「医療」から「介護」への転換期 〝高コスト体質〟からの脱却を|【特集】昭和を引きずる社会保障 崩壊防ぐ復活の処方箋[PART-3]
土居丈朗(慶應義塾大学経済学部教授)
政府が2018年5月に公表した将来見通しによれば、18年度の時点で年間約122兆円(国民1人当たり約96万円)にのぼる社会保障給付費が、25年度には約140兆円(国民1人当たり約114万円)に達するという。さらに、わが国で高齢者人口がピークを迎えるとされる40年度には約190兆円にまで跳ね上がることも示されている。
この社会保障給付費の将来見通しは、人口構成が目下の予想通りに今後推移し、わが国の社会保障制度が基本的には現行のまま維持されることを前提に試算している。当然ながら、高齢者人口、特に、75歳以上人口が増えれば、給付は増えることになる。
将来にわたって試算されたこの給付費は、もちろん誰かがその財源を負担しなければ支出できない。別の言い方をすれば、現行制度をほぼ維持しながら今後も給付を出し続けようとすれば、大きく伸びる分だけ国民全体の負担を増やす必要があるということだ。
現役世代(20~74歳)の人口は、22年から25年にかけて約107万人減り、26年から40年にかけて約125万人減るという見通しである。社会保障費を増やせば、それに合わせて国民の負担も増やさなければ帳尻が合わないにもかかわらず、負担の担い手の人口が減れば、現役世代1人当たりの負担額が増えてしまう。そうした給付増を野放しにしていては、社会保障制度は持続できなくなる。
国民負担の増加を抜本的に抑えるためには、社会保障制度の構造そのものにもメスを入れなければならない。特に、前掲の社会保障費の増加の主因は、医療と介護である。
高齢化が進む分だけ、医療と介護の給付が増えることは不可避である。しかし、ポイントはその構造にある。厚生労働省の「医療保険に関する基礎資料」や「介護給付費等実態調査」によれば、65~69歳の高齢者1人当たりに年間で、医療には約46万円費やされているのに対し、介護では約3万円である。75~79歳では同様に、医療には約77万円費やされているのに対し、介護では約16万円である。85~89歳でも、医療には約104万円費やされているのに対し、介護では約75万円である。
要するに、同じ世代の高齢者でも平均的にいえば、介護よりも医療に給付がより多く費やされているのだ。その背景には、大別して2つの要素がある。
1つは、介護よりも、医療にかかる高齢者の方が総じて不健康であり、その分給付費も増える、という点だ。病院に入院する身体状態よりも、医師の世話にならない形で要介護状態となる方が、より「健康」な状態だから、それだけ給付費を必要としない。医療にも介護にも世話にならない元気な高齢者が増えるほど、給付費が抑制できることは、言うまでもない。
もう1つの要素としては、露骨にいえば、介護より医療の方が「高コスト体質」となっていることが挙げられる。
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