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SE業界の闇

刑事の佐藤は、システム会社「テクノリンク」のオフィスに足を踏み入れた。そこは、表向きは優良企業として知られるが、その裏で数々の不正がまことしやかに囁かれる場所だった。

「渡邊課長ですね。私は佐藤刑事です。少々、お話を伺いたいことがありまして。」

渡邊課長は緊張した面持ちで、佐藤刑事を応接室に案内した。「何かお手伝いできることがありますか?」

「最近、貴社についての苦情が相次いでいるんです。特に、納期詐欺の件で。」

渡邊課長の顔から笑みが消えた。「納期詐欺ですか?それは...」

「はい、クライアントに不可能な納期を提示し、無理やり納期を延ばすことで追加の費用を請求しているとの情報があります。どうですか?」

渡邊は視線を逸らし、少し考えるような仕草を見せた。「それは...プロジェクト管理の難しさもあるんです。予測が難しいこともありますし...」

「それだけではありません。残業代未払いの問題も。社員の皆さん、特に若手エンジニアたちは、サービス残業が常態化していると聞きました。」

「それは、仕事の性質上、どうしても...」

「仕事の性質?」佐藤刑事は資料を広げた。「これは、貴社で働いていた元従業員の証言です。明らかに、残業代が支払われていないと。ブラック企業と言われても仕方がないんじゃないですか?」

渡邊課長は額に汗をかき始めた。「その...」

「それに、コードの盗用。これは、貴社のプロジェクトで見つかったコードが、他社のものと酷似しているという報告もあります。貴社のエンジニアが、他社のソースコードを無断で流用している可能性が高いですね。」

渡邊課長は言葉を詰まらせた。「そんなことは...」

「そんなことはない、と言いたいところでしょうが、証拠があります。そして、このような行為が続く背景には、過酷な労働環境があるという話も聞いています。サービス残業が当たり前で、精神的に追い詰められたエンジニアが、手っ取り早く成果を出すためにコードを盗用する。ブラック企業と言われる所以ですね。」

渡邊課長は深く息を吐いた。「私も、会社の方針に全て納得しているわけではないんです。ただ、上から下される指示に従うしか...」

「それで、個々のエンジニアの健康やキャリアが犠牲になっている。納期詐欺、残業代未払い、コードの盗用、そしてサービス残業。これらが連鎖的に起こることで、SE業界の闇が深まっているんです。」

渡邊課長は肩を落とした。「私も、変えたいと思っていました。しかし、力が及ばなかった...」

「貴方が内部告発者になるチャンスです。協力していただければ、貴社の抱える問題を解決する一助になるかもしれません。どうしますか?」

渡邊課長はしばらく考え込んだ後、「...協力します。もう、この状況を変えたいです。」

その後、佐藤刑事の調査により、テクノリンクの不正が明るみに出た。渡邊課長の内部告発は、新たな規制や業界の自浄作用を促すきっかけとなった。しかし、それはまた、SE業界の闇を一つずつ、光に晒す始まりでもあった。


刑事の佐藤と協力することに決めた渡邊課長は、自分の選択に恐怖を感じていた。だが、その恐怖に立ち向かう勇気が必要だと、自分に言い聞かせていた。

「怖がるのは悪いことじゃねえ。先が見えねえのは怖えもんだ。普通なんだよ。でもな、大事なのは恐怖に立ち向かう勇気を持つことだ。」渡邊は心の中で呟いた。

佐藤刑事との会話が続く。

「渡邊さん、あなたの証言が貴社の問題を解決する手助けになることは間違いありません。しかし、それは同時に、あなた自身のキャリアにも影響を及ぼすかもしれません。怖いですよね?」

渡邊は頷いた。「はい、怖いです。でも、黙って見過ごすわけにはいかない。納期詐欺や残業代未払い、コードの盗用、そしてこのサービス残業が当たり前になってしまっている状況を変えるためには...私には勇気が必要です。」

佐藤は渡邊の決意を感じ取り、優しく言った。「その勇気が、多くの人の未来を変えるかもしれないんですよ。あなたの情報を元に、私たちはこの業界の闇を一つずつ明らかにします。ブラック企業という名の仮面を剥がして、正当な労働環境を取り戻すために。」

渡邊は資料を手渡しながら、「これは、私が集めた証拠です。納期詐欺の証拠や、残業代未払いの記録、他社のコードを無断で使った事例など、すべてここにあります。」

「これで、テクノリンクの真実が明るみに出るでしょう。あなたの勇気が、他の人々に希望を灯すことになるんです。」

渡邊は小さく笑った。「希望なんて、そう簡単には見つからないものです。でも、少なくとも、私が恐怖に立ち向かうことで、誰かが少しでも楽に生きられるなら、それで良いんです。」

その後、佐藤刑事は渡邊の提供した情報を基に捜査を進め、テクノリンクの不正行為が全国のニュースで報道された。社内調査が進み、多くの社員が正当な評価と待遇を得るようになった。

渡邊は自分の選択を後悔はしなかった。恐怖に立ち向かう勇気を持ったことで、彼はただ一人のSEから、業界改革の象徴へと変わっていた。そして、この経験は、業界全体に波及し、他の企業も自らの労働環境を見直すきっかけとなった。

「怖がること自体が悪いわけじゃない。先が見えない恐怖は誰しもある。でも、それを乗り越えようとする勇気こそが、人を進化させ、社会を変革する力になるんだ。」

そう語りながら、渡邊は新たな未来に向かって歩みを進めた。

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