の同期と」
「ふうん。お前もいろいろ大変なんだな」
「はあ」わけの分からないまま頷いた。
料理が運ばれてきてからも、山崎さんは「唐揚げと温泉卵で親子かー」と、ひとりで呟いたり、エスニックチキンが運ばれてきたり(結局エスニックチキンも注文していたようだ)と、明らかに様子がおかしかった。俺は、酔いも少し回ってきたのもあって、もう一度聞いてみた。
「山崎さん、やっぱり今日なんか変ですよ。何かあったんすか」
「何かあったのはお前のほうだろ?」
「さっきもそんなこと言ってませんでした?俺、何にもないですけど」
「いいからいいから。ちゃんと聞くから」
「いや、ほんとに」
「え、だって、お前が相談したいことがあるって。佐藤が」
その名前を聞いてピンときた。この前、亮介と飲んだときも、猛烈にこの店を推してきたのだ。
「佐藤がここに行けって?」
「いや、お前が悩んでて、話を聞いて欲しいみたいだって」
「ついでに、『それならこの店が良い』って?」「そうそう」
「悩みを聞くから、ノンアルコールなんすか?」「そうそう」
「うわっ、ちゃんとしてますねー」「そうそう」
俺は、今のところ相談することが無いということと、佐藤はどうやらこの店に知り合いを行かせたがっている、ということを説明した。山崎さんはまだ何となく、俺を疑っている様子だったけれど、結局ビールを頼んで飲み始めた。
(続く)
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