とある一家の別荘にて 後編
「さて、そろそろシャーリーと交代してきます」
ロンはゴードらと共にテレビを見ていたが、そう呟き立ち上がった。
「あぁ、すまんな。あの子はついついやりすぎてしまうからなぁ……」
ゴードはロンに対し、少々申し訳ないといった感じで頭を掻く。
「そこがシャーリーの可愛いところですよ」
ロンはそう言い残し、地下室へ向かった。
「愛しのシャーリー、交代の時間だよ」
ロンは階段を降りながら、そう声をかける。しかしなぜか彼女からの返事はない。
「? いないのか?」
不思議に思ったロンが部屋の中央を見るとそこにクリークの姿はなく、代わりに口をテープで塞がれ、拘束されているシャーリーの姿があった。
彼女はロンの方に怯えたような視線を向けながら首を左右に振っている。
「シャーリー! だ、大丈夫か!?」
ロンは急いで彼女の拘束を解こうと近寄る。と、その瞬間後部に強い衝撃を感じ、彼は一瞬気を失った。
「うぐっ……!」
次にロンが目を覚ますと、目の前には不敵な笑みを浮かべるクリークの姿があった。
「くっ……くそっ、お前!!」
ロンはすぐに立ち上がろうとしたが、自分の体が拷問椅子に座らされていることに気付く。
「よぉ、お目覚めか? 色男の彼氏さんよ」
クリークは口元を歪ませながら、手に持った刃物を弄ぶ。
「シャーリーはどうした! 彼女は無事なんだろうな!?」
ロンは焦りながらも必死に問いかける。
そんなロンに対し、クリークはあっちを見ろと首を動かす。
そこには同じように椅子に拘束されているシャーリーの姿があった。特に怪我を負っている様子はないが、怯えたようにガタガタと震えている。
「おっと、もうそのテープ外してやらねぇとな」
そう言ってクリークは、彼女の口元のテープを剥がした。
その瞬間、シャーリーは大声でロンに向かって叫ぶ。
「ロン、こいつとんでもないやつよ!! 拷問が全く効かないし、血も出ない。さっき撃たれた足も本当はいつでも動かせたのよっ!! 早くおじいちゃんたちにも知らせないと……!!」
シャーリーがここまでの怯えを見せるのは初めてだ。ロンは驚きを隠せない。
「おいおい、あんまりうるせぇとまた口を塞ぐぜ? お嬢さん」
「ひっ……!!」
彼女の首元に、クリークが刃物を突き付ける。
「やめろ! シャーリーに手を出すな!」
ロンが叫ぶと、クリークは刃物を引き下げて彼の方に視線をやる。
「そいつは無理な相談だなぁ。お前は正直殺そうが殺すまいがどうでもいいが、この女は依頼対象なんでね」
そう言い終わると、ロンの反応を待つことなく続ける。
「だからよ。お前がこの女を見捨てて逃げるってんなら俺はお前を見逃してやっても構わねぇぜ?」
「ふざけるな!! シャーリーを置いて行けるわけないだろ!!」
ロンが大声で答えると、クリークはニヤリと笑う。そして今度は彼の首元に刃物を当てた。
「そうか、ならあの女と一緒に死ぬか? いいぜ、好きな方を選べよ」
ロンは悔しそうに奥歯を噛みしめる。そんな彼を見てシャーリーは叫んだ。
「だめぇ! ロン逃げて!! こんな奴に殺されないで!!」
「シャーリー……!!」
「お願い!! ロンを殺さないでぇ!!」
「ハッ! じゃあ、お望み通りお前から殺してやるよ!!」
クリークがシャーリーの首に刃物を当てたその時だった。
突然地下室の扉が開き、ゴードとその妻が入ってきた。2人とも手に武器を構えている。
「そこまでじゃ」
「あなた、もう十分でしょう?」
2人はそう言うと同時にクリークに銃口を向ける。しかし彼は全く動じる様子がない。
「おいおい……老い先短い年寄り共が銃なんか撃てるのか? ハハッ、傑作だなぁ!!」
クリークは嘲笑うが、ゴード達は全く動じずそのまま距離を詰めていく。
ロンはその様子を見て一縷の望みを感じた。
(さすがゴードさんだ……これなら勝てるかも……!)
