元NATO軍最高司令官に聞く 世界の行方と日本の役割|【特集】プーチンによる戦争に世界は決して屈しない[Part1]
ロシアのウクライナ侵攻は長期戦の様相を呈し始め、ロシア軍による市民の虐殺も明らかになった。日本を含めた世界はロシアとの対峙を覚悟し、経済制裁をいっそう強めつつある。もはや「戦前」には戻れない。安全保障、エネルギー、経済……不可逆の変化と向き合わねばならない。これ以上、戦火を広げないために、世界は、そして日本は何をすべきなのか。
編集部(以下、──) なぜ、プーチン大統領はこのような暴挙に出たと思うか。
ジェイムズ・スタヴリディス(以下、JS) プーチン氏は戦術家としては優れているが、戦略家としては無能だ。アフガニスタンで西側諸国の対応が崩壊し、コロナ禍で世界が混乱し、米国の内政が激しく分断されているのを好機と見たのだ。しかし、勇敢なウクライナ人の抵抗の強さも、米国をはじめ西側全体の決意の固さも、双方を見誤った。
今回ロシアは軍事的に四つの深刻な失敗を犯した。第一はプーチン氏の配下の将軍たちが効果的な戦闘計画を立てることができなかったことだ。彼らはあまりに多くの方向に一度に攻撃をしかけ、力を分散し、ウクライナ軍を陵駕できなかった。第二は兵站(ロジスティックス)の拙劣さだ。極寒の中で主要部隊は食糧も、燃料も、防寒着もない貧相な準備だった。第三は、徴兵や予備役が多すぎて、戦闘任務を明確に認識している戦闘員が僅かだったことだ。 最後は腐敗だ。プーチン氏は弾薬や装備の不足について報告されていなかった。おそらく、さまざまなレベルで軍資金が「かすめ取られて」いたのだろう。
NATOはこれまで勢力圏を拡大してきたが……
この侵略を北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大のせいにするのは、絵空事だ。プーチン氏にとって、攻撃対象はロシアの西方にある脆弱な国ならどの国でもよかったのだろう。運よくNATOに加盟していた国々の守りは固かったが、NATOの加盟国でないウクライナは脆弱だった。ただそれだけのことだ。
最前線でロシアと対峙する
NATOが果たす役割とは?
──日本の読者に改めてNATOの存在意義を示してほしい。また、NATO加盟国やパートナーは、それぞれどのような役割や機能、責務を果たし、ロシアの脅威に対応しているのか。
JS NATOは純粋に防衛のための同盟であり、近隣諸国を攻撃したことはない。私は最高司令官として、NATOのあらゆる戦争計画を見て、研究して、許可を与えたが、それらの戦争計画は100%防衛的性質であった。
NATOは非常に強固な経済基盤を有し、ロシアとの比較では、軍事費で10対1、兵員数で4対1、戦闘機数で5対1、軍艦隻数で4対1の割合であり、全てにおいてロシアを圧倒している。
いかなる同盟でも、その本質は加盟諸国が直面する課題や負担をその諸国間で共有することにある。個別の国が対応するより加盟国全員で対処する方がはるかに大きな力になる。
例えば、ルーマニアは情報の処理と発信に高い技量を発揮する。ドイツはディーゼル潜水艦の運用において異例の能力を有し、英国とフランスは……
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