僕は彼とGMMTVフェスへ行く。
タイのGMMTV所属の俳優が大勢出演する大規模なファンイベント「GMMTV FAN FEST 2022 LIVE IN JAPAN」(以下ファンフェス)が、
8月27日、28日に開催される。
チケットは全席種が完売になる売れ行きだそうだ。
幸運にも先行抽選が当たり、チケットを手に入れることができた。
僕は今回のイベント参加に特別な思いを抱いている。
これから書くことは、GMMTVについてや出演者についてではなく、僕と、僕の大切な人についての個人的な話だ。
でも、参加される人にぜひ読んで欲しいな・・・と思っている。
8年前の悪夢
僕と彼は、付き合って10年以上になるゲイカップルだ。
僕が演劇や映画が好きなので、デートは映画や観劇をすることが多かった。
今から8年ほど前のある日、とある映画を見に行くことになった。
BL漫画が原作のその映画のことはよく知らなかったけど、あらすじや予告編を見て面白そうだと思った。彼も出演俳優が密かに気になっている人だったらしく、乗り気だった。
上映はシネコンではなくいわゆるミニシアター。
作品の性格上、観客のほとんどは女性だった。
ぶっちゃけ、僕と彼はかなり目立つ存在だった。
僕たちはなるべく目立たないように気をつけながら鑑賞した。
僕は家族にもカミングアウトしているし、いざというときゲイだと言うことがバレてもそれほど気にしないが、彼は家族にも職場にも言っていないどころか、見知らぬ他人にもゲイだと言うことを知られたくない・・・という人だ。だから、僕も一緒にいるときはできるだけ気をつけている(つもりだけど、彼から見たらひやひやする場面も多いみたい)
映画は面白く、当時BL漫画にまったく馴染みのなかった僕が興味を持つきっかけになった。彼も気に入って「DVDが出たら買おうかな」と言っていた(実際に買っていた)
問題は、そのあとの出来事だ。
SNSで映画の情報を検索していたら、見つけてしまったのだ。
「今日、〇〇映画館の×時の回を見に行ったら、本物のホモカップルらしい男2人組がいた!!」
それは、自己紹介に”腐女子”と書いてあるアカウントだった。
場所、時間、つぶやきと照らし合わせると、ほぼ間違いなく僕たちのことを言っていた。
僕は「腐女子とか言っておきながら”ホモ”とか言っちゃって、どういうつもり?失礼しちゃう」と思ったが、そのつぶやきを見てしまった彼は本当に目に見えて動揺していた。顔が青ざめていた。
それから、僕たちがいっしょにBL作品やゲイカップルが主人公の映画を見る機会はかなり減った。彼が難色を示すようになったのだ。
それだけ、彼のショックは大きかったのだろう。
そんなわけで、「2gether」も「チェリまほ」も「デュー」も「親愛なる君へ」も、別々に見た。「リスタートはただいまのあとで」は一緒に見たが、上映館が生活圏から離れていたことと、平日の朝というあまり人が来なさそうな時間帯だったから。「きのう何食べた?」は僕がゴリ押ししたから彼が折れて・・・といった感じだった。
タイBLとの出会い
コロナ禍がきっかけでタイBLと出会った僕も、はじめのころはとくにSNSなどで誰かとつながろうとは思っていなかった。
前述の出来事があったため、僕はぶっちゃけ「腐女子」に対してかなりネガティブな印象を持っていたからだ。彼女たちはBLは好きだけど、現実の同性愛者のことなんてどうでもいいと思ってる。ホモなんて呼ばれちゃったし。僕の大切な人を傷つけたし・・・と警戒していた。
タイBLを見ていくうちに「これはBLファンだけでなく、LGBTQ当事者に向けても明確にメッセージを込めて作られている」ということが分かってきた。出演俳優が積極的に当事者へのメッセージを発信したり、同性婚を含めた問題に声を上げていたり。
それは僕をものすごく勇気づけてくれるものだった。
そういう情報をもっともっと知りたい…と思い切ってタイ沼専用のSNSを始めることにした。
それからは幸運にもいい出会いに恵まれ、自分が素敵だと思った作品のファンには素敵な人がたくさんいることが分かってきた。作品のメッセージや俳優の発信をしっかり受け止めて自分たちも考えようとしたり、LGBTQの問題を身近なこととしてとらえていたり。
そして多くの出会いの中で、僕が「腐女子」とよく分からず括っていた人たちが、様々なセクシャリティ、様々な生活スタイル、様々な考え方、様々な悩みを抱えていることを知った。このことにも僕は救われた。
今回のファンフェスはタイの俳優を実際に見られるだけでなく、今までオンライン上でしかやり取りしたことがない「タイ沼」でつながってきた何人もの人が一堂に会する場でもあるのだ。
まさかの申し出
と、僕は盛り上がっていたが、SNSをしているわけでもない、僕と2人でBL映画を見に行くことすら消極的になっている彼が一緒に行くと言うとは全然期待していなかった。
彼も僕の勧めでタイBLドラマは何作か見ており、タイ俳優にも興味は持っている。でも、そもそも暑いのも人込みも苦手な人だ、僕のゴリ押しでもどうしようもないと、ハナから諦めていた。
それが、どういう風の吹き回しか「今回は一緒に行こうかな」との申し出があったのだ。
はっきりした理由は分からない(彼の推しの俳優が出ているということはあるだろうが最推しはいないし)けど、僕が今まで地道にタイBLの魅力や、SNSで出会ったファンの人たちの話を聞いていくうちに、彼の心のハードルが少しずつ下がっていったのではないか・・・そうだったら嬉しいなと思っている。
だから、僕は今、この文を書いている。
誰もが楽しめるフェスに
日本においてGMMTVは主に「BLドラマ」つまり「男性同士の恋愛」をテーマにした作品を中心に有名となった。
スタッフにはLGBTQ当事者もたくさんおり、当事者の視聴者に向けてのメッセージも盛り込まれているものがたくさんある。
つまり日本よりずっとマイノリティを描いてきたと言える。
たぶん日本でも、作品のそのようなメッセージによって救われた当事者のファンは少なくないと思う。
だからこそ、今回のファンフェスに参加する人には、ちょっとだけ考えて欲しい。自分の「当たり前」が「当たり前じゃない」と思っている人が、会場にいるのかもしれないってことを。
特別な何かをする必要はない。でも、自分の何気ないつぶやきで誰かが楽しめなくなってしまうことがあるんだと言うことを、頭の片隅に置いて欲しい。
「そんなの考えるのは息苦しい、窮屈だ」と思う人がいるかもしれない。
でも、その息苦しさは僕たちが日ごろ感じているものに近い。
そして、僕たちが見てきたタイBLの登場人物たちが直面するものでもある。
今回、僕と彼は、コソコソせずに全力でファンフェスを楽しみたいと思っている。何度も迷った末に決めた、コロナ禍になってから初めての大規模イベントの参加、そして彼と一緒に大好きなタイBL俳優に会えるという、とても大切なイベントだからだ。
そのためにできるかぎりのことがしたくて、こんな文章を書いている。
ウザいかもしれないけど、僕にとっては彼が傷つかないことが何よりも大切だから。
彼に言った「タイ沼の人たちは素敵な人がたくさんいるから、心配しないで大丈夫」という言葉が裏切られませんように。
誰もが楽しく参加できてすばらしいイベントになることを、心から願い楽しみにしています。