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夜の声

部屋の電気を消した。毎晩、彼はそのスイッチを押すと、どこからか聞こえてくる“声”に耳を傾けていた。声は一つではなかったが、彼にはそれが一つの意志のように感じられた。

「今日は、どうする?」声はいつも同じ質問を彼に投げかける。

「何もないよ」と答えると、声は遠ざかっていくように感じたが、返事をしない夜もあった。返事をしなかった夜には、何かが変わっていることがあった。小さな物音だったり、知らない番号からの不在着信だったり、机の上に置かれた覚えのない物だったり。それらは何でもないように見えたが、彼にとっては、その“声”との会話の続きのように思えた。

ある日、彼はその声に対して、試しに「今夜は違う場所で聞かせてくれ」と答えてみた。彼の部屋の中ではなく、知らない場所で声が聞こえるようにと、心の中で強く念じながら。

その晩、彼はいつも通りに眠りについた。しかし、夢の中で気づいたのは、彼が立っているのが見知らぬビルの屋上だったことだ。風が強く、目の前には都会の夜景が広がっている。そこにいるのは彼一人のはずだったが、背後に誰かの気配を感じた。

「今夜はどうする?」またしても声が聞こえたが、今回はすぐには答えず、しばらく沈黙した後、彼は小さくつぶやいた。

「…もう少し、ここにいたい」

それ以来、彼の部屋で聞こえていた“声”はぱったりと姿を消した。部屋のスイッチを押しても、もう誰も語りかけてはこない。しかし、時々、彼は夜の街を歩くとき、ふと耳を澄ませる。都会のざわめきの中で、微かに聞こえるかもしれない“声”を探しながら。

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