【IT小説】心に余白をつくる働き方
登場人物紹介
美咲(みさき)
年齢:25歳
職歴:新卒で大手IT企業に入社し、半年が経過。現在はフロントエンドエンジニアとしてWebアプリケーションの開発を担当。
性格:真面目で責任感が強い。どんなことでも全力で取り組むが、完璧主義な面があり、他人に頼ることが苦手。大輝(たいき)
年齢:28歳
職歴:中途採用で現職の会社に入社し、3年目。バックエンドエンジニアとして活躍する一方、社内ツール開発など効率化のための提案も積極的に行う。
性格:冷静で合理的。周囲の状況をよく観察してアドバイスをするが、本人は常にマイペース。
1章:「エラーが止まらない日々」
「またエラー...」
美咲の目の前の画面には、赤いエラーログがずらりと並んでいた。深夜に差し掛かるオフィスで、唯一明るいのは彼女のデスクライトとモニターの光だった。納期まであと3日。Reactで構築中のWebアプリケーションに、動作が不安定な箇所がいくつも見つかり、修正の目処が立たない。
「これ、いつまでに終わらせられる?」
昼間にリーダーから投げかけられた言葉が頭を離れない。答えた「今夜中に仕上げます」という言葉が、まるで呪いのように彼女を縛り付けていた。
「自分が頑張れば、何とかなる」
それが美咲のこれまでの信条だった。大学時代も、プロジェクトの遅れを一人で取り戻し、教授や仲間から高い評価を得た経験がある。しかし、社会人になってからは、同じ方法が通用しないことを薄々感じていた。それでも、誰かに頼ることに抵抗があり、自分の手で解決しようと背負い込んでしまう。
「原因が見つからない...」
スタックトレースを追い、Gitで過去のコミットを遡っても手がかりが見つからない。焦るほどコードの読み込みが浅くなり、頭の中が混乱していく。
デスクに突っ伏したその時、画面の右上に通知が浮かび上がった。大輝からのメッセージだった。
「まだ会社にいるのか?何か手伝えることがあれば言えよ」
大輝はチームの中でも一際落ち着いており、仕事中もどこか余裕を感じさせる存在だ。いつも定時になるとさっさと帰る彼を、正直、美咲は「仕事への責任感が薄いのでは?」と思っていた。しかし、彼が残した成果物の完成度の高さを見れば、それが誤解であることは明白だった。
「...今夜だけは助けてもらおうかな」
美咲は返信を打つべきか迷った。手伝ってもらえれば楽になるのは分かっているが、「自分で解決できない」という事実が、彼女にとって何よりも辛かった。
次の瞬間、机の上のスマホが振動した。大輝からの着信だった。
「お前、疲れてるだろ。いいから一回リフレッシュして、明日また考えろ。ミスが増えるのは疲れのせいだよ」
その声は、思いのほか優しく、何かが胸に響いた。
「でも、納期が...」
「誰も完璧を求めてない。『自分ができる最善』を出せば、それで十分だよ」
電話を切ったあと、美咲はぼんやりと考えた。果たして自分のこの働き方は正しいのだろうか?「頑張り続けること」が唯一の正解ではないのかもしれない。そんな気持ちが、初めて彼女の心に芽生えた。
2章:「強制シャットダウン」
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