ネバー【三橋雄斗】
僕は、ネバネバ系の食べ物が好き。
オクラや山芋には目がなく、メカブやアカモクはわんこ蕎麦のように身体に入れ、納豆に関しては気が付いたら9パックくらい食べてしまう時がある。
しかし、こういった食べ物はすぐに食べ切ってしまう。気が付いたら皿に無い。とても儚い。
食べやすいが故、そして美味しすぎるが故。
中でもトップクラスに儚いのは、モロヘイヤ。
さっと茹でて、刻んで、お浸しにする。
ネバネバ系の中ではサラサラとしているほう。
スーっと口に入っていく。
食べているというより、飲んでいる。
一瞬で小鉢が空になるのだ。
その儚さは、夏の夜空に浮かぶ花火のよう。
もっと長く食べていたい。
それならば、量を多くするしかない。
そう思いたち、八百屋さんに行きモロヘイヤを3束購入した。
家に帰り、ひかりちゃんに、晩ごはんのときに出してくれるよう頼むと、
「そんなのバカのやることでしょう。面倒くさすぎる。自分でやってください。」
と言われてしまったので、
晩ごはん前に台所を間借りして、
鍋に大量のお湯を作り、3束のモロヘイヤをぶち込んだ。
大きめのザルにあげ、粗熱を取り、
まな板に載せて切り刻み、
大きめのボウルに入れて、完成。
ご飯が炊ける前に、晩酌としてビールとともにボウル入りモロヘイヤをかきこんだ。
スルスルと流れるように口に入っていく。
しかし、すぐに無くならない。これは、すごいことだ。
ビールを開けるのを忘れ、モロヘイヤをひたすらかきこみつづけた。
夢のような時間。『いつまでも続けばいいのに』が現実になった瞬間。幸せいっぱいだ。
しかし、世の中は甘くなかった。
ボウル半分ほど食べたところで、箸が止まってしまったのだ。
皆さんもお分かりだろう。
お腹がいっぱいになってしまったのだ。
夢に向かって突っ走るばかり、自分のお腹の許容量を忘れてしまっていた。
僕は愚かだ。冷静に考えればわかることなのに。そして過去にも同じ過ちをしたはずなのに。
やはり儚いものは儚いままがいい。
花火は一瞬だからキレイで、モロヘイヤも一瞬だから美味しい。
仕方なく余ったモロヘイヤをタッパに入れたところで、
炊飯器が『ピー!ピー!』と鳴った。
晩ごはんが出来上がったのだ。
折角ひかりちゃんが作ってくれたのに、「モロヘイヤでお腹いっぱいになっちゃった」とは口が裂けても言えず、
そのまま美味しい晩ごはんを頂く。
夜中、キチンとお腹を壊し、また一つ人生の教訓を得た。(そしてきっと忘れるだろう)
【相方へ】
それは頼もしいです。
東京から2時間弱かかりますので、3時に起きましょう。