見出し画像

平和研究で東日本大震災に向き合う―「道しるべ」3.11までの半年間とこれから(前編)

[画像]東日本大震災の復興の象徴の一つ、ブルーインパルスの編隊飛行。津波により被災した松島基地で難を逃れた機体は東北の空を舞い、人々に勇気を与えた。(出典:航空自衛隊 松島基地HP フォトギャラリー
https://www.mod.go.jp/asdf/matsushima/katudou/gallery1/index.html(Accesed March 18th, 2021)  

 道しるべ代表の小山森生です!

 平和研究を実社会に応用する「研究所」である道しるべは、これまでメンバーと様々な記事を配信させていただきました。
 今回はこの半年余りのプロセスを総括します。国内では3月11日で発災から10年目を迎えた東日本大震災、海外ではアジア最大の難民問題であるロヒンギャ難民問題に平和研究の成果で向き合う、これからの歩みについてお知らせさせてください。

◆気づき① 平和研究のセオリーは、様々な社会課題に切り込める!

(以下、次回の後編)
◆気づき② テレワークでも、社会貢献活動ができる!
◆気づき③ オンラインで、「世界が御近所様」になった!


平和研究の成果で向き合う、東日本大震災

 平和学紛争解決学を中心とする平和研究という学問分野は、世界が悲惨な世界大戦への反省と核戦争への不安が交錯する1960年代に形を取り始めました。
 どうすれば戦争を避けられるのか、紛争はどのようなメカニズムで起きるのか―。平和を生み出す研究の蓄積は、戦争に留まらないあらゆる社会課題を分析する視点を提供してくれます。

 道しるべは平和研究の知見をもとに、スケールの大きな社会課題へアプローチする可能性を探り始めています。このコロナ禍の半年はオンラインを駆使した活動で、ミッションを達成する方法を実践してまいりました。

 新たな挑戦を決断するきっかけは、2月13日23時過ぎに襲い掛かった福島県沖地震でした。関東地方のメンバーの安否確認をした後は、10年目に差し掛かった東日本大震災の被災地のことで頭がいっぱいになってしまいました。

 翌日には、代表から東日本大震災のチャリティイベントキャンペーンを進める提案を組織全体に進め、全会一致で企画の準備に着手することになりました。

 道しるべでは対立とその原因を生む社会課題の解決に貢献するプロジェクトをAnother Track(もう1本の線路)と名付けています。その第1弾では、この東日本大震災に取り組んでまいります。

 これまで、道しるべは「平和のためのマーケティング」というコンセプトをもとに活動を設計してきました。マーケティングの手法を平和の実現に活用するこの理論が、トークイベントTurntableや社会貢献活動を応援する連載記事Turnoutのインスピレーションです。

【資料】平和のためのマーケティング概念図

[画像]広島県主催の「世界平和のための国際経済人会議」で2016年以来議題となり、株式会社Makaira藤井代表取締役がまとめた「平和のためのマーケティング」の概念。道しるべの現在の活動の理論的土台となっている。
(【参照】Slideshare「平和のためのマーケティング(沖縄政経懇話会21)」をもとに道しるべで作成 https://www.slideshare.net/KoFujii/peace-marketing-okinawatimes2019222final(accessed March 18th,2021))

 東日本大震災をテーマとするAnother Trackでは、今までの活動を組み合わせた「平和のためのマーケティング」のパッケージをお届けし、10年目以降の震災の記憶と向き合うキャンペーンを展開してまいります。

アジア最大級の難民問題への挑戦

  日本の社会課題に取り組むとともに、海外の平和を揺るがす問題にも挑んでまいります。

 昨年9月30日から、道しるべでは映画『タゴール・ソングス』の背景を伝えるTurnout「映画が開く、タゴール・ソングの100年」を連載してまいりました。在学中に魅了されたタゴールの歌の世界を伝えるべく奮闘された佐々木監督と、監督を支える映画制作陣の皆さまへの敬意を込めた連載記事でした。

 連載のプロセスは、メンバーが歌が物語る芸術の奥深さ、ベンガル地方・南アジア世界の底なしの魅力に触れる、まさに「歌の贈り物」に触れる時間でした。
 この連載は最終的に、現地に携わる団体を取り上げるなど現地の社会課題と向き合う予定でしたが、どのように舞台のベンガル地方に関わるべきか考えあぐねていました。

 代表が頭を抱える中、メンバーがぜひ取り組んでみたいと提案してくれたのがロヒンギャ難民問題でした。

[映像]ロヒンギャ難民問題を題材とした、国際平和映像祭(UFPFF)2019のグランプリ作品"The scars of genocide"。ロヒンギャ難民の難民生活の窮状と次なる武力紛争の兆候への警鐘が伝わる一作。
(【出典】UFPFF"The scars of genocide"https://www.youtube.com/watch?v=jEFpl0gwccY(accessed March 18th,2021))

