コンビニの空
夜勤のコンビニで、僕は缶コーヒーの賞味期限をチェックしていた。真夜中の3時。外は雨。
「いらっしゃいませ」
入ってきたのは、ずぶ濡れの高校生くらいの女の子。制服のスカートから雨が滴り落ちている。
温かい食べ物コーナーをしばらく見ていた彼女は、肉まんを二つ手に取ってレジに来た。
「これ、温めてもらえますか?」
「はい、少々お待ちください」
電子レンジに肉まんを入れる。チンという音が静かな店内に響く。
「お二つですか?」
「はい。一つは...猫用です」
レジ越しに彼女の目を見ると、少し照れくさそうに笑った。
「実は、この近くに野良猫がいて。毎晩、この時間に会いに来るんです。今日は雨だから、温かいものを...」
肉まんを受け取った彼女は、傘も差さずに駆けていった。店の外で、段ボールの下から黒猫が顔を出す。
次の日から、僕は夜勤の時間が待ち遠しくなった。彼女は来るだろうか。黒猫は今日も待っているだろうか。
一週間後。
「いらっしゃいませ」
今夜も雨。でも彼女の姿はない。黒猫はいつもの段ボールの下で雨宿りをしている。
背の高い男子高校生が入ってきて、肉まんを二つ買っていった。彼は少し照れくさそうに、
「一つは...あの子が毎日ごはんあげてた猫用です。今日は彼女、風邪で寝込んでるみたいで」
そう言って、どこかへ消えていった。
店の外で、黒猫が嬉しそうに肉まんをほおばる姿が見えた。
僕は思わず笑みがこぼれた。
夜勤の時計は、いつもと同じように進んでいく。
窓の外では、優しい雨が静かに降り続いていた。