しかし、その願いは叶わなかった。ゴードと妻がそれぞれ1発ずつ発砲した瞬間、クリークは目にも止まらぬ速さで距離を詰めると2人を素手で気絶させてしまう。
「なっ……!?」
その光景にロンとシャーリーは言葉を失う。
そんな彼に対し、クリークはニヤリと笑った。
「ジジイとババアもゲームセット。こいつらが目覚めたらお楽しみの時間といくか」
ゴードたちを縄で縛り上げながら、クリークは愉快そうに口元を歪めるのだった。
数分後、ゴードと妻が目覚める。
クリークによって拘束された4人は少し距離を離され、お互いが向かう形で座らされていた。
「な、なんということじゃ……た、頼む! 孫のシャーリーだけは見逃してやってくれ……!!」
「お、おじいちゃんっ!?」
懇願するゴードに対してクリークはケタケタと笑いだす。
「おいおい爺さんよぉ、まだ状況分かってないみたいだなぁ! 今からここに居る全員を拷問するんだよ」
「な、なんじゃと……?」
愕然とした表情を浮かべるゴード、その時ロンが声を荒げる。
「おい貴様! そんな真似が許されると思ってるのか!? この縄を解いて俺と勝負しろ!! 俺が勝ったらシャーリーは解放してもらう!!」
クリークは挑発の言葉を受け
「へぇ、試してみるか? 本気で勝てると思ってるなら相手してやるよ」
と言い放つと、彼の拘束具を外してやった。
「ロン! やめて!! こいつは異常よ!! 絶対に勝てないっ!」
シャーリーは必死に訴えるが、彼は聞く耳を持たない。
「大丈夫だよシャーリー……絶対に勝つから」
ロンはそう言い残し、指をポキポキと鳴らしているクリークの前に向かった。
「さて……さっきはいきなり襲いかかっちまったからな。ハンデとして最初の1発はお前に譲ってやるよ」
クリークの言葉に対し、ロンはニヤリと笑う。
「本気で言ってるのか? 遠慮なく武器を使うぜ、俺は」
「あぁ、いいぜ。ほら、かかってこいよ」
クリークは一切余裕を崩す様子を見せなかった。
「そうか……じゃあ遠慮なくやらせてもらうぞっ!!」
ロンはそう叫ぶと、クリークに向かって懐から取り出した銃を向ける。
「どうした? 早く撃ってみろよ」
クリークが挑発するように言うと同時にロンが発砲した。その弾は見事にクリークの頭部に命中する……が、彼は傷1つ負っていない。
クリークが無傷なのを見たロンは動揺を隠せず、2度3度……と連続して引き金を弾き続けた。
その全てが心臓、頭部などに正確に命中しているはずだったが、それでも彼の体には傷一つつかない。
「ハンデは1発って言ったろ? まぁどっちでもいいけどよ」
(ま、まさかこいつ……不死身なのか?)