 ロヒンギャは、ミャンマーで長らく国籍を与えられず軍事政権下で迫害されてきた、バングラデシュ国境に住むムスリム(イスラーム教徒)の集団名です。
 彼らは命からがら、隣国バングラデシュに難民として避難することとなりました。その数は延べ100万人余りと、アフガニスタン以東のアジアでは近年最大の難民問題です。

 ミャンマーはもちろん、避難先のバングラデシュでも国籍を付与されず、ロヒンギャ難民は今もバングラデシュ最大の難民キャンプ・コックスバザールで立ち往生する日々が続いています。
 100万人の生活は民間団体の支援で賄われてきましたが、国際社会の関心も2017年の危機発生から徐々に低下していると指摘されています。

 そのミャンマー本国で、民主化を遮るように21年2月に軍事政権によるクーデターが発生しました。折しもこの記事を投稿した3月18日は、ミャンマーでは「血の金曜日事件」として記憶される軍による学生デモ隊への発砲事件が起きた日でもあります。

 ロヒンギャ難民を問うことは、多民族国家であるミャンマーにおいて「国民とは誰か」を問うセンシティブな問題でもあります。道しるべはバングラデシュの難民キャンプの課題と向き合うとともに、難民の帰還先であるミャンマーの政治上の課題も読み解きながら、向かうべき方向性を見つめてまいります。

 Another Track第二弾では、現在ミャンマーでのクーデターで再び注目が詰まりつつあるロヒンギャ難民問題の解決の道筋をトークイベント、オンラインコンテンツで探ってまいります。第一弾と並行して用意を進めてまいりますので、今後の歩みにどうぞご注目ください!

メンバーでアップデートした、新たなミッション

 こうしたスケールの大きな問題は関係者の人数も膨大であり、小さな組織がテーマにするのはもっと成長してからにしようと長らく思っていました。
 それでもアクセルを踏んだのは、メンバーでチームワークを高めたことでプロジェクトを運営する基礎体力が高まったと実感できたからでした。

 そうした基礎体力の向上には、ミッションのアップデートも関わっていたのかもしれません。

 2年目の新たな体制を宣言してから半年の歩みを経て、道しるべは当初のミッションを現在の自分たちの考えに合ったものにアップデートすることにしました。そうして20年11月に生まれたミッションがこちらです。

【ミッション(2020年11月~)】 
平和への道のりを標し、一人ひとりの歩みを支える

画像2

 「道しるべ」とはどのようなものか、私たちが考える平和とはどのようなものか―。メンバーそれぞれで思いをブレストし、次の方向性が見えてきました。

【ミッションを形作る組織の哲学】
・平和とは結果ではなく、プロセスである
(M.K.ガンディーの「平和への道はない。平和こそが道なのだ」という言葉が象徴する哲学は、平和研究者や紛争解決の現場に受け継がれています)

・確かな道を示す存在でありたい
(道路標識のように単に道を示すだけでなく、1本の確かな平和へのプロセスを示す存在でありたい願いを込めています)

・一人ひとりが平和へのプロセスを歩むことを後押しする組織でありたい
(リーダーシップ論で注目されている、サーバント・リーダーシップに基づく発想です)

 こうした平和に関する哲学、組織への想いを胸に、平和へのプロセスを実装する組織の歩みは新たな段階へと進んでいきます。

ブルーインパルスに想いを込めて

 東日本大震災をテーマとするに当たり、私は復興の象徴となっていた航空自衛隊の曲技飛行隊ブルーインパルスを思い浮かべました。

 ブルーインパルスが駐屯する宮城県・松島基地は、3月11日の津波で一時は使用不可となりました。しかし、部隊は別の基地で難を逃れた機体で被災地支援の後に訓練を再開し、再び東北の空で華麗なアクロバット飛行を披露します。被災地に笑顔が戻ったと伝えられています。

 道しるべは本業を抱えた社会人・学生のボランティアにより運営される団体のため、投入できる資源には限りがあります。
 それでも、場所や境遇が違えど、他人の苦難に思いを馳せ、一緒により良い方向に進路を変える力があると信じるメンバーの集まりでもあります。

 東北の空を舞ったブルーインパルスのように、時間と場所の制約を潜り抜け、平和研究の知見を駆りながら、皆さまと平和な青空を見れるようメンバー一同精進してまいります!

 後編では、テレワークの活用で新たなステップへ進んだ道しるべのコロナ禍での気づきをお届けしてまいります。どうぞお楽しみに!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?