旅人の顔
ふと横を見るといつも、小さい旅人がそこにいる。
フランスの田舎町で、いつまで待ってもこない電車を待ちながら何度も駅員さんと話したりして慌ただしくするわたしの横で、水が入ったペットボトルを刺した自分のリュックを抱えてじっと座って前を向いていた5歳の彼を見て、こりゃ一丁前な旅人が仕上がったもんだ、と思った。
旅を重ねて6歳。
まもなく小学校にあがる。
ブラジル・サルヴァドールまで30時間以上。バックパッカー宿に一泊して目覚めた朝、
「かあちゃん、前の家がカラフルだよお!」
と、異国に来た感動を一言。
翌日の夜行バス、天の川が広がる星空を抜け内陸を目指す。寒い車内でも彼は爆睡し、途中停まったどこかのまちでふと外を見る。同じように旅する小さな女の子の姿を見つけ、
「あ、かわいい。」
7時間の夜行バスを降りて小さなバンに乗り換える。トイレに行って戻ったらもう満員。隣同士には座れない。誰か席代わってくれないかな〜と見回したけれど、
「おれここでいい。」
前後に座って1.5時間。アスファルトが敷かれたいつもの道路はもうない。砂ぼこりをもうもうとあげながら、ぐらんぐらん揺られながら進む。いとこたちの住むまちはもうすぐだ。
やっとここまで来れた。地球の裏側の奥の奥まで。
これまで一緒に11ヶ国を歩き、12ヶ国め。今までの蓄積がここに連れてきてくれた。
いつかひとりで旅したり、友達や恋人と旅するとき、このふたり旅の経験が糧になればいい。
旅人の自由な心を、かあちゃんはいま、きみに伝えているんだよ。
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