たたかいのサーカス
2019年11月現在、トワが旅した国は13ヶ国。
今まででどこが一番楽しかった?と聞かれるたびに、今では大好きないとこたちが住む「ブラジル」と答えるが、その前までは必ず「メキシコ」と答えていた。
4〜6歳くらいの小さな男の子と言えば、力まかせで飛びかかってきて叩いたり蹴ったりしてきて、それがけっこう痛くてイヤだ、というイメージ。ただでさえ元気で力の強いトワもそうなったら…と、ヒーローもの、戦隊ものなどの注入は極力避けてきた。周りでウルトラマンやら仮面ライダーやらが流行っていようと、頑なに見せなかった。
「ルチャを見たから」
それが彼がメキシコを推す理由。ルチャとはメキシコのプロレス、ルチャ・リブレのことだ。初めてひとり旅をした国メキシコにトワを連れて来れたうれしさのあまり、なんの迷いもなく、メキシコシティで一番大きなルチャ・リブレの会場「アレナ・メヒコ」へ。こども用のマスクも着用、前から8列目くらいの席で観戦開始だ。
わたしも好きだから仕方ない。派手な入場シーン、メキシコ人たちの感情全開のおもしろおかしい声援とヤジの渦の中に身を投げる。リングの上ではマスクマンたちが、飛んだり跳ねたり回転したり、見事な空中殺法を披露しはじめた。わたしがハタチの頃にこのアレナ・メヒコで見た熟年レスラーもまだまだ現役で闘っている。ルチャドール人生は果てしなく長い。
我に返ってトワの方をチラッと見ると、マスクをおでこのあたりまでずり上げて真剣な眼差しでリングを見つめている。あ。やばい。やばいぞ。今までさんざんヒーローものを封印してきたのに、最初に見たそれが、ライヴの、ルチャ・リブレだなんて。
試合のあと、花道に残っていた人気ルチャドールのもとへ。ツーショットを撮ってもらい、その目はキラキラと輝き、ルチャ少年ここに誕生。
会場を出た彼からは「ルチャって、たたかいのサーカスみたい」という言葉。わたしに連れられて現代サーカスを見て来ている彼ならではの気づき。確かに、飛んだり跳ねたり、芸術に近いことを感じ取ってくれたことがうれしかった。彼の中ではサーカスとルチャが同じようなカテゴリに属する。共同生活を送り、息を合わせていくことで生まれるあの躍動感。こどもの頭の中は自由に、国境もジャンルも超えて意外なものを結びつけていく。そしてそれが、ものごとの真意を突いていたりしてね。
帰ってきてからも飛んだり跳ねたり叩いたり蹴ったり…今に至る。
Mexico City
2017
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