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吸血鬼はここにいる

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#ミステリー

【中編小説】吸血鬼はここにいる6【完結】

【中編小説】吸血鬼はここにいる6【完結】

     6・家族

 朱音は母、民江の車椅子を押して、逗子の海岸を歩いていた。隣には年の割に老いた父、博もいる。
「こうして三人で歩くのは、あなたが徴兵される以前ぶりですね」
 民江が笑いながらそう言う。博は「そうだっけなぁ」と言ってのんびりと歩いている。ざぁざぁと打ち寄せる波の音色が海辺を満たしていた。他には誰もいなかった。
「この間旅行で来たところなんですよ。海岸の遠くの方に江ノ島と富士山が

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【中編小説】吸血鬼はここにいる5

     5・朱音

 神岡家火災から一週間後、朱音は町のはずれにある精神病院を訪れていた。母のいる病院よりも空気に重苦しさがあった。死の匂いはない。だけど淀んでいる。コンクリートが剥き出しの壁と床。健康である朱音ですら圧迫感があった。
 目的の病室に入る。扉は重厚だった。患者が暴れても逃げ出さないように作られているのだ。
「こんにちは」
「こんにちは。よくいらしてくださいました」
 ベッドから起

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【中編小説】吸血鬼はここにいる4

【中編小説】吸血鬼はここにいる4

     4・親子

  それは真夜中の事だった。旅先から帰って数日、普段通りの女中としての仕事を終え、朱音は自室で眠っていた。数日前の優子の部屋での出来事は尾を引いて、朱音をずっと夢心地な気分にさせていた。はっきりと覚えていることと言えば、昨日お凛が屋敷の中をぱたぱたと探検をしていたことくらいだった。神岡家に来て日が浅いから屋敷の中をよく知りたいと言っていたのを覚えている。
 今日も仕事を終えて

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【中編小説】吸血鬼はここにいる3

↓最初から

     3・優子

 三日間の休暇を終えて神岡家に戻っているとき、例の坂で変わった男がふらふらとしていた。背広を着ているが、よく見ると皺が寄っていてくたびれている。背中は曲がっていてだらしがなく見えてしまう。顔には皺が刻まれ、五十歳くらいに見えた。髪が薄くなっており、腹も出ている。右頬にある黒子が印象的だった。
 朱音がその男の横を通り過ぎようとすると「ちょっとすみません」と声を掛

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【中編小説】吸血鬼はここにいる2

【中編小説】吸血鬼はここにいる2

↓最初から

     2・父と母

 朱音は医者を目指していた。そして今も目指している。夜、眠る前の二時間くらいは医学部に入るための勉学に充てられていた。本棚には学校に通っていたころの教科書と医学書、そして今ではあまり読まなくなってしまった精神分析の本と文学雑誌が収まっている。
 朱音が高校を卒業してからもう二年と経っている。その二年はひたすらに神岡家のために働いた。生活をするために働かなくては

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【中編小説】吸血鬼はここにいる1

【中編小説】吸血鬼はここにいる1

     1・お凛

『あの坂の上のお屋敷には吸血鬼がいるらしい』
 そんな噂話が町の子供たちの間で流れていることは、そのお屋敷で働いている者であればだれでも知っていた。噂話がどこから生じたのかはわからないが、怪異の類の話は昔からあるものだと、お雪は考えていた。
 お雪は本名を若草朱音といって、この屋敷の令嬢である神岡優子とは幼いころからの知己の仲である。親元を離れ、神岡家で住み込みで働きだしてか

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