【イベントレポート】ゲーム依存から"やる気スイッチ"が入るまで
今回は、群馬県の共催・前橋市などの後援をいただきながら、We are Buddiesのひとつの特徴である「心の孤立を防ぐ他者とのつながりづくり」とゲーム依存をテーマとしたイベントを群馬県で行いました。
一見、ゲーム依存と心の孤立は無関係のようにも思えるかもしれませんが、何かに依存してしまう状態は、当事者が望んでその状況をつくりだしているものではなく、「何かに依存するしか選択肢がなくなってしまっている」という背景があります。そして、選択肢が狭まってしまう原因の一つには、当事者の孤立という問題があるのです。
そこで今回のイベントでは、ゲーム依存に陥る要因から回復までの道のりを当事者・当事者の親・臨床医の視点で話し合い、ゲーム依存についての理解を深めるほか、We are Buddiesでの具体例も交えながら、心の孤立のリスクがある子どもたちが、他者とどんな関わりがあるとゲーム依存に陥らずに済むのか。また陥ってしまった場合においても、どうすれば回復へと向かっていけるのかということを語り合いながら、考えていきました。
登壇者プロフィール
逃げ場としての依存
横田 ではまず、「ネット依存とはどういう状態のことなのか?」というのを児童・思春期精神科医の千村(ちむら)先生にお聞きしたいです。
千村先生 ゲーム依存や、ネット依存というものが一般的にどう捉えられているかということを整理をしたいと思って、資料を持ってきました。これは、ゲーム依存を診断するときに使う質問の一例です。
楽しい、あるいは満足するためにネットを使っていたはずが、使っている時間がだんだん長くなり、使うために嘘をついたり、使ってること自体に罪悪感を持つけれどもやめられないというのが依存の特徴です。
嗜癖(しへき)とも言いますが、快感や多幸感、わくわく、楽しさなどを追い求める行動が行きすぎてコントロールできなくなる状態のことを指し、健康、家族、社会的問題等を伴うとされています。ただ今日のゲーム依存のお話では、実はこういった内容とは全然違う文脈があるんだということをみなさんでお話しできればと思っています。
ゲーム依存の人はどんな日々を過ごしているのか。ゲーム依存にどう向き合ったら良いのか。今日はそういったことを学んでいければと思っています。
横田 私たち運営する側も1つの答えを準備しているわけではなく、一緒に学び、また気づきがあるような、そんな時間をつくっていきたいなと思います。子どものネットトラブル・ゲーム依存予防のための支援や講演会を行っている友里(ゆり)さんにも、ゲーム依存の説明をお願いできるでしょうか。
友里さん 何をもってゲーム依存かというのは決めすぎなくてもいいのかなと思いますが、 「ゲームをすることを本人がやめたいと思っているのにやめられない」というのは1つのボーダーラインではないかと。親がやめさせたいのにやめられないのがゲーム依存ではなく、子ども自身がやめたいと思っているのにやめられない状態。
あとは、「ご飯抜きだよ」「クリスマスプレゼントなしだよ!」くらいのことを言って無理矢理やめさせたり、そう言ったとしても、無視してやり続ける。ゲームを通してそんな親子関係になってくると、「これでいいの?やはり何か手を打った方がいいんじゃないか?」と、親としてもそわそわしちゃうんですよね。そんなところも含めて、今日はまるっと話を聞いてもらうといいのではと思ってます。
横田 実際にゲーム依存といっても、人によってイメージするものが様々だと思うのですが、ゲーム依存の当事者であった樹(いつき)さんはどうだったのでしょう。
樹さん 僕自身、ただ単にゲーム好きな一少年で、物心ついた頃からいろいろとゲームをやっていました。ピークになったのは、スマホが普及し始めたときです。自分が中学生のとき、親がスマホになってきたという時代だったので、親にスマホを貸してもらってゲームをしたり、YouTubeを観たり。
そこから親との取り決めを破ってしまって、深夜にスマホを開いて夜中遅くまでずっとゲームをしてしまったのがバレて、親と喧嘩をしたりしていました。
横田 なるほど。そこからのめり込んでいってしまったのは、なぜでしょう?
