原始時代から変わらぬ日本の釣り 科学的なルール作りを|【特集】魚も漁師も消えゆく日本 復活の方法はこれしかない[Column2]
四方を海に囲まれ、好漁場にも恵まれた日本。かつては、世界に冠たる水産大国だった。しかし日本の食卓を彩った魚は不漁が相次いでいる。魚の資源量が減少し続けているからだ。2020年12月、70年ぶりに漁業法が改正され、日本の漁業は「持続可能」を目指すべく舵を切ったかに見える。だが、日本の海が抱える問題は多い。突破口はあるのか。
日本の海で衰退しているのは漁業だけではなく、遊漁(釣り)も同様である。1998年のピークには約2020万人もいた釣り人が、2020年には約550万人まで減少している。その原因は多岐にわたるが、水産資源の減少により「釣れなくなった」ことが大きな理由として存在するのは確実だろう。
たとえば釣りの代表格であるクロマグロは、資源量の減少を受けて、先駆けて個別漁獲割当(IQ)が実施されている。その影響もあり、2021年6月に30㌔グラム以下のクロマグロは採捕禁止になり、同年8月には日本全国でサイズを問わず釣りが禁止されている。
水産庁によると、禁止の理由は「資源管理の実効性を確保するため」。だが現状の漁業者によるクロマグロ漁は、30㌔グラム以下の幼魚だけでなく、産卵期のマグロまで漁獲している。このような状況下で釣りだけを禁止する合理性は見当たらない。漁業者も釣り人も力を合わせ、科学的根拠に基づき資源管理を行い、魚を増やしていく必要がある。
もちろん、釣り人側にも改革は必要である。現状の釣りは、前述のクロマグロの例などを除けば規制が一切なく、いわば原始時代から実質何も変わっていないと言えるのだ。しかも、神奈川県のマダイの場合、釣りによって獲られる量が漁業の1.3~3倍に至っているようなケースもある。
この点はカナダや米国などの事例が参考になる。これらの国では魚種ごとに細かく規則が定められており、サイズリミット(体長制限)に満たなかったり、バッグリミット(匹数制限)を超えたりした魚は、全て海へ生きたままリリースしなければならない。
カナダ東海岸のプリンスエドワードアイランド州のクロマグロに至っては、そもそも釣り人による水揚げが認められておらず、海から引き揚げることなく全てリリースされている。ファイト(魚が釣り針にかかってから釣り上げるまでの魚との格闘)の回数や時間、釣り糸の太さ、釣り針は生分解性のものを使うことなど、リリース時のクロマグロの生存確率を上げるためのルールが数多くある。キャッチ・アンド・リリース時の死亡率を5.6%として計算し、漁獲可能量(TAC)から釣り人向けに枠が設定されている。
また、これらの規制を守らせるために、厳しい監視体制が敷かれている。釣果は24時間以内に当局に報告しなければならないし、海上では沿岸警備隊などにより厳重に監視されている。当局の監視艇やゴムボートが頻繁に現れ、規則を守っているかどうか臨時検査も行われる。船内には監視カメラが設置され、オブザーバーが乗船することもあるのだ。
これらの厳しい規則は米国でも基本的には同一だ。太平洋に面する西海岸では、適切な資源管理によりクロマグロの資源状態が良好なため、バッグリミットは1人につき1日2匹までと定められ、18年の釣りによる漁獲量は484㌧を記録している。21年に日本でクロマグロの釣りが禁止された際、水産庁が年間の釣り人による漁獲量として考えていた枠はたった20㌧だった。そもそもの管理方法とそれに伴う資源状態が、同じ太平洋でも日米では雲泥の差があるのだ。
さらに、米国では釣り人そのものがライセンス制である。このような厳しい規制の中でも、むしろ釣り人の人口は右肩上がりで、米国におけるフィッシングライセンス人口は19年には約4041万人に達し、米国内有数のレジャースポーツとなっている。その理由は何よりも、規則などの水産資源管理によって、資源量が良好なレベルで維持されているからだろう。
釣りの経済効果を測らぬ日本
漁業と共に科学的な管理を
釣りは、釣り人の宿泊費や飲食費などによってその地域の経済に潤いをもたらすという意味で、地方の有力な産業であるはずだ。水産庁によると、米国では海釣りによって年間約630億㌦(約7兆円)の経済効果が生まれている。一方、日本では残念ながら、釣りの全国的な経済効果が調査されたことすらない。あくまで釣りは漁業の邪魔者との認識が根強いと感じる。
11年に水産資源は「国民共通(共有)の財産」であると閣議決定され、その法制化が望まれている。国民共通の財産を扱うからには、野放図となっている釣りの現状を改め、資源を持続的に活用できるよう規則を設け、同時にその実効性を確保しなければならない。そして、それは漁業も同様だ。日本の海と漁村に再び賑わいが戻ることを願う。(構成・編集部 木寅雄斗)
出典:Wedge 2022年3月号
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