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コロナ後の中国SaaSとこれまでの発展について

  最近SaaSについて学ぶ機会があり、リサーチしていく中で中国SaaSの発展状況も気になったので、調べたところ以下のような検索結果が出ました。

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”中国SaaSとSalesforceの差はどれくらい開いているのか?”

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”中国SaaSはなぜマネタイズできていないのか?”

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”誰が中国SaaSの不毛な生態系に責任を取るべきか”

  ここまでは2020年の記事でしたが、さらにSaaSの記事について遡ると、こんな記事もありました。

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”SaaSはすでに”死んだ”、次は”

  中国SaaSに関して、なかなかネガティブな記事が続きます。新型コロナウィルスによる影響で、各国ではリモートワークが続く中、SaaS関連株は強さを発揮し、高値を続けています。もちろん、中国でも例外ではなく、「微盟」や、「有賛」といったSaaSプロバイダーは年初から約200%を超える上昇を遂げ、SaaS全盛期とも呼ばれ始めています。
  ところが、市場の活況とは裏腹に、中国SaaSに対しては上記の記事のような厳しい意見が多く、依然として市場に浸透するにはまだまだ時間がかかるとの見方をする人が多く見受けられます。そこで、今回の記事は中国時事というよりも、これまでの中国SaaSの発展や、問題点、そして今後の方向性をまとめた”まとめ記事”として書いていきたいと思います。(既出の内容も多々あるかと思いますが、宜しくお願いいたします。)

中国SaaSの始まり

  そもそも中国SaaSの始まり、いわゆる”SaaS元年”はいつになるのか。いくつかの記事やデータによると、共通として取り上げられるのが”2015年”。この時期に、Horizontal SaaSが資本の注目を集め、また同時期に前述の「微盟」や、「有賛」などといったVertical SaaSが台頭し、中国全土でSaaS熱が高まりました。下記のデータからも分かるように、2015年に中国SaaS市場は急激な成長を遂げ、資金調達やSaaS関連企業の設立件数を見ても過去最高を更新しています。

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2013〜2021年中国SaaS市場規模

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SaaS関連企業の資金調達件数及び金額

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年度別SaaS関連企業設立件数

  これまで、中国のSaaS市場はアメリカに比べると10年遅れていると評価されていましたが(安信証券のレポートより)、2015年前後のSaaSブームを機に、他の分野でも起きたリープフロッグの実現を試みました。ところが、市場の予想とは裏腹に、2016年以降、中国SaaSは急激に冷え込み、資金調達件数や、新規のSaaS関連企業の設立も著しく減少しました。
  資金調達金額は、2018年に最高値を更新しているため、SaaSスタートアップの乱立が収まり、資金調達のラウンドが進むと同時に、マーケットシェアを独占するビッグプレイヤーが現れ始めたとの見方もありますが、多くの識者は中国SaaSがそもそも市場に受け入れられることができなかった理由として:①SaaSモデルの破綻(異常なまでに高いチャーンレート、企業側(特にSMB)の支払い意欲の希薄)と②SaaSプロダクトの質の低さが共通して指摘されています。(後に第3の理由として、Alibaba、Tencent、BytedanceといったIT巨人による影響も少し紹介します。)

①SaaSモデルの崩壊

  ページのトップにあるSaaSに関する記事のほぼ全てにおいて、共通して指摘されているのが、SaaSモデルの崩壊。ALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロ氏が紹介するように、SaaSは矛盾がないビジネスモデルであり、尚且つクライアントの満足度が高ければ退会率(チャーンレート)が低くなる。SaaSは他のビジネスモデルと違って急に売り上げがなくなることがなく、正しくやれば、正しく成長するモデル。ところが、中国のSMBはSaaSに対する支払い意欲が薄く、継続率も低いため、SaaSモデルが成り立たず。Enterpriseに至っては、既存のSaaSはカスタマイズが不便といった理由をもとに、SaaSを自社開発するケースが多々起きているため、中国においてSaaSの発展が遅れているとされます。
  下記の図表は、中国有数のEC系SaaS、「微盟」に関するデータですが、トップを走る当サービスでさえも2015年のチャーンレートが約60%近い数値になっています。SMBを対象としているため、Annual Churn Rateが比較的高い数値にはなりますが、HRM SaaSを展開する「北森」の創始者である紀偉国氏もインタビューに対し、中国のSaaSが共通して直面している問題として、高いチャーンレート(SMBを対象としているSaaS)や前述のカスタマイズの問題(Enterpriseを対象としているSaaS)が挙げられています(北森はEnterprise向けにSaaSを提供し、カスタマイズの問題に対しては自社でPaaSを開発することによって解決しています)。

