木造建築需要予測と実例 | 木でできた建物が都市を森へと変える日 | 第2回
第一回のnoteでは、カーボンニュートラルと建築の関係と、建物を木で作るメリットについて、以下の点をまとめました。
今回は、世界全体で木造建築への需要がどのようにして増えていくのか、そして海外の木造建築の実例を交えながら詳細に紹介していきたいと思います。
(流行りに便乗してサムネイルの絵はAIで生成したものです。)
木造建築への需要
エンジニアリングウッド
今後の世界規模の需要を知るにあたって、まずは木造建築に欠かせない木材に注目する必要があります。
木造建築で用いられる木材は、切った木をそのまま使うのではなく、「エンジニアリングウッド」を用いるのが一般的です。
エンジニアリングウッドとは、複数の木材を接着剤、釘やその他の方法で固定したものをさします。
エンジニアリングウッドは、製造の方法によって数種類ありますが、今回は、今後の木造建築を牽引すると言われるエンジニアリングウッドの一種であるCLTに注目します。
(この詳細は今後また別のブログで書きたいと思います。)
CLTとは、Cross Laminated Timberの略です。
CLT = Cross(交差)、Laminated(糊付け)、Timber(木材)と言う言葉が指す通り、木材を交差させながら接着して作られる素材です。
この加工を行うことで、天然の産物である木材は品質が平準化されるだけでなく、異なる方向から加わる力に対して耐性を持つようになります。
つまり、鉄筋コンクリートと同等の性能を持つ、建築材料になるのです。
高層木造には、このCLTが欠かせません。
つまり、CLTの需要量が、木造建築の需要そのものになります。
世界のCLT消費量予測
2021年、USDA Forest Service University of Washingtonの共著で、”Effects on Global Forests and Wood Product Markets of Increased Demand for Mass Timber” が公開されています。
レポートから、世界と各地域のCLT予測を見ることが可能です。
*ここではレポート内の中間的プランであるOptimisticを取り上げたいと思います。
木材の需要量は、m3(立方メートル)の単位で示され、図の表記は百万m3です。
■全世界の需要
木材の需要量は、m3(立方メートル)の単位で示され、図の表記は百万m3です。
2020⇒2040年の20年間で消費量は10倍以上に。
世界全体では年間9%のスピードで需要が拡大していくと予測されています。
これだけ木材需要が急速に高まっていく場合、既存の生産加工事業者では賄いきれなくなるため、生産能力への投資や、新しいプレーヤーの参入が見込まれます。
また、木材の単価上昇につながるとも考えられています。
国内の林業の問題として、管理コストが高いため手付かずの箇所が多くあります。商品としての価値が高まると、資源として管理するための経済的合理性が生まれ、新しいソリューションなども求められる時代になる可能性もあります。
木造建築の需要増によって、新しい産業の登場もぜひ注目したいところですね。
■ヨーロッパの需要
2020年時点では、CLT需要が最も高いのはヨーロッパで、全世界のおよそ80%を占めていました。
2020年〜2060年もヨーロッパは世界をリードしていくことが予測されており、年間5~6%ほどで需要が伸びていくと予測されています。
ヨーロッパの需要の高さには、いくつか原因が挙げられます。
まず、ドイツ/オーストリアは、エンジニアリングウッドのCLTが開発された国であり、1990年代から早くもCLT活用の取り組みが進められていました。
また、ヨーロッパは全域で環境意識が高く、政府の旗振りのもと、カーボンニュートラル達成の目標を掲げ、そこに向けて政策をとってきたことも大きな要因の一つです。
これにより、森林資源の有効活用のための規定や、木造高層関連の法整備も他国に先立って進められました。
木造建築(あるいはCLTの活用)においては、やはり政府の旗振りが非常に重要であることが言えます。
■北米(アメリカ・カナダ)の需要
一方で、北米は2020年時点ではヨーロッパの1/7ほどの規模ですが、今後20年間で年間14%という驚異的なスピードで需要が伸びていくと予測されています。
建築プランが発表されている高層木造はアメリカが最も多く、今後数年でヨーロッパと同等の市場へと成長することが予測されています。
カナダは世界の30%という莫大な森林資源を有しており、素材調達コストが低いです。
また、市場が育ってきたと見るや、一大産業化して育てていくのは、やはりアメリカの得意とするところで、ヨーロッパに追いつかんと、急速に法整備が進んでいるのも特徴です。
アメリカの建築(International Building Code、IBC)は2021年に見直され、18階層の建物まで、木造で建てられる準備が整いました。
■中国
中国の成長は、特に2040年以降で目覚ましく、成長速度が年間13%と予測されています。
中国では、政府による政策指導や、土地開発が非常に多く、木造建築への取り組みが始まれば、このリサーチが示す予測以上の速度で需要が伸びていく可能性もあるかもしれません。
■日本
残念ながらこのリサーチでは、予測に用いるデータの制限から日本は単独で計算されていません。
日本の現状として、世界有数の森林資源を誇っている一方で、活用率は非常に低いという特徴があります。
今後、官民連携による木造建築関連の取り組みがより進めば、日本の需要についての正確な予測が出るかもしれません。
ここまでが、木造建築の需要についてです。
続いて、木造高層建築に注目して、世界の現状を分析し、どの国が世界をリードしているかについてまとめていきます。
木造中高層建築の現状
これまで木造と言えば、低層建築や個人宅用であることが一般的でした。
技術や素材の進歩によって、中高層で商用ビルとしての使用に耐えうる、グレードの高い木造建築の時代が始まろうとしています。
その文脈において、現在すでに完成している、あるいは建築中・プラン中の木造高層は、新たな市場を開拓している先駆者的存在です。
今後誕生するであろう多くの建物の、ベンチマークに当たる存在になるため、とても注目に値します。
CTBUH (Council of the Tall Building and Urban Habitat) の”State of Tall Timber 2022”では、全世界を対象に8階建て以上の木造高層ビルに関するリサーチが行われ、各種統計が公開されています。
2022年時点で、8階建て以上の木造建築は、139棟あります。
この完成済みの部分に注目して、掘り下げていくといくつかの傾向が見られます。
現在はヨーロッパが中心。まもなく米国が追いつく可能性
建設中/完成済みの建物のみの分布を見てみると、ヨーロッパに71%が集中しており、ついで北米、そしてオーストラリアの順になります。
しかし、計画中のフェーズにある建物まで含めると、北米の強烈な追い上げがわかります。
まもなく、ヨーロッパと同じかそれ以上の影響力を持つ市場になる可能性があります。
木造高層は住居向けに最も採用されやすい
完成済みの建物がどのような用途で使用されているかに注目します。
現状は住居・ホテル用が最も高い割合を占めています。
この理由としては、木材は剥き出しにしても美しく、装飾的な役割を果たし、使用する人間にも良い影響が見込まれるためです。
いくつかのホテルでは、共有スペース、客室などの閉塞的な空間で木質素材をあえて露出させることで、使用者のストレスレベルを下げる効果を狙っています。
環境保全やカーボンニュートラルの観点に合わせて、意匠デザインの価値も見込むことが、木造構想建築の建築プランには必要であると言えます。
長くなってしまってので、実際の木造高層の事例については、次回の記事で取り上げたいと思います。