笹田法律事務所の受難2/2
男はゆっくりと立ち上がると、そのまま2人に近づいて来る。
「さて、そろそろ殺させてもらおうか」
男は近づいて来るなり、隆の足に思いきり蹴りを入れる。
隆は声を発する間もなく、その場に倒れ込んでしまう。
由紀はその光景を目の当たりにして、恐怖のあまり震え上がってしまっていた。
「さぁて、楠はこの女を幸せの絶頂から突き落として欲しいとご所望でなぁ。どうやって殺そうか」
男は由紀の方に近づくと、彼女の腕をつかむ。そしてそのまま壁際へと引っ張っていった。
「離してっ!!」
抵抗しようとする由紀だが、男の腕力には勝てずにずるずると引きずられていく。
2人の様子に隆も気付いていたが、足に力が入らず立ち上がることができない。
(くそっ!)
隆は悔しさで歯噛みするしかなかった。
そんな隆の思いとは裏腹に、男は由紀を壁に押さえつける。
「いやぁっ!」
恐怖に顔を歪ませる由紀。
その時だった。
「……はは、本当にやってくれたんですね。嬉しいなぁ……」
と、周りの惨状に嬉しそうにしながら入ってきたのは楠信二郎だった。
「楠……お前っ!」
怒りを込めて睨み付ける隆。
しかし楠は全く動じた様子もなく、薄ら笑いを浮かべているだけだ。
「斉藤さん、こいつらのとどめは僕にやらせてくれませんか?」
楠は隆を無視するように、男に話しかけた。
「ああ、分かったよ。俺は金さえもらえればいいからな」
斉藤と呼ばれた男はそう言って由紀から手を離すと、そのまま出口に向かって歩いて行った。
「楠、どうしてこんなことを! 借金のせいか!? 逆恨みでこんなことをするなんて!」
隆は、楠に訴えかけるように叫ぶが、楠は全く反応しない。
「逆恨み? 何言ってるんです? あなたがあんなにしつこく取り立てをしなければ、僕は幸せでいられたんですよ?」
楠はゆっくりと隆に近づくと、しゃがみ込んで顔を近づけた。
そしてニヤリと笑う。
「僕はね、あなたたちを恨んでいるんですよ。僕から全てを奪ったあなた方を……。だから殺すんです。これは復讐なんですよ」
楠は先ほど足を蹴られて立ち上がれなくなっていた隆を、取り出したロープで縛り上げる。
「や、やめろっ!」
隆は抵抗しようとするが、思うように体に力が入らない。
そのまま足も縛られて身動きが取れなくなってしまった。
そんな隆の様子を楽しげに見ながら、楠はゆっくりと立ち上がった。
そして由紀の方に視線を移すと、彼女に向かって歩いていく。
「ひっ!」
由紀は恐怖に怯えながら後ずさった。しかしすぐに壁にぶつかってしまい逃げ場を失う。
そんな彼女の怯えた様子を楽しむようにしながら、楠は由紀の顎を掴むと自分の方を向かせた。
「あんたも随分と電話で高圧的な態度だったよね? あんたは法律の専門家でもなんでもない、ただの処理女だってのに。アンタの電話での威圧的な声、今でも覚えてるよ」
「あなたが返済をしなかったのが悪いんでしょ……! どうしてこんな……」
楠の口元は笑っていたものの、目は笑っていない。その異様な雰囲気に圧倒された由紀はそれ以上言葉を続けることができなかった。
「あんたらのおかげで俺は仕事も失って恋人にもフラれて、家族からも勘当されたんだ!」
楠はそう言うと由紀を思い切り突き飛ばした。
「きゃあっ!!」
由紀はそのまま床に倒れ込み、苦痛に顔を歪めた。
「楠……。なんでそこまでして……。やめてくれ……由紀には手を出すな……」
隆は苦しそうにしながら呟くように言った。
「言ったでしょ? 復讐だって」
そう言って笑う楠の笑顔はどこまでも不気味だった。
楠はゆっくりと由紀に近づいてゆくと、彼女を見下ろすように立った。
そして彼女の髪を掴んで引き寄せると、
「ほら、あの時みたいに偉そうな態度を取ってみなよ。見下してみなよ」
と、言いながら由紀の顔を平手打ちした。
「あぁっ! いやぁっ!!」
由紀の悲鳴を聞きながら楠は楽しそうに笑う。
「ほらどうしたの? ねぇ? 何とか言いなよ」
さらに何度も由紀の頬を叩く。
「や、やめて……もう、許して……」
由紀は涙を流しながら懇願したが、楠は全く聞く耳を持たない様子で手を止めようとしない。
「はは……。ダサいなぁ、もっと高いプライド持ってたんじゃないの?」
「もう、許してください……」
由紀の目からは涙が流れ落ちる。楠はそれを見て満足げに笑うと、隆の方を振り返る。
「笹田先生、今からアンタの一番大事なモノをぶっ壊す」
「やめろ……やめてくれ……」
隆は必死に叫ぶが、楠は由紀の顎をクイッと持ち上げた。
「はは、幸せな結婚式だね。家族や友人、同僚の死体の前で、そして愛する新郎の前で、アンタは今から犯されるんだ」
楠はそう言って由紀の首筋を舐める。そして今度は首筋に吸い付いた。
「いやぁっ!! いやああああっ!!」
由紀の絶叫が響き渡る。
「楠! やめろぉっっ! やめてくれぇぇぇ!!」
隆は涙を流しながら絶叫する。
しかし楠は全く気にせず、由紀を床に押し倒すと、馬乗りになった。
「ははは! ウェディングドレスの花嫁を、このまま犯してやったらどんな気分だろうねぇ」
「いやああっ! いやあぁぁっ!!」
由紀は抵抗するが楠の腕力には敵わない。
そのまま両手を押さえつけられてしまう。そして楠の手が胸の方へと伸びていった。
「さて、終わらないパーティー始めよ」
「やだっ! やめてぇっ!!」
予定通りの時間に帰って来ないことを不審に思った参列者の家族の通報を受けて、警察官が駆け付けた頃には、全てが終わっていた。
死体があちらこちらに転がる凄惨な光景に、対応した警察官たちも震え上がった。
花嫁のドレスは引き千切られて床に散らばっており、体中には暴力を受けた痕が残っている。
そして由紀の体は楠から受けた性的暴行によって、目を背けたくなるほど穢されていた。
彼女は目を見開いたまま、命を落としていた。
死因は首を強く絞められたことによる窒息死。
笹田隆は何度も刃物で刺されたことによる失血死。
彼はなぜか射精していた。
犯人の楠信二郎は、2人を殺害した後、自ら命を絶っていた。