ロンは目の前の現実に唖然とした表情を浮かべるが、すぐに気を取り直して次の行動に移った。
彼は銃を捨て、飛びかかるように殴りかかったのだ。そして見事に命中させることに成功する。
だがそれでも相手はビクともしていないようだ。
「おいおい、こんなへなちょこパンチじゃ痛くも痒くもねぇぞ?」
余裕の表情で言うクリークに対し、ロンは怒りに震えて反撃する。
だがそれも全く効いていないようだった。
「もう終わりか? じゃあ今度はこっちの番だな」
そう言ってクリークはロンの腕を掴むと、そのまま一本背負いをかましてみせた。
床に叩きつけられたロンは呻き声を上げながら蹲っている。
「ハハ! まだ終わらねぇぞ?」
そんな彼の腹部に強烈な蹴りを入れていくクリーク。
「ぐふっ……!」
彼は口から血を吐き出すもなんとか意識を保っている。しかしそんな彼の髪を鷲掴みにして無理やり立ち上がらせると、今度は顔面に拳を叩き込んだ。
「がはっ……!!」
そのまま床に転がされた彼に、今度は何度も蹴りを入れるクリーク。
「お願いっ! もうやめてっ!! ロンを殺さないでぇ!」
シャーリーは泣き叫びながら懇願するが、クリークは聞く耳を持たない。
「ったく、弱ぇじゃねぇか。この程度の力でよく俺をぶっ殺そうとか思ったな」
彼はそう言ってロンの首を掴むと、そのまま持ち上げて壁に押しつけた。そしてギリギリと力を込め始める。
「ぐあああっ!!」
ロンはもがき苦しむが、抜け出すことはできないようだ。そんな彼の様子をみたゴード達は絶望の表情を浮かべていた。
「お前に選択肢をくれてやる。このまま死ぬか、愛するそこの女と老人どもを拷問して殺すか。3人を殺したらお前は解放してやるよ」
クリークの言葉に、ロンはギリっと歯を食いしばる。そして絞り出すような声で言った。
「シャーリーだけは……助けてくれ……」
それに対し、彼はニヤリと笑うと手をパッと離した。地面に落とされたロンはゲホゲホと咳き込みながら息を整えている。そんな彼にクリークは言った。
「クハッ! お前には2つの選択肢しか残ってないんだぜ?」
嘲笑うクリークだったが、その時外から騒がしい音が聞こえる。
サイレンの音のようだ。
「ちっ、警察か」
「ふん、ワシが念のために通報しておいたんじゃよ。さっさとワシらを始末せんかったのが悪かったなぁ。お前はお終いじゃ」
ゴードの言葉にクリークは肩をすくめる。
「なるほど、準備がいいな爺さん。仕方ねぇ、大人しく警察の連中に挨拶でもしてくるか……」
クリークはそう言うと、地下室の扉に手をかける。
「待てっ!!」
そんな彼の背後からロンが殴りかかるが、振り向きざまの裏拳を頬に食らい再び倒れることになった。
「雑魚が」
彼は冷たく言い放つと、そのまま地下室から出て行くのであった。
「お、おじいちゃん……これで助かるのね……?」
シャーリーが安心したように問いかけると、ゴードはふぅと一息ついてうなずく。
「あぁ、大げさに伝えてかなりの数の警察を呼び付けいているからな。いくらヤツでもそう簡単には逃げられんじゃろ」
「よかった……本当に良かった……」
シャーリーが安堵していると、ロンもゆっくりと立ち上がった。
そしてゴードに頭を下げる。
「ありがとうございます。ゴードさんのおかげで助かりましたよ」
「いやなに、孫の頼みじゃからな」
そんな2人の様子をみて、妻の方も優しく微笑むのだった。
上の方で銃声と爆発音が響き渡る。どうやら外でクリークと警察が交戦を始めたようだ。
「……始まったみたいですね。あとは警察が救助してくれるのを待つだけ……ぐっ……」
苦しそうに呻くロンをシャーリーは心配そうに見つめる。
少しの間続いていた銃声は、程なくして止んだ。
「終わったか……」
ゴードのつぶやきが終わるのと同時に、地下室の扉が開く音がした。
「すみません。どなたかいらっしゃいますか? 警察です」
警察と思われる男性の声と共に、階段を降りる音も大きくなる。
「安心してください、危険は去りました。もう大丈夫です」