樹さん 中学から高校に進学するとき、自分の第一志望に合格することを条件に、スマホを買ってもらえることになりました。無事受かることはできたんですが、そこから高校生活はスマホ一色になってしまって。あまり大きな声では言えないんですけども、授業中もずっといじってしまうくらいになりました。
横田 触ってる時の自分はどういう気持ちだったとか、こんなことを本当はしてほしかったとか、何かあったのでしょうか?
樹さん そうですね。最初はゲームが好き、楽しいという気持ちだったのですが、大学に行ったときに、課題についていけなかったんですね。ゲームにのめり込んでしまったせいで、グループワークとかでも、人との接し方を忘れてしまっていて。それで、「課題やんなきゃ。でもわかんない…」と、モヤモヤする気持ちがずっと心の中で渦巻いてて、それがどんどん、どんどん大きくなって。
その嫌な気持ちを忘れるために、ゲームに逃げる。今振り返ってみると、ゲームの楽しさでモヤモヤの瞬間を塗り替えることで心をセーブしていたんだと思います。
横田 なるほど、塗り替えるみたいな感覚だったんですね。ちょっと千村先生にお聞きしたいのですが、ゲーム依存になる理由には、今の樹さんのような例は多いのでしょうか。
千村先生 大変多いですね。たとえば、私のクリニックに来るお子さんの中で、友達との関係があまりうまくいかない、あるいは学校で勉強がうまくいかなくなってしまった、第1志望に落ちて、第2、第3志望の学校に仕方なく入ったということが理由になって、ゲームにのめり込んでいくといったお子さんがいますね。
横田 なるほど、そうなんですね。ちなみにそのときの樹さんに、親御さんはどのように関わってくれていたのでしょうか。
樹さん 「ちょっとコントロールできない。もう何をやってもダメだ…」という言動があったように思います。でもその頃の自分は、「なんで自分の楽しみを奪うんだ!」という気持ちでした。
横田 そのときは、もう一生懸命ですもんね。ここで、ゲーム依存だった子どもの親でもありつつ、ゲーム依存について伝える側でもある友里さんにもお話をお聞きしたいです。
友里さん 当時、私の子どもは小学校1年生だったので、私が言ったことを聞かない、無視するなんていうことはなかったし、子どもがゲームをやめないなんてことはなかったんです。なので、子どもがゲーム依存になってしまった当時は、怒るよりも恐怖でした。
「どうなっちゃうんだろう……私はどうにもできない」どんどん、どんどん子どもが知らないところに行ってしまうような恐怖です。恐怖があるから、余計に真剣に怒るんです。その中でいくら言っても聞かないので、どんどんひどい言葉になったりとか、冷たく言い放ったり。
子どもは子どもで、やめられないことをわかってるから、悔やんでたり、「ああ、こんなにお母さんに言われてもやめられない僕は、ダメだ……」という感じで、自分を責めてたんだというのを後から聞きました。依存しているときというのは、親にとっても子にとっても、辛い期間ということは、みなさんにも知っていただきたいですね。
ゲームをしちゃダメと取り上げることと、好きなだけゲームをさせることって、一見真逆のように思えるかもしれないんですけど、根っこはたぶん同じなんですよね。両方とも突き放している。
当時は、押してみても引いてみてもダメだったつもりでいたけど、今となって未定は、結局やっていたことは、子どもをより傷つけたり、責めるばかりだったという思いがあって…子どもの事情や思いに、もう少し寄り添えたらよかったと思います。
横田 友里さんの場合は、子どものことを結局突き放していたんだということに、どうやって気づくようになったのでしょうか。
友里さん 話が少し逸れてしまうんですが、当時、私はアパートの不動産会社に勤めていて、賃貸借契約をするのがメインの仕事だったんですね。貸し借りの契約のプロ。わかりますか?スマホとかゲームも、貸し借りなんですよ。
親は、子どもにゲームをあげているつもりかもしれないですが、ネットの使用料は親が絶対に払ってるじゃないですか。だから、スマホやゲームの所有者は親です。貸す・借りるという意味では、不動産もスマホやゲームも同じだなと思って。
でも、お客さんに対して子どもに言うような言い方は絶対にしないですよね。もっと最初にルールをちゃんと決めるとか、なんでそういうことになっているのか理屈や理由を向こうが理解するまで説明するなと思いました。
そこから考え方を変えて、子どもと一緒にゲームをして、ゲームのことを教えてもらったり、やめようと思ってるのにやめられないのであれば、物理的にゲームを離すとか、いろんな作戦を試せるようになりました。
横田 私たちは、ついつい子どもには、絶対に大人同士でやらないことをやってしまっていたりすると思うので、視点が変わるのはすごく大きなことだったんじゃないかと、聞いていて思いました。
依存の反対は、人とのつながり
横田 ここまでは、どうゲームにのめり込んでいって、本人や周りがどういう気持ちだったかというところを聞きました。ここからは、どのように今のようなさまざまな活動へ参加していく”やる気スイッチ”が入った状態へ回復していったのか、教えてもらえますか?
