≪イベントレポート Vol.5≫双子など多胎育児のリアルについて
We are Buddies代表の加藤愛梨です。2021年1月より毎月開催しているWe are Buddiesのオンラインイベントですが、今回は「多胎育児」をテーマにし、イベントを開催いたしました。(双子や三つ子などの育児のことを、多胎育児と呼ぶそうです。)ゲストは、We are Buddiesに参加する小学校3年生の女の子の保護者/多胎育児中の黒須里恵さんと、双子の弟を持つ長女として育ち現在はバディとしてWe are Buddiesに参加している西角綾夏さんをお招きし、多胎家庭× We are Buddiesについてお話しいただきました。
ゲストご紹介
まずは、バディの西角綾夏さん。23歳女性。
2歳下の双子の弟2人は重度知的障害、自閉症、てんかんがあるそうで、双子の長女であり、障がいを持った子どもの「きょうだい児」として育ちました。現在は、教育哲学を専門に大学院で学びつつ、バディ相手の5歳の女の子と月に1、2度遊んでいます。We are Buddiesには、事務局メンバーとしてもかかわっています。西角さんのバディインタビューの記事はこちらよりお読みいただけます。
次に、多胎育児中の黒須里恵さん。
3歳男女の双子・小3女子の長女の子育てをしながら、渋谷ファクト副代表、そして関東多胎ネットの事務局メンバーとして、双子、年子、低体重児の子育てをサポートし合える仕組みを広めるために活動中という、とてもアクティブな方!社会福祉士でもありケースワーカーとして多くの児童とかかわっていたご経験もあります。
1日20回以上の授乳・おむつ替え
双子をまちで見かけると、「わあ、かわいい!」で思考が止まってしまう方が多いかと思います。しかし、特に乳幼児期、一人でも大変なのに、同時に二人いるって、どんな状況なのでしょう。リアルな実態をうかがってみました。
黒須さん:一人目の長女を育ててきたことで、少し自信があったのですが…一人目の育児のときに培った子育て経験を活かせない場面がたくさんありました。産んでみてわかった大変だったこと2つをまず共有しますね。
①授乳
退院して、家に帰ってきたら、1日20回以上の授乳とそれに伴うおむつ替えがあり、夜泣きなどもあるので、ものすごい睡眠不足でした。多胎児の場合、約6割が早期出産、役7割が低体重児でうまれてくるという結果があります。自分の場合は二人とも2,000g以上で生まれてきたので、出産後は同時に自宅に帰ることができましたが、双子の片方は超低体重児で入院したが片方は帰宅できたというシチュエーションもあるようで、その場合は、毎日搾乳した母乳を届けなきゃいけなかったり、そういった大変さもあるそうです。
②おでかけ
単体児のときは、ちょっとしたスーパーの買い物などであれば、抱っこ紐にいれて気軽に外出ができたのですが、双子となると、まず低体重なので、抱っこ紐に入れられるようになる時期も後ろ倒しになるし、入れられるようになっても、肩と腰が痛くて短時間しか利用できませんでした。ベビーカーでも困難はたくさんあり、双子用のベビーカーだと、幅が広いので、駅の改札が通らない、近くの小さなスーパーのレジも通過できない…「ネットショッピングでいいか」という気持ちになり、圧倒的に家に籠るようになりました。
多胎育児は虐待のリスクが高いというお話も聞いたことがありますが、そのロジックが少しわかったような気がします。物理的に外に出る機会が減ることで社会とのつながりが希薄化して孤独な環境になっていくのは、自然なことだと思いました。行政のサポートなども自治体によって充実の程度に差があったり、まだ完ぺきではないとのことで、そのことが、関東多胎ネットなどの活動に携わるモチベーションにもなったとのことでした。
双子の「きょうだい」のさみしさ
そんな中、We are Buddiesに参加されているのは、双子の当事者ではなく、その上にいる長女さん(小3)だと思います。どんな背景で参加することになったのでしょうか?
黒須さん:私たちの家庭では、双子が産まれてから、長女のために使ってあげられる時間が本当に少なくなってしまいました。私も夫も親戚が近くにおらず、夫婦だけで子育てをしているような状況だったこともあり、よく夫婦喧嘩もしていました。そんな様子を見てきた長女は、赤ちゃん返りもありましたし、さみしさを抱えていたんじゃないかと思います。そんな状況の中で、We are Buddiesの活動がはじまることを知り、まさに長女に必要なものだ!と思い、「ぜひ参加させてください!」と連絡をしました。
独り占めできる私だけのバディ
長女のYちゃんのバディのお相手は、バディを開始した当時は大学4年生で、現在は社会人一年目の、なおこさんです。研修などで東京を離れる期間もある中で、オフラインと、ZOOMなどのオンラインとを組み合わせて過ごしています。どんな二人に見えていますか?
黒須さん:オンラインでバディをやるときは、自分の部屋など、一人になれる空間を好んでなおこさんとお話ししていました。内容を親に聞かれたくないなどの気持ちがあるのかもしれません。たまにばれないように覗いてみたら(笑)、楽しそうにお話で盛り上がっていたりとか、一緒に歌をうたっていたり、ゲームをしていたり、踊っているときもありました!日程調整はいつも自分がするので、「明日なおこさんと話せるよ~」と言ったら、「やったー!!」と、いつもすごく喜んでいます。
ものづくりが好きなYちゃんなのですが、なおこさんに見せるために工作をしていたとのお話もきき、Yちゃんとなおこさんの二人が仲良しな様子が伝わってきますね。黒須さんから見て、We are Buddiesに参加したことで、Yちゃんにはどんな変化がありましたか?
