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【究極野球技術:川相昌弘・守備編】守備は一日にしてならず。カギは「ヒザの角度」と「打球への入り方」

 堅実な守備を武器に、名手が集まるショートで実に6度のゴールデングラブ賞を獲得した川相昌弘さん。引退後は、中日の一軍内野守備・走塁コーチ、巨人の二軍監督、一軍ヘッドコーチなど、さまざまな立場で育成と強化に関わってきた。今年は阪神タイガースの一軍春季キャンプで臨時コーチを務め、失策数の多さが目立つ若手内野陣の指導にあたった。

 守備上達の極意はどこにあるのか。自身の経験談を交えながら、そのポイントを明かしてくれた。

取材・文=大利実

名手・篠塚和典から学んだ「ヒザの角度」

 高校時代はエースとして夏の甲子園に出場。本格的に内野を守るようになったのは、プロの世界に入ってからだ。コーチが手で転がす緩いゴロを、股を割って捕り、足を使って投げることを徹底的に繰り返し、“型”を身に付けていった。

 大きな転機が訪れたのは、3年目のグアムキャンプ。一軍キャンプに初めて抜擢され、先輩たちの守備を間近で見る機会に恵まれた。ひと際、柔らかく、美しい動きをしていたのがセカンドを守っていた篠塚利夫さんだった。

 どうして、あんなに簡単にゴロをさばけるのか──。

 一挙手一投足を見逃さないように、観察し続けるなかで気付いたことがある。

「篠塚さんは頭の位置が動かない。ボールを追いかけていくところから、捕球に入るまで、頭の位置がほとんど変わらない。つまりは、目線のぶれが少ない。なぜ、それができているかというと、ヒザの角度が一定で変わらないから。自分で真似をしてみると、バウンドに合わせやすくなりました」

 それまでよりもヒザを深く曲げる分、足の疲労は強かったが、守備の安定感は格段に増した。

 当然、ヒザを深く折ったままでは横の打球へのアプローチが遅れてしまう。打球を追うときには、ヒザの角度を多少は緩めることが必要になる。そのうえで、「追いつける!」とわかったときには、ヒザを曲げて、できるかぎり目線がぶれないように心がけた。

頭は動かさずに目でボールを捉える

 川相さんは、子どもたちからプロ野球選手まで、数えきれないほど多くの選手の守備をその目で見てきた。バウンドやゴロに対して、捕りやすいところまで自分の体を持っていくことができるか。これが、うまい選手とそうではない選手の違いだという。

「弾んでくるボールに対して、頭が上下して、ボールを追いかけてしまう選手は守備が苦手。ボールの動きに、自分を合わせようとしている。うまい選手になると、自分が主導になって、最後は自分から捕りにいく。頭は動かずに、自分の目だけでボールを捉えているので、ボールの山がよく見える。ヒザの角度を一定にしておくことで、目でボールを追いやすくなるはずです」

 実戦のなかで、川相さんが意識していたのは一歩目の出足だ。つま先側に重心を乗せて、どの方向にも動きやすい体勢を取った。

「バットとボールが当たるインパクトはもちろんですが、第一バウンドの勢いや場所をよく見るようにしていました。第一バウンドである程度、打球の予測はできますから。ここで立ち遅れると、どうしても打球に差されてしまう。たとえば、3ボールや送りバントが想定される場面でガツンと打たれると、反応が遅れるものです」

 常に、打球が飛んでくる準備をしておく。これは、少年野球でもプロ野球でも変わらぬ大切なポイントだ。

エンドランはシャッフルで対応

 ランナーの動きも注視しておかなければいけない。特に二遊間の動きが試されるのが、盗塁やヒットエンドランのときだ。

「一塁ランナーが走ったとわかった瞬間に、クロスオーバーで二塁ベースに入ろうとする内野手がいます。高校生はほとんどそうで、プロ野球選手にもいますね」

 ショートであれば、右足で地面を蹴り、左足を追い越すように一歩目を踏み出す動きだ。これでは、三遊間に飛んだときに完全に逆を突かれることになる。

「早く動きたくなる気持ちもわかりますが、第一優先は打者の動きです。打者が振ってくるのか、あるいは見逃すのか。ギリギリまで見ておく必要があるのです」

 川相さんはどのように対処していたのか。若いとき、須藤豊コーチに教わったことを引退するまで実践していたという。

「須藤さんから『シャッフル(※)を入れてから、クロスオーバーでベースカバーに入りなさい』と教わりました。ランナーが走ったとわかったら、シャッフルで二塁ベースに近づいて、打者が見逃しや空振りをしたあとにクロスオーバーに切り替える。シャッフルであれば、三遊間の打球にも対応することができます」

(※シャッフル=左に進む場合、右足から踏み切って足をクロスさせる動きではなく、ピョンピョンと跳ねるように進行していく動き。サッカーのゴールキーパーが行う「プレジャンプ」と呼ばれる踏み出す際の予備動作と目的が近い)

 それでも、二塁ベースから離れ過ぎていると、どうしてもベースカバーは遅くなる。相手の戦術を読みながら、守る位置を変えていた。

「仕掛けてきそうなときは、二塁ベースの近くを守るようにしていました。三遊間に飛んだら? もう仕方ないですね。全部を守ろうとするのは、どう考えても無理ですから」

 ある程度の割り切りも必要。二兎を追って、一兎も獲れないことだけは避けなければいけない。

グラブは下から上に使う

 春季キャンプで臨時コーチを務めた阪神タイガースであるが、守備のミスは今年も多いのが現状だ(9月13日時点でリーグワースト)。

「そう簡単には減らないですよ。地道に基本練習を繰り返していくことです。春のキャンプではハンドリング練習にも力を入れて、大山(悠輔)あたりはうまくなりましたよ」

 前から投げられたショートバウンドを、フォアハンドと逆シングルで「パ・パン!」と捕る。両ヒザ立ちの姿勢から始めて、グラブを下から上に使うことを体に染み込ませた。

「グラブを下に置いておくのは、ゴロ捕球の基本です。下にあれば上に持っていくことができますが、上にあるグラブを下げるのは難しい。うまい内野手ほど、グラブを下に置いた状態で打球を待っています」

 プロ入り後、グラブの使い方がうまくなったのが巨人の岡本和真だという。

「井端(弘和/コーチ)の教えもあって、グラブを早めに下げて、打球を待てるようになりました。特にサードの場合は強くて速い打球が多いので、グラブを下に着けておいたほうが捕れる確率が上がります」

 このときにグラブを下げようとして、重心まで低くしようとする選手がいるが、低すぎると今度は動きにくくなる。

「重心は高くても低くてもどちらでもいい。大事なのは、グラブがしっかりと下がっていること。メジャーリーガーを見ていると、お尻が高い位置にあって、グラブは下にある。あれでいいと思います。『低く構えなさい』という言葉をそのまま受けて、お尻まで下がっている選手がいますが、捕ったとしても次の一歩を踏み出しにくくなります」

 股関節の柔軟性によっても、構え方は違ってくる。川相さん曰く、大山は股関節が硬く、股を深く割って構えるのが難しいタイプ。一方で、ルーキーの佐藤輝明は股関節が柔らかく、股を割って低く構えることができるという。今は外野を守ることが多いが、岡本のような器用さもあり、守備のセンスは高いと見ている。

 ただし、ハンドリングやセンスだけでは長丁場のペナントレースを乗り切るのは難しい。基本の動きを繰り返し、プレーの精度と再現性を高める必要がある。

 守備は一日してならず。日々の反復練習の先に、上達の道が見えてくる。

(「打撃編」へつづく)



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