樹さん 大学を辞めて実家のある群馬に帰ってきて、スマホから強制的に離れることができる病院に2ヶ月間入院しました。そこでスマホを毒抜きして、あらためて自分を見直すタイミングをもらえました。このとき、本当に自分がやりたいことや、人とのつながりを自分が求めていたということに気づいたんです。
横田 2ヶ月も自分を見つめ直すのは、なかなかない経験だと思いますが、2ヶ月間の最大の気づきはなんでしたか?
樹さん 入院中はスマホがないので、暇なんですよ。だから、他の一緒に入った子だったり、看護師さんとよく話してたんですが、そこで看護師さんにすごく良くしてもらって。
自分がそこで救われたからこそ、こんなふうに人と関わることができたらと思ったんです。だから、今度は恩送りするみたいに自分がそちら側の立場になりたいなと、足を踏み出すことができました。
横田 樹さんの場合は、入院したことが転機になりましたが、でも、じゃあ病院に行けばいいのかという問題でもないですよね。千村先生、いかがでしょうか。
千村先生 スマホやゲーム依存も、多くのお子さんは自分だってなりたくないと思っている。でも、学校に行っても楽しくないし、人と付き合っても面白くないし、親からはゲームをやめろって厳しく言われるし。そういう状況で、ゲームをやらないで過ごすのは、とても難しいと思うんです。
だから、ゲーム依存の状態から脱することができるようになるためには、そのお子さん自身が「ゲームに依存することを本当はやめたい」という気持ちが強まってくることがすごく大切です。そして、そのお子さんがゲームにのめり込んでるのではなくて、ゲームにのめり込むやむを得ない事情があるんだということを大人がわかってあげられること。周りの人の変化が、当事者の変化を後押ししてくれるようになると、きっとなんとかなるのではないかと思っています。
横田 ここまで聞いていて、ゲーム依存は、ゲームが原因ではないということに、ちょっとみなさんが気づいてきたところではないでしょうか。依存してしまう場合、ゲームは逃げ場になっていたり、それしか選択肢がなかったということでもあります。では反対に、ゲーム依存じゃない状態とは、なんでしょうか。
友里さん、頷かれていますがどうでしょう?
友里さん みなさん、逆にどう思われますかね?
