病室バイロイト音楽祭
入院中、いちばん怖かったもの。
それは、注射でもMRIでもなく…
「夜」だった。
べつに、おばけが出るから、ではない。
つ、強がりなんかではない。
明日の朝、目覚めるだろうか、
考えないでいようとするけれど、ふいに頭をよぎる。
だから、消灯時刻とは、
心の中で祈るときでもある。
「明日も、無事に朝を迎えられますように」
祈りをもって、すぐに寝つくことができるかというと、
そうでもない。
だいたい、日中の活動量も知れている。
おのずと、寝つきはわるくなる。
そこで、活躍したのは、ラジオである。
眠りに落ちるまでずっと、そばにいてくれる。
毎年12月になると、NHK-FMで
「バイロイト音楽祭」の録音が放送される。
https://www.bayreuther-festspiele.de/
全編ドイツ語のオペラ。
しかも、ラジオだから、舞台上の様子はすべて自分の妄想の中にしかない。
それでも、寝つけないわたしには、ありがたい番組である。
当時は夜9時からの放送。
つまり、消灯時刻=開演時刻である。
そして、上演されるワーグナーの作品というのは、とにかく長い。
いちばん短い作品で、2時間半。
いちばん長い作品で、5時間ぐらい。。
夜9時にはじまって、終わるのは、午前2時だったりする。
うむ、最高。
冒頭に日本語でストーリーを説明してもらっているとはいえ、
全編、ドイツ直輸入のドイツ語、
そして、ドイツの森から飛び出してきたような音楽を聴いていると、
わたしは、いつしか、夢の中にいる。
すばらしい。
だが、なによりすばらしいのは、
夜中に目が覚めても、まだ、音楽が続いているということ。
ラジオは、わたしが眠りに落ちてもなお、
まじめに音楽を届けてくれている。
深夜の検温で目が覚めて、
寝ぼけながら聴く、
ドイツ直輸入サウンドのすばらしさは、
もう、どんな言葉を尽くしても、説明できない。
また、あの音楽に包まれる冬が訪れることを、
そして、それを大好きなわが家で聴けることを、
心待ちにしている。
***
今夏のバイロイト音楽祭は、新型コロナウイルス感染症の影響により、
中止されることが決定している。
状況が落ち着き、再び、音楽をたのしめる日がくることを祈っている。