バディに参加するまでは、複数の中の一人という位置づけの関係性しかなかったんですね。例えば、学校のクラスは大人数だし、家庭でも、きょうだい3人のうちの一人。そんな中、バディのなおこさんは、自分だけで独り占めできる私だけのバディという存在になっていたようです。どんなに頑張っても家庭の中だとわちゃわちゃしてしまうので、なおこさんがYちゃんのお話をじっくり聞いてくれることが、長女にとって、自分自身を肯定することや、安心につながっているんじゃないかなぁと思います。
また、長女にとっては、なおこさんとのかかわりが、人を信頼するという経験にもなったような気がします。あるとき、長女が通う学校の先生から聞いたのですが、長女は、お友達がいじめにあっていることや、家庭の中で自分自身が感じていることを、学校の先生に相談していたようなのです。その話を聞いたときに、「バディに参加してよかった」と思いました。
知らない人についていってはだめですよ~という教育がされる世の中になってきていて、自分で自分の身を守ることも大切だと思う一方で、人を信頼せずに生きていくことは難しいとも思います。そんな中、なおこさんに心をオープンにするという経験をしてきたことで、人を頼るという方法を知ったのかもしれません。
みんなにとって「世界が広がる」 という経験
なおこさんは、Yちゃんだけでなく、ご家族みなさんとかかわっているような印象がありました。黒須家全体における変化は、何かありましたか?
長女はもちろん、私も、双子たちも、そしてもしかしたらなおこさんも、お互いを知ることで、それまで知らなかった世界を知ることができたように思います。なおこさんは我が家にも遊びに来てくれたことがありますし、オンラインの時も双子たちが乱入するようなこともあり、双子たちもいつも「なおこさん!なおこさん!」と言っているのですが。(笑)たとえば私でいえば、普段生活していて、大学生の方と触れることなんて、一切ないんですよね。就活の話やらいろんなお話をきかせてもらったりして、そこには自分の知らない世界があり、それをなおこさんから聞けるのは、とっても嬉しいことでした。なおこさんも、「周りに子どもがいないので、黒須家とかかわれて新鮮でうれしい」というようなことをおっしゃっていました。
誰かと出会い、継続的にかかわっていくことで、お互いの見ている世界を共有したりしながら、それぞれが持つ世界が広がっていくようなことが起きているのかもしれません。
長女として、私が頑張らなきゃ
西角さんにもお話を伺いたいと思います。バディとして、事務局として、そして双子の弟を持つ長女として、いろんな立場でこの場に参加してくださっていますが、ふと共有したくなった気持ちがあったら教えてください。
西角さん:双子が産まれたとき、自分はまだ2歳くらいだったので、育児がどんな状況だったかはそんなに記憶がないのですが、授乳のお話などを今日うかがい、自分も含めて赤ちゃんが3人いるという状況って大変だっただろうなぁと、想像していました。
私自身はそこまで、さみしかったという明確な記憶はなかったのですが、今日のイベントの前に、黒須さんがお話しされていたYちゃんが学校の先生に相談していたというエピソードを聞いたとき、思わず涙が溢れてしてしまった、ということがありました。小さかった頃の自分が、家族みんなの笑顔が減っちゃった、お母さんが大変そう、自分ができることを探さなきゃ、そんなことを感じて生きていたという記憶が思い出され、それで涙が出てきたんだと思います。
マイノリティ家族のきょうだいケア
最後に、社会福祉士として多くのご家庭や児童とかかわりをもってきた黒須さんの視点からWe are Buddiesの活動をみたときに、どんな風に見えるか、また、社会のセーフティネットとしてどんな機能をになっていけそうか、を教えていただけたらと思います。
黒須さん:自治体のケースワーカー職員としていろんな困りごとを抱えている世帯とコミュニケーションをとり支援をするお仕事をしていたのですが、貧困やネグレクトの問題、制度のはざまにいて支援につなげたくても繋げられないという問題、いろいろ見てきました。特に、マイノリティ家族のきょうだいのケアについての支援は、制度から抜け落ちていると感じます。We are Buddiesの取り組みは、制度のはざまにいる子どもたちを救うような活動になるのではないかと思っています。
おわりに・寄付のおねがい
多胎育児のリアル、そしてその中でも双子をきょうだいにもつ子どもがさみしい思いをしていることなど、改めていろんなお話をうかがうことができ、マイノリティ育児をされている保護者の方やそのお子さんたちに、思いを馳せることができました。やさしい社会をつくるときに、最初のステップは「想像すること」だと思うので、参加者のみなさんにとっても何か届いたらいいなぁと思います。
また、We are Buddiesの活動は、個人の寄付・企業の寄付で成り立たせています。この活動に応援いただける方は、ウェブサイトの「寄付する」より、1,000円/月より応援いただくことができます。この活動を今後も継続していくため、ぜひ、応援よろしくお願いいたします!
WRITING:加藤愛梨