地元の人にも祝福される結婚式を
「アルベロベッロのプランはありますか?」
海外挙式の場所を決めるために来た手配会社で、なぜか口に出ていたこの地の名前。旅行好きのわたしは、いろいろな行きたいところの情報をわりと良くキャッチする。アルベロベッロもそのうちのひとつ。三角屋根のこびとのおうちのような建物がぽこぽこと建ち並ぶ、おとぎばなしの世界のような場所だ。この場所にくるまで忘れていたくらいだから、このときは本当に頭の片隅にあっただけの地名だった。
「ございますよ。アルベロベッロでしたら、他の場所よりも少しリーズナブルなお値段でご提案できます。ここには個人の方のチャペルがあって、その方や地元の方たちがお祝いにきてくれる、アットホームな雰囲気ですよ。」
___それだ!なにか足りないと思っていたのは、地元の人にも祝福されるような結婚式だ。
今回の結婚式の一番大事な目的は、母を喜ばせること。でも、せっかく海外で挙げるのに周りから浮いているというか、むりやり挙げましたみたいな結婚式はなんだか嫌だ。地元の人たちにも、この土地で、自分たちの住む街で結婚式をしてくれてありがとう、おめでとうと思ってもらえるような式にしたい。
「アルベロベッロからアマルフィの方に行くことも可能です。ちなみに一般的に知られているアマルフィの景色はポジターノという土地なので、近いのでどちらも行けますが、リゾート気分を味わうのであればポジターノに宿泊されるのがおすすめです。アマルフィの方が少し下町のような雰囲気になります。また、アルベロベッロからの経由地にマテーラという古代遺跡の街があるので、そこへも行かれたらいかがでしょうか。」
この方は、まるで旅行代理店のような方だ。結婚式というよりも旅の提案が上手である。結婚式の後に南イタリアのいろんな地を巡れるなんて、とても素敵な旅になりそうだ。
きょうは2018年のクリスマスイブ。結婚式の候補日は、航空券の値段、現地の気候などを考え、2019年の夏、お盆前あたり。海外挙式だとそこまで気にしないのだそうだが、大安の日も見て提案してくれた。ここから半年ちょっとの準備期間だ。一般的な花嫁さんたちからすると少し短めかもしれないが、なにせ招待する人数が限られているのだからこれくらいが妥当だろう。
ぱきっと晴れた南イタリアの青い空のもと、地元の人たちの祝福のまなざしを受けながら、白いウェディングドレスを着る。想像して自然と顔がほころんでしまう。
この日は具体的なプランの内容と金額を聞き、手配会社をあとにした。
「びっくりしたよ。アルベロベッロってどこ?って思った。でも、すごくいいプランに出逢えて良かったね。」
海外経験はわたしよりも豊富な夫だが、ヨーロッパはあまり詳しくないようだ。夫も地元の人に祝福される結婚式、というところにかなり魅かれたみたい。アルベロベッロ自体も良い場所だが、そのあとのポジターノやマテーラの方にも魅かれている。
「ただ、プランナーさんはこの人でいいのかなっていうのはちょっとあるよね。悪い人ではないんだけど、テンションというか、この人と一緒につくるぞ!みたいな感覚はないよね。」
そうなのだ。夫もそこは感づいていた。
とても的確な情報をくれるのだが、旅行の提案の方がメインで、それに少し事務的だ。これといって悪いところがあるわけではないのだが、この人だ!という感覚もない。今の感じだと、こちらからアイディアを出してそれができるかどうかを事務的に調べてもらう、という役割を担ってもらう形になるだろう。いわゆるウェディングプランナーのようなことは、あまり期待できないかもしれない。
そうなると、結局パッケージ化した結婚式になってしまうのではないだろうか。わたしたちの望む結婚式に、近づいてはいるがまだ遠い。
誰にも真似できない、わたしたちらしい結婚式。これを成し遂げるため、わたしの怒濤の7ヶ月が幕を開ける。
To be continued...