【クリスマス編】日記29 書くことがないから記憶を捏造して思い出を書く
みなさんお久しぶりです。僕です。
月日が経つのは早いもので、もう年の瀬です。クリスマスから年末にかけてはイベントごとも多く、たのしいことがたくさんありますよね。
そんなわけで、僕も世俗の流行にあやかってウキウキワクワクとした年末を過ごしているわけです。
今回はその中の、クリスマスの思い出を日記に綴りましたので、皆さんとワクワクする気持ちを共有できたらなと思います!
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毎年毎年、僕にとってクリスマスの時期というのは苦行に耐えるようなものだったのです。そもそも日本人は宗教観が曖昧で、熱心に仏様や神様を信仰するわけでもないのが大半です。だから本来、キリストの生誕祭であるクリスマスというのは日本人の大多数にとっては関係のない行事なのです。
それなのに、世間は11月の下旬くらいからやれサンタだのケーキだの、クリスマスソングがどうだのと、気温が低くなるにつれてお祭りムードは盛り上がっていきます。それでいざ12/24になると、恋人と過ごすのが云々、はたまた家族と過ごすのが云々……と、まるでそうしない人は莫迦で哀れな存在であるというような雰囲気を醸し出すのです。この疎外感はこの時期以外にはなかなか味わえぬものです。
まあ単刀直入に言うと嫉妬です。大学生1年生の時に一人暮らしを始めてからというもの、一人には慣れたつもりでしたが、この時期だけは未だに慣れません。世間が僕を意図して疎外しているという被害妄想を抱くこともありました。
さて、そんなわけで今年もつまんねー季節がきたなあと思いながら、大学院での研究を続けていました。研究はすべてノートPCで行うことができるのですが、家にいてもなんだかやる気が起きず、わざわざ研究室に来て行うことが日課になっていました。
大学院での僕の専攻は天文学です。つまり、太陽とかブラックホールのことを研究しています。でも僕は太陽が好きではありません。夏は暑いし、冬は日が低くて眩しいからです。きっと女性の方にも太陽が嫌いだという方はいるかもしれません。紫外線はお肌の大敵ですからね。
研究が上手くいかなくてウンウン唸っていると、突然一件のLINEが飛んできました。見覚えのある名前でした。その名前を見た瞬間、僕は思わず椅子から飛び上がってしまったのです。周りにいた研究室の仲間たちから怪訝な視線が飛んできましたが、僕はそんなことはどうでもいいくらい興奮してしまいました。
白石千歳『少年。ひさしぶりだな。今日は空いているか? クリスマスデートだ』
それはあの先輩からの、クリスマスのデートの誘いだったのです。
白石千歳とは高校生の時の僕の先輩です。当時高校一年生だった僕は文芸部に入りました。先輩はその時高校三年生で、大変お世話になったのです。
卒業後、千歳先輩と連絡はちょこちょことしか取っていませんでした。といっても1年に1,2度程度です。疎遠になったと世間ではいうのかもしれません。
正直言って、先輩は美人でした。初めて文芸部の扉を開けた時の、あの心をとらえて離さないような印象の強さは、忘れることができなくらい強く残っています。
そんな先輩から、連絡が、しかも、寄りにもよって、クリスマスイブの、今日!!
