鬼舞う里
今日もわたしたちは愛知県の山の奥の奥にいる。
この山里には数百年前から続く「花祭」がある。わたしは同じ愛知県の名古屋で生まれ育ったけれど、この祭に訪れるまでは来たこともなかったしその名前も知らなかった。ほとんど長野県に近い天竜川中流域に、山の奥の奥だったからこそ守られてきたディープな祭が点在している。
花祭の一つの特徴は「鬼」が出てくること。
初めて訪れたとき、その光景に恋してしまった。確かに、真っ赤な鬼はそこにやって来て、人々はそれを受け入れていた。それまでわたしが知っていた鬼とは怖いもの、鬼は外!と追い払われるものだった。けれどここでは鬼はカミサマであり、自然の化身として表されているように感じる。とにかく、カッコイイ存在、みんなのヒーローとしてそこにいる。
子どもたちは鬼に憧れ、鬼の舞から真似しはじめる。そうして、長い長い花祭との関わりがはじまり、地域との関係性づくりがはじまる。一年の季節の営みがここに結実し、カミサマと人とが同じ空間で舞い遊ぶ一日が花祭。知れば知るほどもっと知りたくて、他の祭はほとんど行かずに毎年訪れ、今ではトワがこの地で舞わせていただいている。有り難いことだ。
面がずらりと並び、舞子が支度をする「鬼部屋」を覗き込んでいた3歳はあっという間に7歳。この先どれくらい、この山里と交流を続け、舞い続けるだろう?
今日も午前1時過ぎ、鬼が現れた途端に眠気はすっ飛び最前列へと潜り込む。その後はすぐ眠くなって車で寝て、朝ふらーっと起きてきたと思ったら赤味噌がたっぷり塗られた大根を振り回すキャラクターに追いかけ回され頬に味噌をたっぷり塗られた。
朝もやの中、鬼ではまったく泣かない子どもたちの泣き声が響きわたる。この世には不思議がいっぱいで、笑いがいっぱいなのだ。
愛知県北設楽郡東栄町布川
2016
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