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②SaaSプロダクトの質の低さ

  SaaSが中国市場で未だ成功を収められていないもう一つの理由は、SaaSの質の低さだと言われています。2015年前後に、第一次SaaSブームが到来した際に、数多くのSaaSスタートアップが設立し、多くの投資を集めました。しかし、肝心のSaaSは企業のニーズに応えられず、カスタマーサポートも不十分だったために、SaaSブームはあっという間に消え去りました。では、中国SaaSのクォリティが低い根本的な理由はなんなのか、その答えは「SaaS的天敌,一是传统软件思维,二是To C思维」の記事にありました。
  この記事の筆者は、中国SaaSの問題点として、SaaSスタートアップが伝統的なソフトウェア思考、そしてB2Cのビジネスモデル思考に囚われがちなため、結果として失敗を招いていると分析しています。
  まず伝統的なソフトウェア思考においては、全ては新規顧客獲得のため、ビジネスを運営し、既存顧客のサポートは比較的疎かになります。ソフトウェアは販売時に収益が生じ、SaaSは長期間かけて収益を回収していくため、収益構造にも画期的な違いがあります。しかし、中国SaaSは新規顧客の獲得やスケール化をあまりにも重視したため、セールス側もSaaSのRetention Rateを気にせず、その場の契約=KPIとなっていました。さらには前述のように、カスタマーサポートが不十分であり、SaaSの質よりも契約数とスケール化を最優先したため、クライアントファーストであるべきSaaSモデルは砕け散っていきました。
  B2C思考も、上記に似たような問題を抱えています。2Cでは基本的にサービスは無料でリリースされているため、カスタマーサポートが全般的に欠けていると筆者は話します。また、B2C思考における”爆品思緯”(サービスの機能性よりも、バズるかバズらないかという考え)やB2Cのようにプラットフォーム化の試みも全てSaaSの発展を阻害していると筆者は指摘しています。

③Alibaba、Tencent、Bytedanceによる市場独占?