警察の優しい声色に4人は安堵する。
しかしその声の主の姿が見えると彼らの表情は凍りついた。
「私以外はみーんな死んでしまいました」
そう告げたのは、クリークだった……。彼は警察の制服を身に纏い、顔には満面の笑みをたたえている。
「な、なぜお前がここに!?」
ゴードは驚きの声を上げる。そんな彼にクリークは淡々とした様子で答えた。
「あぁ? 聞こえなかったのか? 言ったろ、俺以外は全員死んだってよ」
「馬鹿な……!?」
4人は同時に同じ言葉をつぶやく。だがそれも無理のないことだろう。
彼らは警察が助けに来てくれると確信していた。しかし実際に現れたのはその警官を殺した本人なのだから……
「な、何人殺した? 何人殺したんだ!?」
ゴードが問いかけると、彼はニヤリと笑う。
「そんなもん、いちいち数えてねぇな。まぁ10人くらいだろうけどな」
「なっ……!」
4人は絶句する。予想を超える殺人の数に言葉も出ないようだ。
「さて、いい加減お前らも殺すか。ジジイとババアの殺害方法はお任せ、女は綺麗な状態のまま殺害、か……」
クリークの言葉に対して彼らは何も言い返せない。恐怖で体が硬直していた。
そんな彼らに構わず、彼は拳銃を取り出すと銃口を向けるのだった。
「何か言い残すことがある奴はいるか?聞くだけ聞いてやるよ」
「ま、待ってくれ……! 頼むから殺さないでくれ!」
ゴードは必死に命乞いをするが、クリークは冷たい視線を向ける。
「俺は頼まれた仕事はきっちりやる主義でね。お前らは確実に殺す。それじゃあな」
彼が引き金に指をかけたその時だった。
家の外で銃声が鳴ると同時に1人の男が部屋に入ってきたのである。その男は少し若い見た目の男で、その手には拳銃を構えていた。
「なんだぁ? お前……」
訝しむクリークに対し、その青年は淡々とした様子で言う。
「警察だ。お前を逮捕する」
「……あぁ?」
青年の言葉にクリークは思わず首を傾げる。そんな彼に対し、青年はさらに言葉を続けた。
「殺人及び建造物破壊の現行犯だ。お前を逮捕して、裁判にかけられて牢屋に入れる」
「何言ってんだてめぇ?」
クリークは困惑した表情を浮かべるが、青年は構わず続けた。
「もう一度言うぞ、お前を逮捕する」
そう言って拳銃を向ける青年に対し、彼は溜め息をつくと口を開く。
「警察ねぇ……まぁいいぜ? だがな、お前に俺が捕まえられると思ってるのか?」
「あぁ、思っているさ」
青年の言葉に対し、クリークは鼻で笑うように答えたのだった。
次の瞬間、素早い射撃を頭部に受け、青年は即死していた。
先に銃を向けていたのは青年の方だったが、クリークのあまりの早撃ちにまったく反応することができなかった。
「な……!?」
4人はその光景に絶句する。
「さて、次はお前らの番だ。覚悟しろよ?」
そう言って銃を向けるクリークに対し、彼らは恐怖で体が硬直して動くことができなかった。
「ま、待ってくれ! 金か? 金ならいくらでもやる!」
そんなゴードの言葉を聞き、彼はニヤリと笑った。
「よぉし、そろそろ仕上げだ。この女だけは連れて行くぜ? 依頼通り綺麗な遺体じゃないといけないんでね」
クリークは縛られた状態のシャーリーを肩に担ぐ。
「きゃあああっ!!」
突然のことに悲鳴を上げるシャーリー。ロンは怒りの咆哮と共に、クリークに飛び掛かる……が、軽く躱されてしまい両足を撃たれてしまう。
「ぐあああっ!!」
ロンは床に倒れ込み、痛みに悶える。そんな彼を見下ろしながら、クリークは嘲笑うように言った。
「もう諦めろよ、色男」
「黙れっ!」
ロンが怒りの声を上げると同時に、彼の頭を踏みつけるクリーク。そしてそのままグリグリと踏み躙った。
「ぐっ……ううっ……」
苦しそうな声を上げるロンを見て満足したのか、彼は足をどけると今度は腹を蹴り上げた。その衝撃でロンは壁に激突し、意識を失う。
「んじゃあ全員で焼け死んでもらうか」
クリークはそう言ってライターを取り出すと、それを床に落とす。