僕は二つ返事で了承しました。ただ、気持ち悪がられないように極めて冷静に
『空いてますよ。ぜひ』
それからどたどたと、コンタクトレンズを入れて、髪を整えて、服装は……その日は微妙な服しか来ていなかったので、オシャレ好きな同期に頼んで(5000円で)貸してもらいました。この同期は研究室でよく寝泊まりをするので、服も置きっぱなしにしているのです。
その動機に指南してもらいながら、ひとまずデートに行っても大丈夫というような恰好に仕上げ、O駅の待ち合わせスポットまで向かいました。
雪が降っていました。天気予報では今日は晴れの予定でしたが、外れたみたいです。毎年クリスマスはカラッカラの晴れだったので、ホワイトクリスマスを見たのは生まれて初めてかもしれません。おそらくここ20年はなかったでしょう。
待ち合わせスポットは案の定、オシャレをした男女がつがいの片割れを待っています。今日は僕もその一人。この時点で、今朝までの恨めしい気持ちはどこへやらと、非常にウキウキとしていました。世俗にまみれることがこんなにも気持ちのいいものだとは。そんな心持でした。
「少年! 待たせたな」
思い出の遠くから語り掛けてくる声。一瞬で先輩と過ごした時間がよみがえります。声のした方に振り向くと、僕は卒倒しそうになりました。
そこにはあの先輩が、非常に破壊力の高い服で立っていたのです。
先輩の服装というと、黒のタートルネックに、OLが履くような細いズボン。その上に白のコートを着ています。その対比がシンプルながら美しく、先輩の方まで伸ばした艶やかな髪も相まって、全体としては洗練されたイメージを抱かせます。凛々しい顔は月日の経過を感じさせず、むしろより引き締まり、かっこよくなったように思われました。わずかに変わった点と言えば、耳にピアスを着けていることくらいでしょうか。雪の結晶のような形で、先輩にとてもよく似合っています。
僕はあまりの衝撃に言葉を出せずにいました。すると先輩は、なんと僕の腕に腕を巻き付けてきて
「よし、食事にでも行こう、少年」
と言いました。僕の心臓は高鳴り、どうしようもなくなってきました。
「はい」
僕はそれしか言えませんでした。
先輩が予約したという高そうな洋食屋で、お互いの近況の話になりました。
「少年は現在大学院生なのか。すごいじゃないか」
「いやいや、成り行きですよ。先輩の方がすごいです。国家公務員なんですよね?」
「ははは。まあね。公務員も仕事が多くて大変だ」
実を言うと、先輩はものすごいエリート街道を行ったのだそうです。高校卒業後東大に合格。主席で卒業し、『気象庁』に配属。その後25歳という若さで、トップにまで上り詰めたのだそう。これはコネなどは一切なく、学生のうちから気象に関する質のいい論文を発表し続け、世界的に実力が認められた結果です。そんな先輩が、なぜ急に僕に連絡してきたのかというと、曰く「『女よ、戦え』という言葉を思い出したから」だそうです。これはたぶん先輩の好きなフランスの哲学者ミシェル・ドゥ・ヴィニョンの言葉でしょう。先輩の影響で、僕もこの哲学者の著書を読んだので、この詩は一度目にした記憶がありました。
食事が終わって店を出るとまだ雪は止んでいませんでした。
「まだ雪が降っていますね。ホワイトクリスマスなんて、珍しいですね」
「そうだよ。だって、私がそうしたからな」
「えっ?」
「気象庁は日本の天気を管理しているんだ。だから、天気を操作することもできる。クリスマスは雪が降ったほうが雰囲気いいだろ?」
僕は啞然としてしまいました。なんてぶっとんだ考え方をする先輩なんだろう。
「とんでもないことをするんですね、先輩。だったらもっと夏を涼しくして、冬をあったかくしてくださいよ」
「それは私の一存では決められないよ。今日はクリスマスだから特別だ」
「なんですかそれ」
僕は思わず吹き出してしまいました。
「それに、私はこの寒さは嫌いではないよ。なぜなら」
「え?」
先輩は僕の手に手を重ね、そのまま握って、こちらを横目で見つめました。
「こうする理由ができるのでね」
はわわわわといった気持ちでした。胸は太鼓のように暴れだします。きっと顔は赤鬼のように紅潮していたことでしょう。
僕はこの先輩には、一生かかっても勝てないだろう。そう思わされる一日となったのでした。
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いかがでしたか? やっぱり先輩はすごいですね!
ちなみに、何度も言いますが、こんな先輩は存在しませんし、ミシェル・ドゥ・ヴィニョンなんて哲学者も存在しません。
また、気象庁は日本の天気を操作することはできません。
しかし、強く思えばその記憶が真実になるかもしれませんね!
今回の日記は、この思い出の続きになっています。ぜひこちらも読んでみてください!
それでは、ありがとうございました。
良いお年を。
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