昼の挨拶
洗面台のところで鏡を見ていた
高校生らしき人に挨拶をされる。
慣れない挨拶に動揺してしまい
音にならない「こんにちは」が
マスクの内側で小さく消滅した。
社会人になってからというもの
完全に「こんにちは」を喪った。
職業的なこともあるとは思うが
とにかく朝も昼も夜も一切なく
「おはようございます」を使う。
そんな暮らしをしているせいか
咄嗟に挨拶文が出てこなかった。
もちろん見ず知らずの高校生に
声を掛けられる珍事に動揺して
言葉が出てこなかったのもある。
学生時代なら当たり前の挨拶も
長いこと使わなかったがために
使い方が分からなくなっている。
きっと毎日そんなことで溢れて
知らぬ間に大人に染まっていく。
振り返る勇気はなかったけれど
頂いたこんにちはを噛み締める。
爽やかでサラッとしていて甘い。
マスクの内側で口角がふやけて
自然と笑顔をつくり出している。