興梠慎三が今日絶対決めますから
2016年12月某日、私は埼玉スタジアムにいた。浦和レッズvs鹿島アントラーズのJ1優勝を決める大事な試合を見るために。私は地元が埼玉ということもあり、浦和レッズを応援。
当時は友達に誘われれば行く程度のライトなサポーターだった。その試合も友人と一緒に行き南ゴール裏で見ることとなった。
席に座ると横に座った初対面のお兄さんが話しかけて来た。顔はドカベンの丸亀に似ていた。
好きな選手はいるか?と尋ねられニワカサポな私は「うーん・・・興梠慎三ですかねェ・・・」と自信なさげに当時も浦和を代表する選手だった興梠慎三を答えた。
興梠慎三と答えた途端丸亀似のお兄さんが堰を切ったように喋りだした。
「数年前、鹿島に優勝を決められた試合で当時鹿島にいた興梠慎三にゴールを決められて優勝を見せつけられたんですよ!今日は逆に浦和の興梠慎三が鹿島相手にゴールを決めて浦和が優勝します!!!」
いきなり熱い思いを吐露され困惑したものの初対面の人間にここまで熱く話せるのはすごいと思った。余程浦和レッズのことが好きなのだろう。熱量に押され私は「あぁ・・・そうすね、そうなったら最高ッスね」と適当に返してしまう。
間もなく試合がはじまった。大声の応援歌の中、埼玉スタジアムは熱狂に包まれていく。横のお兄さんも応援歌を絶叫している。私も私の友人たちも必死に声を張り上げる。
試合開始10分くらいでお兄さんの予言どおり浦和のエース・興梠慎三がゴールを決める。
観客席は大歓声、周囲のサポーター同士でハイタッチ。程なくして興梠慎三のチャントが歌われ埼玉スタジアムは熱狂を加速していく。
チャントが終わったとき、横のお兄さんがおもむろに立ち上がり周囲に向かって大声で叫んだ。
「数年前、鹿島に優勝を見せつけられたときは鹿島の興梠にゴールを決められました!だけど、今日は浦和の興梠がゴールを決めました!今日絶対に優勝します!絶対に出来ます!」
お兄さんの決意表明のような絶叫に周囲のサポーターも呼応し拍手と「おおー!!」という歓声が上がった。浦和レッズサポーターは他のクラブのサポーターと比べても熱いことでよく知られているが、ここまで熱くなれる人は少ないだろう。
その後、後半途中まで浦和レッズが優勢を保っていた。しかし、あっさりと同点弾を決められてからは簡単に点を決められ、終盤に勝ち越された。試合終了間際に浦和はそれまでやったこともない槙野智章をCFに置くパワープレーの奇策を講じるも無駄足に終わり試合終了。鹿島アントラーズに逆転負けを喫し優勝を逃した。
浦和レッズが劣勢になればなるほど丸亀似のお兄さんの背中がどんどん小さくなり、うなだれていったのが印象的だった。
優勝がかかっていた試合で宿敵鹿島アントラーズに負けるというのは随分浦和レッズサポーターに堪えたらしい。試合後、スタジアム内では喧嘩している若者が少なくとも3組、子供に八つ当たりしている親が少なくとも4人いた。
私は熱狂の最高潮からどん底に落とされた丸亀似のお兄さんを憂いながら帰路についた。
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