おつり
「おつり、三百七円です」
コンビニで会計を済ませ、ふとレジの青年が差し出す手を見ると、あまりに無表情なその顔に驚いた。何か魂が抜けているような感じ。俺が受け取る前に、彼の目が一瞬俺を見て、「実はですね」と言う。無駄に小声だ。
「このおつり、ちょっと呪われてるんですよ」
俺は一瞬固まる。冗談かと思いきや、彼の目は真剣だ。呪われたおつりってなんだ。と思っている間に彼が続ける。
「今夜中に誰かに渡さないと、持った人が不幸になるとか、そんな噂があるんです。でも、お客さんには特別なオーラがあるので、きっと大丈夫だと思って」
なんだそれ。全く大丈夫じゃない感じしかしない。
しかし、渡された三百七円をじっと見つめると、妙な感じがした。何もかもが偶然な気もするが、彼の言葉が気になって仕方がない。試しに、家に戻っておつりを机に置いてみることにした。
数時間後、不思議なことに、おつりを眺めるうちに小さなラッキーがいくつか起こった。テレビでやってた懸賞に応募したら当たるし、ふと見た占いがピンポイントで良いことばかり言ってる。
気がつけば、翌朝には「あれ、本当に呪いだったのか?」と思うほど、妙に運が良くなっていた。あの青年に返そうか、もう少し持ってみるか――そんなことを考えながら、再びコンビニに足を運ぶ。
店のドアを開けた瞬間、青年はにやりと笑っていた。「おかえりなさい。運、良かったみたいですね?」
そう言って、彼はまた小声で囁く。「次のおつり、ちょっと強めの呪いかもしれませんよ?」