横田 自分が自分らしくあること、自分の価値を自分が認めてるとか、自分が満たされてる状態であることが、「何か頼らなきゃ」とか、「そこに逃げなきゃ」じゃなく、自立していられるということに、つながってるような感じがしています。
樹さん ゲームとも程よい距離感で純粋に楽しめて、自分の人生もちゃんと過ごせているときが、ゲーム依存の反対じゃないかなと思いますね。
友里 ありがとうございます。ちなみに、私のように依存症予防の活動をしている人たちの間では、依存の反対は「人とのつながり」という言い方をします。
横田 人とのつながりですか。
千村先生 人とのつながりもあるし、ゲーム以外のものとのつながりもあるし、生活が多様化すると考えられるといいのかもしれないですね。
横田 苦しい状況から逃れるために、それしか頼ることができなかったというところから、人とのつながりとか、いろんな選択肢を持てるようになることが、自分を活かす道なのかなというのが見えてきた気がします。
最後に、今日のイベントのタイトルに”やる気スイッチ”という言葉が入ってると思うのですが、やる気スイッチがちゃんと入ってる状態になるというのは、一定の期間が必要なのかなと思いまして。
過去の自分を見たときに、どうやってやる気スイッチが入っている状態へたどり着いていったのかということを樹さんに聞きたいです。
樹さん 自分を振り返ってみて、空っぽだなと。そこから、何か経験すること、体験すること、飛び込むことが大事なのかなと思って、「死なない限りはやってみる」ことを心がけるようになりました(笑)
横田 振り切りましたね。
樹さん それで失敗したら失敗したでいいやって。今日も、「口が回らなくても死なないし」という感じで、貴重な経験をさせていただいています。そういったことが、豊かさや多様化につながって、今の自分になってるんじゃないかなと思います。
横田 ありがとうございます。ゲーム依存を嫌悪感を持って捉えるだけでなく、その先に何があるんだろう?その人に何があるんだろう?ということに、みんなで一緒にフォーカスできたところが、すごく良かったなと思います。
相手のことも、自分のことも大切にする
横田 ここからは、イベントのテーマでもある心の孤立についてより深めてまいります。どんな関わりがあると子どもたちをゲーム依存から救えるのか、ということをみなさんとお話を進めながら、考えていければと思います。
友里さん 子どもがゲーム依存になってしまったとき、自分の感情がコントロールできない経験を初めてしました。 それまで、あまり怒ったことがなかったのですが、子どもがゲームをし続けているときだけは、血管が切れちゃうぐらいイライラしてしまって。
違うものの見方ができなくて、 きついことをいっぱい言ってしまったなと。もっと寄り添うことができたら、きっと子どももそんなに傷つかずに済んだんじゃないかと、私は思ってるんですけれども。千村先生、いかがでしょうか。
千村先生 とても大切なことをおっしゃっていますね。お子さんのゲーム依存でも、不登校でも、お母さんは、お子さんのことが心配ですよね。自分の可愛い息子、娘がどうなってしまうのか。日々悩み、悲しみ、怒り、ときにはそれが昂って、子どもに手を上げてしまう人もいます。
でも、そんなお母さんを責めるのではなく、お母さん自身が辛い思いをしてるということを周りの人たちがしっかり理解してあげられるということも、子どもさんの成長にはとっても大切だと思っております。 お母さんを大切にするということが、子どもさんを大切にすることにもつながっていくのではないでしょうか。
友里さん 当時、自分を大切にするという気持ちが、私には抜けていました。さらに、親子関係も行き詰まっていたので、違う人の視点が大事だったんじゃないかなと、当時の私を振り返っても、今の活動をしていても非常に思います。このあたりは、まさしくWe are Buddiesの事例紹介がふさわしいと思うので、愛梨さんにバトンタッチしていいですか?
