#37 星になる
「私がもし、タイプ4文明の別銀河系から来た宇宙人だと言ったら、君は信じる?」
小学校最後の夏休み初日。
好きな女の子から大胆な告白をされた。
1学期の終業式、勇気を振り絞って好きな女の子を天体観測に誘った。
その子、月井さんは落ち着いたトーンで
「いいよ」
と返事をしてくれた。
夜の8時に僕は自分のマンションの前で月井さんと集合して、屋上で空を見上げた。
月井さんは可愛いけれど少し変わった人だった。
小学六年生なのにいつも小難しいことを言う。
「さそり座のアンタレス、なんで赤いと思う?」
「僕は白でも青でも、さそりっぽさを感じないかな。さそり座のだから赤いわけでななくて、赤い一等星を持っているからさそり座になったんだと思うよ。」
「ふーん。」
会話に深い意味はなかった。
けどこの小難しいフリをした会話は他の小学生と一線を画しているようで心地よかった。
会話が減ってきたところで、僕は好意を伝えるタイミングを伺っていた。
「あのさ、月井さん。」
僕は月井さんの目を見る度胸はなくて、夜空を見上げながら話しかけた。
「どうしたの?」
月井さんも夜空を見上げながら返事をした。
「す、、好きなんだ。」
緊張のあまり言葉が詰まってしまった。
告白の恥ずかしさと、言葉に詰まった恥ずかしさで顔から火が吹いてるように熱い。心臓の鼓動がバクバクバク、と指先まで響いている。
「さそり座が?」
「月井さんが。」
月井さんは数秒の間考え込むような表情をし、その後驚くことを言いだした。
「私がもし、タイプ4文明の別銀河系から来た宇宙人だと言ったら、君は信じる?」
「?」
何を言っているかわからなった。
遠回しにフラれているのかと思った。けれど月井さんの表情はいたってまじめだった。
突然月井さんは僕の右手を自分の左胸に押し当ててきた。
「!?」
予測していなかった月井さんの行動に僕は完全にフリーズしてしまった。
なんで告白した30秒後に僕は月井さんの胸を触っているんだ。
「伝わる?私の心臓の音」
ハッと我に返り、自分のやましい気持ちを拭って月井さんの鼓動に集中した。
、、が聞こえてこない。ドクドクも、バクバクも、僕の右手では感じることができない。
「地球にいる間ヒトの見た目になっているだけで、中身までは同じじゃないのよ。」
ますます意味が分からなかった。本当に月井さんは地球人じゃないのか?
月井さんは僕の右手の拘束を解くとこう言った。
「地球の生命体を連れて帰るのは良くないのだけど、好きになっちゃったらしょうがないわよね。一緒に来てくれない?」
「う、うん!」
あまり深く考えず首を縦に振った。よくわからないけれど月井さんも好意を持ってくれていることに口角が吊り上がった。
人生初めての告白がうまくいった喜びに浸っていたが、気が付くと視界が暗転
見慣れない、というより見たことのない場所に月井さんと二人立っていた。
「、、、??」
「ここ、私の故郷なの。ごめんね、連れてきちゃった。」
いつもはまじめな月井さんが赤面でそう言った。
そして空を指さす。
指の方を見上げると一つ、あまりにも見覚えがある青い星があった。
星が瞬く夜、星を一緒に見に行った好きな女の子に告白したら僕自身が星になっていた。