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夢を語る

目の前に大きな鉄板が横たわり
その上で食材が調理されるのを
いっぱいの好奇心で眺めていた
あの頃の自分はそこにはおらず
酒と冷菜を片手に世間話をする。

話の末路はちっとも面白くない。

飯が不味くなるとは正に。もし
違う時世だったら大声で罵倒し
下手したら殴り合いをしていた。

いい歳をして夢ばかり語るのは
そんなに悪いことなのだろうか。
自分が夢を捨てずにいることで
誰か傷つく人がいるというのか。

いない。いるわけがない。

と断言する強さが自分にはない。

「誰かを傷付ける」というのは
目の前にいる人を攻撃すること
だけに収まらないのではないか。
他人が他人の人生を好き勝手に
まっとうしているということに
傷付く人がいないとも限らない。

もっとも取り巻く人間にとって
いつまでも不安定でいることは
思わしくないというのは事実だ。

多大な後ろめたさを抱えながら
必死で平静を装っている状況に
やっと限界が訪れたように思う。

うるさい、黙れ。の強気なのに
ポロポロと弱弱しい涙が落ちる。
きっかけを求めていたみたいに
とめどなく溢れる涙が可笑しい。

現実はいつもひんやりした鉄板
あまりにも強固なので勝てない。

でも鉄板の上を踊る食材たちを
わくわくしながら待つあの時間
加熱調理されて変色する食材を
キラキラした目で見つめる時間
それを見失うのは嫌だと思った。

正しく暮らせなくてもいいから
もう少し夢をみることにするよ。

途中で諦めていった仲間たちの
希望だか絶望だかにならなきゃ。

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