愛梨 ありがとうございます。We are Buddiesは、5歳から18歳の子どもを対象に、子どもと大人のボランティアをマッチングし、2人組のバディズとして、遊んだりお話をしたりしながら細く長くフラットな信頼関係を築いていくプログラムです。
私は、もともと福祉だったり教育だったり、そういったバックグラウンドというわけではなく、今も福祉の支援団体というよりは、そのお隣にある活動をやっている人だと思っています。
私たちは、保護者の方だけが子育てをするのではなく、先ほど友里さんもおっしゃっていたように、親御さんではない別の人間が子どもの人生や、その子どもを取り巻く環境に関わっていくようにすることで、 みんながちょっと力を抜けたり、優しい気持ちになれたりする社会につながるといいなと思いながら、活動しています。
不登校だったり、発達障害だったり、ゲーム依存だったりといった当事者は、周囲からそのレッテルを通して見られてしまうことも多いと思うんですけれども、そうではなく、その人自身を見ていくということを大切にしています。また、相手の子どもの心の中だけでなく、関わる大人側も、自分のことを大切にしながらやれるといいねということも話しています。
愛梨 事例も少しだけ紹介したいと思います。
2年前、小学校低学年だった男の子です。小さい頃に自閉症スペクトラムの診断を受けていたこともあり、学校に行かない選択をされていました。一時期は、ゲーム依存の診断を受けたときもあったと聞いています。
でも、おつなぎした相手の方は、たまたまアウトドアブランドで働いている方だったので、外遊びの楽しさや自然の美しさをみんなに伝えたい!という気持ちのある方で、当時は、家からほとんど出ず、ゲームだけをやってるようなお子さんとは、かなり対照的な性格でした。
最初は、お子さんのお家でゲームを一緒にするという形で始まりましたが、相手の方は断られても、すごい勢いでお子さんをアウトドアに誘っていて(笑)それがなんだか良かったのか、だんだん2人で出かけるようになりました。今、2年弱経つのですが、2人でお出かけもしてますし、お父さんと息子さんで釣りやサイクリングに行ったり、本人が農業に興味を持って、色々勉強し始めたり。そんな変化が起こっています。
これは本当にとあるバディズの一事例なので、何が良かったのかもよくわからないし、彼の人生はこれからも続いていくので、何が正解かというのもわからないですが、こんなふうに、親じゃない誰かが関わることによる世界の広がりがあるんだなと思っています。
横田 ありがとうございます。最近、子どもの心の孤立で、こういう傾向の人が増えてるという動向などはどうでしょうか。
愛梨 この活動については、発達障害の傾向がある子さんや、学校に行かない選択をしているお子さんの保護者の方からの問い合わせが多いです。
そのなかで、親子関係はすごく仲良しで、お家の中には安心安全が築かれているけれども、逆にそれ以外のつながりがほとんどないという状況の問い合わせは本当に多いと思います。つまり、今はいいんだけれども、子どものこれからの長い人生を考えたときに、もうちょっといろんな人が関わらないと、思春期も待っているし、孤立のリスクがあるのではないかと考えているご家庭が多いです。
横田 みんなで一緒に支えて育てていくという意味では、バディは、とても大きな存在なのかもしれないということを感じました。せっかくなので、ここで小川市長からも率直な感想をお聞かせいただけますか?
小川市長 今の社会において、孤立というのは、結構根深い話なのかなと感じながら聞いていました。ゲームは身近にあって、とても楽しいし、のめり込めるものなので、 ゲームしか選択肢がないと、きっと大人も子どもも誰でも依存しがちになってしまうものだと思います。
ただ、事例の紹介にもあったように、ゲーム以外の楽しいことや関われる人、連れ出してくれる人がいれば、人生が変わるのかなと思うと、やっぱり何とつながるかというのは非常に大事だなと感じました。
社会には孤立をしている家庭が増えてきていると思うので、親が仕事が忙しいとか、経済的な事情があって、そうしたくてしてるわけじゃなくても、子どもにYouTubeを観せて過ごさせるしかないこともあると思います。そうしたなかで、社会全体でどこに手を打っていくのかというのが大事だなと思いました。
相手の力を信じるということ
小川市長 樹さんに質問なのですが、ゲームにはまったときは、遊ぶ友達がいないからとかではなく、とにかくゲームが楽しいという感じだったのでしょうか?