そして床に落ちている木材に火がつくと、徐々にその火は広がっていき、やがてゴード達の方へと向かってきた。
「や、やめろおおぉぉ!!」
ゴードたちは必死に抵抗するものの、両手両足を縛られていては何もできなかった。
「お、お願い……! もうやめてっ!!」
シャーリーは涙を流しながら懇願するが、クリークは笑いながらそれを一蹴する。
「あぁ? やめるわけねぇだろ?」
そんなやり取りをしている間にも火はどんどんと広がっていき、やがてゴード達のいる部屋まで到達した。
「あ……ああ……」
ゴード達は絶望の声を上げる。もう逃げ場はない。
あとはただ焼かれるのを待つだけだ……そう思った時だった、突然家の扉が勢いよく開いたのだ。
そして数人の警察官が中に入ってくる。
「警察だ! 全員動くな!」
警官たちは銃を構えながらそう叫ぶ。
「ちっ、うるせぇカスどもが」
クリークは舌打ちすると、一瞬で全員を撃ち殺す。
「ハッ! バカなカスどもだ」
クリークは笑いながら振り返るとすでにゴードとその妻は炎に包まれ、息絶えていた。
そしてロンもまた意識を失ったまま、炎に包まれていたのだった。
「あ……あぁ……」
シャーリーはその光景に絶句するしかなかった。
「よし、次はお前の番だぜ? 綺麗に殺してくれって頼まれたからな」
彼はそう言いながら、シャーリーに視線を向ける。彼女は恐怖に震えながらも恨みを口にする。
「なんなのよ……なんなのよっ! あんたは!! どうしてこんなことをっ!!」
「別に理由なんてねぇよ。強いて言えば暇つぶしかな」
その言葉を聞いて彼女は愕然とする。
彼はただ自分の快楽のために人を殺したのだ。そのことに恐怖を感じると共に、怒りも湧いてきたのだった。
「……許さない……!絶対に殺してやる……!」
彼女は殺意を込めた目で睨みつけるが、それに対してクリークはニヤニヤと笑うだけだった。
「安心しろ、綺麗な状態であの世に送ってやるからよ」
彼はそう言いながら、彼女を担いでそのまま地下室の階段を上っていく。
「ぐっ……うぅ……」
彼女は抵抗しようとしたが、両手両足を縛られている状態ではどうすることもできなかった。
そのまま地下室を出ると、信じられない光景が広がっていた。
多くの警察官が血を流して息絶えて倒れているのだ。
シャーリーは絶句するしかなかった。
まさか警察官全員が殺されていたなんて……しかもその犯人が目の前にいるこの男なのだ。絶望するしかないだろう。
「さて、最後の仕上げだ」
クリークはそう言うと、シャーリーを縛ってあった縄を切り、彼女の腕を掴む。
「やだっ!やめてっ!!」
必死に抵抗するが、力で敵うはずもなくそのまま引きずられていくしかなかった。彼女は泣きながら助けを求める。
しかし誰も助ける者はいなかった……いや、いたのかもしれないが彼が殺しているせいで助けにいけなかったのだ。
「やだああぁぁ!!誰か助けてええぇぇ!!」
「うるせぇな。諦めろって。お前は死んだあと、その体を死体マニアのおっさんに売り飛ばされるのさ」
「い……や……」
「まぁ、恨むなら俺じゃなく依頼人か警察を恨むんだな。じゃあな」
彼はそう言って彼女の胸に手を当て、軽く押した。するとシャーリーは小さいうめき声と共に目を見開く。
そして力なく倒れ込む。すでに彼女の命は失われていた。
クリークは彼女の身体を抱えると、歩き出すのだった。
「ご苦労だった……。依頼人も大層喜んでいた。……だが、随分と派手に殺したようだな?」
「ルールは守ったんだから問題ないだろ?」
翌日、クリークは再び暗闇から聞こえてくる声と話をしていた。
「ああ……問題はない。気にしないでくれ。……君は随分と殺しが好きなようだ……ぜひ今後ともよい関係を築いていきたいものだ」
その言葉を聞くとクリークはニヤリと口元を釣り上げた。
「いや、別に殺しは好きじゃないんですけどね。まぁでも、それじゃあこれからもよろしく頼ますよ……ボス」
彼は小さく笑みを浮かべると、その場を離れるのだった……。