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お年よりと絵本をひらく 第9回 「雨の日の絵本」中村柾子

「子どもたちだけではなく、お年よりにも、絵本を楽しんでもらえたら」元・保育士の中村柾子(なかむら・まさこ)さんは、週に一度、近所のデイサービスに通い、10人ほどの利用者のみなさんと絵本を楽しんできました。その記録を、連載でお届けしています。(編集部)*第1回は⇒こちら

絵本を選ぶ際、その季節ならではの作品を選びたいと思われる方は、多いのではありませんか。私も、梅雨時には、いちどは雨の絵本を読んでみたいと思います。雨降りをテーマにした絵本はたくさんありますが、ご年配のみなさんは、「雨」にどのような思いを持っているのでしょう。
 
ごく幼い子向けの絵本だけど……
ごく幼い子向けの絵本は、それ自体が優れていても、お年よりには物足りないだろうと、これまであまり選んできませんでした。でも、雨の思い出の中には、てるてる坊主や雨傘への思いがあるのでは?と考え、2、3歳の子たちの好きな『コッコさんとあめふり』を、あえて読む本に加えてみました。

『コッコさんとあめふり』
片山  健 さく・え 福音館書店

雨、雨……の毎日に、小さな女の子コッコさんは、てるてる坊主を作ります。でも、雨はやみません。そこで、てるてる坊主の中に手紙をいれたり、おもちゃを入れたりしますが、効き目はなし。仕方なくてるてる坊主を休ませてあげると、翌日は見事に天気になったというお話です。

『コッコさんとあめふり』より

読み終えると、てるてる坊主への懐かしさでしょうか、みなさんの顔に、自然に笑みがこぼれます。
「子どもの頃、遠足の前の日とかに、よく作ったわ」
と、話す人がいると、
「あら、私、いまでも作ってる」
という人もいて、大笑い。
「てるてる坊主を大きくするなんて、子どもらしいわね」
と、コッコさんはやさしく迎えられ、選書のときの心配も、杞憂(きゆう)に終わりました。

雨の思い出
次に『あまがさ』を読みました。モモは、3歳の誕生日に赤い長靴と青い傘をもらいます。でも、なかなか雨は降ってくれません。

『あまがさ』
やしま  たろう  作 福音館書店

待望の雨がやっと降った日、モモはお母さんとはじめて、手をつながずに一人で傘を差し、幼稚園に行きました。
本を閉じると、Sさんが言いました。
「学校に上がるとき、私も赤い傘を買ってもらった」 
Tさんは、娘たちに買った傘の話を思い出しました。
「何でもお揃(そろ)いでないとだめだったの。傘も合羽(かっぱ)もピンクだった。子どもって、一人で傘をさすのがこんなにうれしいのね」
と、モモの絵に目を細めていました。

『あまがさ』より

「只(ただ)ものじゃないわ」
もう1冊は、趣を変えて『おじさんのかさ』を選びました。この絵本の主人公は、一風変わったおじさんです。立派な傘を持っているけれど、傘が濡(ぬ)れるのが嫌で、雨の降る日には傘をささないのです。

『おじさんのかさ』 
佐野洋子  作・絵 講談社

ところが、傘にかかる雨音を「ポンポロロン」とか「ピッチャンチャン」と唄(うた)う子どもたちの声に心が動かされ、とうとう傘をさして雨の中を歩きだしました。

おじさんの変人ぶりに、みなさん半ば呆(あき)れ顔でしたが、帰宅したおじさんを迎える奥さんの言葉には、声をたてて笑いました。「あら、かさを さしたんですか、あめが ふっているのに」と、言うのですから。
「このおじさん、ちょっと変わってるけど、奥さんも只(ただ)ものじゃないわ」 
ユニークな人物像を評する姿に、さすが年輪、と感じ入りました。

子どもの頃がよみがえる
帰り際に、Sさんがポツリと漏らしました。
「こうして絵本を見ていると、子どもだった頃のことを思い出して、胸がきゅんとしてくる」 
絵本には子どもの頃をよみがえらせる力がある――それは、私も同じ思いでした。
 
雨の絵本は、次回にもということで、翌週はシュルヴィッツの『あめのひ』(現在品切れ)と、ピーター・スピアーの『雨、あめ』を持っていきました。『あめのひ』には、「この波は浮世絵を思わせるわ」と、絵の美しさに驚き、『雨、あめ』には、雨の中を駆け回る子どもに、「これが子どもよ」と、とても嬉しそうでした。いろいろな思い出のつまっている雨、絵本がそれを引き出してくれたようです。

著者プロフィール
中村柾子(なかむら・まさこ)
1944年、東京生まれ。青山学院女子短期大学児童教育科卒業。
10年間幼稚園に勤務後、保育士として26年間保育園で仕事をする。退職後、青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学などで非常勤講師を務める。
著書に評論『絵本はともだち』『絵本の本』(ともに福音館書店)がある。

第10回は、「夏の絵本」をお届け予定です。どうぞお楽しみに! *毎月20日公開予定


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