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〝プーチンの戦争〟の先にはどんな「出口」が待っているのか?|【特集】プーチンによる戦争に世界は決して屈しない[Part2]

ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。

戦争という暴挙を選んだプーチン大統領の思想を紐解くとともに、これからどのような「戦後」を迎えるのかを考える。

 現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)、『「帝国」ロシアの地政学──「勢力圏」で読むユーラシア戦略』(東京堂出版)などの著者で、ロシアの安全保障政策、軍事政策を専門とする東京大学先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠氏に「ウクライナ戦争開始の背景」と、その「戦後」について聞いた。
話し手・小泉 悠
聞き手/構成・編集部(友森敏雄)

話し手・小泉 悠(Yu Koizumi)
東京大学先端科学技術研究センター 専任講師
1982年生まれ。早稲田大学社会科学部、同大学院政治学研究科修了。政治学修士。外務省専門分析員、ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所(IMEMO RAN)客員研究員などを経て現職。専門はロシアの軍事・安全保障。

編集部(以下、──)著書で指摘しているように、ロシアは旧ソ連地域を自らの「勢力圏」とし、そこでは優先的な影響力を持つと認識している。同時に、自らが秩序をつくるという意味での「大国(デルジャーヴァ)」という意識も持つ。これがウクライナ戦争に影響しているのか?

小泉 ロシアには「大国」を中心とする国際秩序観がある。「勢力圏」というのは、西欧は米国のシマであり、東欧はロシアのシマという認識だ。特徴的なのは、「勢力圏」と、「ルーシ(スラブ)の民は一つ」というナショナリズムが癒着していることだ。昨年7月にプーチン大統領は『ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について』という論文を発表したが、現状においても「ウクライナは西側にたぶらかされているから、ロシアが保護する必要がある」と、あたかも自分たちこそがスラブ民族の救世主であるかのごとく考えている。3月28日には「ロシア語の話者は皆ロシア人と認める」という法案がロシア議会に提出された。そうすると旧ソ連圏の多くの人はロシア人ということになってしまう。ロシアは領土・領域を、国際法で決められたものとは異なる独自の「広がり」として考えている。欧州で根付いた秩序は、広大なユーラシアの奥地の実態には合わなかったのかもしれない。

──「カラー革命」など、ロシアは米国(西側)が扇動して、情報戦争を仕掛けているという認識がある。しかし、西側にはロシアを攻撃しているという意識はない。そのため、ロシアは不信感を募らせて、今回の暴発に至ったように見える。一方で、そのようなロシアの「スタンス」を西側は見抜くことができなかったのか?

小泉 プーチン大統領は「権威主義」が必要であると考えているのに対して、西側は権威主義のようなものは、「いつか一掃されるべき残滓」と考えている。世界観が違うため、すれ違いが起こる。一方で、中国(習近平)は、話が通じる相手ということになる。

 「カラー革命」は西側が扇動したものであり、北大西洋条約機構(NATO)の拡大はロシアの「勢力圏」への侵食であるというのがロシアの見方だ。しかし、西側としては、……

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