樹さん 自分は、ちょっとコミュニケーションが苦手で友達が少ないと言うこともありましたし、ゲームがコミュニケーションツールでもあったんですね。ゲームのことであれば、自分なりに好きだったし、得意な部分もあったので、話すことができるという面もありました。
同世代とは、ゲームという趣味が通じていると話せるんですが、他の共通項を見つけるのがとても苦手で…でもその中で、一緒に入院した人や看護師さんは、自分にもある程度理解を持ってくれているので、いろいろ話すのも居心地が良かったです。
小川市長 ありがとうございます。そういう関係性をいろんなところでつくっていきたいなというのをあらためて感じました。
横田 リアルとオンラインでは、どう意識してつながりに行くかによって、それぞれ全然違う世界が広がっていくということを先ほど聞きながら感じたんですけれども、千村先生にもあらためて、バディのような存在の意義についてお伺いしたいです。
千村先生 まず1点目は、小川市長さんからもお話があったように、子どもさんが家庭と学校以外の自分の世界を持てることの意義は大きいと思います。私のクリニックに通ってきていた男の子がバディと一緒の時間を過ごすようになった後、お母さんが「自分の息子は、こんなに力がある子だったんだ」と感心していたことがあって。
最近は人とのつながりをネット上に求めることが増えていますが、ネット上のつながりだけではなく、楽しさとか辛さもすべてひっくるめて、リアルな世界での人との関わりがとても大切なのだと思います。
横田 全部のつながりがリアルである必要はないのかもしれませんが、やはり選択肢を広げる意味でも、リアルでの多様な学び、気づきが必要なのかもしれないですね。
当事者の保護者として、当時のことを思い起こしつつ、このあたりをどう考えるのか、友里さんのお気持ちの部分も含めてお聞かせいただけるでしょうか。
友里さん 親では難しいところのサポートをする人という意味で、あのときにバディのような存在がいたら、非常にいいかなと思いました。子どもがゲームにのめり込んでるときに、それ以上の楽しいものを提供することはなかなか難しくて、やはり段階があると思うんですね。
子どもが孤立せず、その子の存在、尊厳をちゃんと尊重してあげられる人がいるかどうか。それによって、「自分のことを大切にしてもらってる」と子どもたちが思ったときに初めて、樹さんのように、より良く生きようとか、 こんなんじゃ嫌だという思いが生まれるようになります。
その段階を踏むことが家庭内でできれば、それでもちろんいいですし、つながりが少ない時代ですから、We are Buddiesのような団体とつながるというのも選択肢のひとつなのではと思います。
横田 サポートをして、何かあっても受け止めるよという社会のセーフティーネットも大事ですが、依存症に陥る子がいたとしても、「大丈夫。あなたにも回復できる力がある」ということを信じてあげるのも、大事だなと思いながら聞いていました。樹さん、どうでしょう。
樹さん そうですね。入院したときに、看護師さんがいろいろと親身になって相談にのってくれたことは、大きな支えになったと思います。
横田 そんな樹さんもバディの子がいると思うんですが、心がけていることや、こんな感じで関わってるというのがあれば、ちょっと教えてください。
樹さん ゲームが共通点というのもあって、よく一緒にゲームで遊んでいるんですが、自分が大人なのでゲームに勝つんですよ。そのときに、勝っていいのかすごく悩んだ時期があって。
それを相手のお母さんに相談したら、「勝っていいんだよ」と言われました。やっぱり、手を抜いた結果で得た勝利と、大人側が本気を出したところで勝ったときに味わうものは、全然違うと。自分自身に偽りなく、勝たせてあげるみたいな気持ちもなく、フラットに接することが大事なのかなという気づきがありました。
小川市長 私も子どもたちと遊ぶ機会が結構あるんですが、「大人が本気で楽しむ姿を見せる」というのも大事じゃないかなと思っていて。大人だから我慢しなきゃいけないとかではなく、子どもたちの前で本気で大人が楽しんでる姿を見せていくと、いろんなことに子どもも興味持ってくれるんじゃないかなと。
なので、子どもも大人も、自分を大事にするとか楽しむというのは、大事なことだなと思います。
横田 本当にそうだなと思います。この会を通して、相手と同じように自分を大事にするということが、大切なキーワードのように感じています。ただ、いろんな立場の方がいる中で、それぞれができることも様々なように思っているので、みなさんの意見を聞かせていただきたいです。
友里さん 子どもの幸せを本当に願うなら、大人の幸せは絶対に必要なので、 子どもと関わる大人もそれ以外の人も、みんなが幸せになる、みんなが思い合えることが欠かせないと思います。今回、We are Buddiesのことをみなさんに知ってもらいたかった理由のひとつが、そこにあります。バディは、支援する側、される側に分断されがちな両者ともが、人生が豊かになる仕組みなんですね。
