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Tinderやったらいつの間にか桃太郎になっていた話



 

どうしても彼女が欲しい。



もはや毎年の恒例になりつつあるクリスマスぼっちの自分が今年ももうそこまで迫り来ていて、僕は激しい渇望に駆られていた。

昔までは「クリスマスなんて一人でいいだろ。平日だし」などと言う全クリぼっち御用達の謳い文句で自分の心を抑え込んでいたが、毎年徐々に膨らんでいったその心が今年ついに爆発してしまった。

今は2021年の12月18日、タイムリミットはすぐそこまで来ている。

なんでもっと早くからこの問題に着手しなかったんだろうと言う後悔をする間もないまま、僕は衝動的にTinderをダウンロードしていた。

前々から存在は知っていたのだが、実は今回が初マッチングアプリである。

そんな僕は少し緊張しながら、Tinderの指示通りにアカウント作成を行った。

Tinderのプロフィール欄には自分の写真を載せる所がある。自分の顔に自信がない僕は、ネットで適当に拾ったイケメンにモザイクをかけて使おうかと一瞬考えたが、それだともし付き合ったとしてもその彼女に嘘を付いていたことになると思い、正直に自分の顔を4枚ほど載せた。

プロフィール欄も自分の身の丈を盛ることはせずに、冗長ではあるが誠意を込めた自己紹介文を載せた。

よし。準備は整った。

僕は画面に出てきた女性をかたっぱしからlikeしていった。

するとものの1分程度で、持っていたlikeを使い果たしてしまった。

出来ることはもう何もない。これで明日を待つだけだ。

僕はこれだけ時間と頭を使ってTinderをやったのに、一人もマッチしなかったらどうしようと少し不安になりながらも、ベッドに潜り明日を待つことにした。


そして、次の日。

結局朝まで寝れなかった僕は、昼の2時くらいに起床した。そして、起きてすぐにスマホを開いた。

すると、そこには

マッチングしました!

の文字が通知に表示されていた。


神よ、ありがとう。


気が動転してる僕はなぜか正座をしながらTinderを開いた。

恐る恐る画面を見ると、なんと、3人もマッチしていたのである!!

僕は寝起き史上最大のハイテンションになった。こんな嬉しいことがあるだろうか、いや、無い。なんて反語も飛び出す始末である...



ん?いや、ちょっと待てよ?


よくよく見てみると、僕のマッチした女の子は、プロフィール欄の写真が犬の娘と、ゴリラの娘と、アヒルの娘の3人であった。


その瞬間、僕の心は急激に萎えてしまった。


え?俺って人間とマッチ出来ないの?


てか犬、ゴリラ、アヒルとマッチって、
桃太郎か俺は。


あんなに時間をかけてプロフィール欄も書いたのに、俺は動物としかマッチ出来ないのか...

モテないやつはいくらあがいても、モテることは無いのか...

そう思ったら、僕の中に行き場の無い怒りがふつふつと沸き上がってきた。


僕はTinderをアンインストールして、カーテンで閉め切った部屋の中で一人、ポツリと呟いた。


あー、誰かタコ殴りにしてぇ。




桃太郎になろうとも、自分の心の中の鬼は退治出来ないものですね。


めでたしめでたし。

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