  上記の二点は、SaaSのサービス自体や、事業の進め方、運営方法に対する論考ですが、それ以外にも、中国SaaSを阻害している点としてAlibabaやTencent、BytedanceといったIT巨人による市場独占も挙げられます。
  「微盟」など、Tencentの投資を得ながら、Tencentのプロダクト(WeChat)で運営するSaaSは、ビッグプレイヤーが独占するエコシステム内で比較的順調かつ上手く生き残れている例ですが、その他のSaaSはそうとは限りません。「谁该承担中国SaaS贫瘠生态的一点责任」(誰が中国SaaSの不毛な生態系に責任を取るべきか)では、特にAlibaba、Tencent、Bytedanceが提供するDingTalk、WeChat Work、Larkに中国のSaaSが発展しなかった最大の理由があると筆者は指摘しています。
  これら三サービスとも、グループウェアでありながら、第三者サービスを開放し、他社が提供するCRMやHRM、Back OfficeのSaaSも搭載しています。例えば、DingTalkは現在130社のSaaSをプラットフォーム上で提供しており、対するWeChat Workは73社のサービスを展開しています。もちろん、全てのSaaSがこれらプラットフォーム上で展開できるわけではなく、厳格な審査基準を通過後、レベニューシェア(DingTalkは収益の30%、WeChat Workは10%)に合意した上でやっと展開することができます。またこれらプラットフォーム上では重複したSaaS、同じ企業のSaaSを複数のプラットフォームで展開することは事実上不可能であり、一つのプラットフォームを選ぶ必要性があります。これらの方針により、SaaS企業も、自社でサービスを展開するのではなく、多くのユーザーを抱えるAlibabaやTencent、Bytedanceに取り込まざるを得ない状況に直面しています。
  また、SaaSにとってさらに最悪な状況がこれらIT巨人は、マーケットシェアを完全に独占するためフリーミアムではなく、”完全無料”の状態でSaaSを展開したがることだと筆者は言います。実際、DingTalkや、WeChat Workを始め、Lark、HuaweiのWeLinkなども新型コロナウィルスが拡大した際にこれを商機と捉え、サービスを無料で開放し、マーケットシェアの獲得に動きました。
  企業としては、新型コロナウィルスの影響により、リモートワークへの転換を強いられる中、無料でこれらのサービスを利用できることはこれ以上喜ばしいことはない。しかし、SaaSプロバイダーとしては致命的な一手となり、資金力や規模的にもIT巨人に太刀打ちできない企業は、その傘下に降るか、「微盟」のようにIT巨人が展開するサービスとシナジーがあるようなSaaSの開発に注力するか決断が迫られます。(BytedanceのLarkは今年の2月10日にSMBや公共機関向けにグループウェアを3年間無償で提供することを発表しました)新型コロナウィルスの影響や、IT巨人の参入により、SaaS市場はこれまでにない活況を見せるものの、エコシステムとしてはかなり不健全な状態が続きます。

今後の方向性は?

  今後の方向性については、かなり悲観的な予測が多いものも、その中でGGVのパートナーである符績勳氏は中国にSaaSに関する意識改革が到来した時、さらにはSalesforceのようなSaaS巨人が現れた時に市場は転換するだろうとコメントしていました。実際、中国を代表するSaaSといえば「微盟」や、「有賛」、「北森」などが挙げられますが、いずれもSalesforceとはかなりの差が開いています。符績勳氏が語るように、中国SaaSにとって最も大事なのは”忍耐”であり、目先の利益ではなく、SaaSの質の向上に努め、市場の意識改革と共に、中国企業固有のペインポイントを解決するSaaSが現れたときに中国SaaSの発展が見られるという。
  新型コロナにより中国では第二次SaaSブーム到来との声もあるが、その道はまだ果てしなく遠い。Meituanの共同創始者である王慧文氏もMeituan内部に向けた発言で、”中国は世界に誇るB2Cサービスはあるが、B2Bはほぼ全滅か、苦境に立たされている”と話しています。一方で、「Moka」(8月13日にシリーズB+ラウンドで資金調達(調達額は未公開))のような海外大学を卒業し、海外SaaSに対する知見を持つ海亀(帰国子女)が中国でSaaSを立ち上げ、成功を収めている例も少なからずあるので、今後に期待し、引き続き中国SaaSを観察していきたいと思います。

*今回の記事は中国時事というよりも、筆者が今リサーチしているSaaSに関するまとめ記事に近く、間違いなどあればぜひご指摘いただければ幸いに存じます!!!また今回の記事では中国SaaSの特徴や、注目のサービスも取り上げることができなかったので、次回以降の記事でそこも取り上げたいと思います。

参考資料:

中国SaaS为什么不赚钱?
SaaS颠覆传统软件了吗?
​中国SaaS处在什么阶段?
中国SaaS:横着走还是竖着走
中国何时诞生一个Salesforce,才真正是SaaS的黄金时代
SaaS的天敌,一是传统软件思维,二是To C思维
谁该承担中国SaaS贫瘠生态的一点责任
从北森成年礼,看中国SaaS企业未来
是什么决定了中国SaaS的未来
SaaS已“死”,下一个
以美为鉴,中国SaaS的未来
“乘风破浪”的中国SaaS :风浪越大,机会越大?
中国人为什么不爱用SaaS?

文/夏目 英男

Weekly China
August 14th, 2020


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