また、私がゲーム依存予防の授業を親子セミナーでやったときに、子どもたちにゲームのルールを守れなかったら、お父さん、お母さんにどうしてほしい?というのを質問すると、多くの子どもたちが、「ちゃんと言ってほしい」と言うんですよ。
でも、親御さんはちゃんと言ってますよね。それが伝わってないんです。ゲームに夢中になってるから聞こえてなかったり、いきなりガミガミ怒るから、「怒られている」という意識の方が優先してしまい、伝わっていなかった。だから、伝わる対話の重要性を知ってもらうことも、その一歩になるのかなと思っています。
小川市長 ゲーム依存とずれるかもしれないですが、今、子どもの権利を考えるために、子どもたち自身とワークショップで対話する機会があります。そこで、 中学生や高校生に話を聞くと、「大人にもっと信用してもらいたい」という子が多いんですね。
いろんなことが学校のルールで決まっているけど、もっと自分たちを信じてやりたいことをやらせてもらいたいとか、意見を聞いてほしいとか。なので、子どもに聞いてみるとか、子どもたちに考えてもらうとか、そういう機会をこれから私たち行政の立場で増やしていきたいなというのがあります。
また、そういう子どもたちの力を発揮するためには、失敗も成功も積み重ねていって、「自分はできるんだ」というふうに思うことが大事だと思うので、そういう機会を小さい頃から用意できるように仕組みをつくっていくのも、行政の仕事かなと。
実際にそういう場所は今もありますが、なかなかご家庭に伝えられてないこともあるので、できることをやっていきたいなと思ってます。
千村先生 一つ目は、親の夢を子どもで満たそうとしないこと。たとえばお母さんは子どもさんのことをとっても心配しています。その幸せになってほしいと思う気持ちはとても大切ですが、子どもは自分で成長する権利を持っていますから、親の望みを子どもで満たそうとしないことが重要だと思います。
二つ目は、子どもの力を信じること。たとえば、学校でトラブルがあったときにお話を聞いてみると、小学校低学年のお子さんであっても、何が起こったのか、何が良くなかったのか、反省すべきことは何か、主張したいことは何かをきちっと話をしてくれます。子どもの力を信じることが大切です。子どもの成長は子どもの権利であって、親の権利ではないということを心に留めていただきたいです。
愛梨 一歩積極的に人と関わってみるということをみんなができると、少し良い社会になっていくと思います。関係性が希薄になりつつある時代の中で、地域のつながりや、ご近所付き合いもなくなったりしていると思うんですが、千村先生も言ってくださってたみたいに、ちょっと不安そうな顔をしてる人に「どうしたの?」と聞いてみるとか。
それは、相手と自分の境界線を少し揺らがすことだと思うし、勇気がいるし、怖いことかもしれないけど、1歩相手に近づいてみる。そうすると、少し仲良くなれたり、見えなていなかったその人の姿が見えてきたり、それが相手にとって何か力になるようなものになったりするかもしれません。
そうやって、身近な人や自分のお友達とちょっと近くなってみることができるといいのかなと思いました。
樹さん 自分がゲーム依存から大人になりかけの、よくも悪くも中途半端な立場なので、こういう場を通して自分の当時の気持ちだったりを伝えられたらなと思いました。そうやって、各々がいろいろな経験をして、人との接し方の塩梅を自分の中で探っていく。そして、それを周囲の人がサポートしあえる。そういう社会ができていったら、すごくいいなと思います。
横田 今日はゲーム依存という切り口から、心の孤立について、私たちがどう向き合っていくかということを様々な立場で理解を深めていく時間になったのではないかなと思います。ありがとうございました。
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【We are Buddies って?】
子どもと大人がバディとなり、遊んだり話したりしながら、細く長い関係性を築きます。保護者の方だけが子育てを頑張るのではなく、多くの大人が関わり、登場人物みんなが力を抜いて、優しい気持ちになれる社会を目指し立ち上げました。
【参加に興味がある方へ】
お子さんの参加については、まずは info@wearebuddies.net までお問い合わせください。参加を検討いただいているタイミングでもOKです。東京(全域)+近郊、群馬、千葉県市原市、愛知県名古屋市、長野県長野市で活動をしています。
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