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映画と車が紡ぐ世界chapter157

ドラゴン・タトゥーの女:トヨタ ソアラ GZ20型 1991年式
The Girl with the Dragon Tattoo:Toyota Soarer GZ20 1991

高校時代の僕は いつも駐車場にいた
越境入学のおかげで 自宅の近くに友達がいない
キャッチボールの相手は 
正確なボールを返球してくれる 灰色の壁だった
そんな僕を いつも
ボンネットに腰かけながら マールボロを咥えた女性が見ていた
カノジョの肩には 小さな竜に見える赤い痣があった

「もっと 腕をしならせなきゃ・・・」
「足の踏ん張りが弱いな・・・」
僕の耳に 微かに届く微妙な声

お前に何がわかるんだ!
心が カチンと爆ぜる
ただ・・・ カノジョの指摘は どれも 的を得ていた

それに・・・
僕には カノジョのこと真正面で見る 勇気もなかった
真っ赤な唇は 
高校1年の僕にとって 刺激が強すぎた
仕方なく アドバイスを受け入れた僕
それでも ときおり 些細な反撃だけは行った

「タバコは 美容に良くないですよ
 それに GZ20のボンネットは ベンチじゃあない」

カノジョは Karakaraと笑った

両親から カノジョと話してはいけないと言われていた
しかし・・・
壁の向こう側を見透かしているような 
焦点の合わない カノジョの琥珀色の瞳と 
切れ長のGZ20のヘッドライトに 僕の心は とっくに墜ちていた

カノジョたちに 見つめられていては
手を抜くことはできない
いつの間にか 部活動よりも熱心になっていた自主練のおかげで
僕は 秋の大会でエースになった

先輩を差しおいての抜擢  
いつしか 天狗になっていた僕には
カノジョの 囁きも 届かなくなっていた

銀杏の木が ほんのり黄色くなり始めた頃
僕の横を マールボロの煙が流れた

「お前 ダメな奴になったな アイツとおんなじだ」

「アイツって・・・」
僕が 声をかけようとすると 
カノジョは練習用のマスコットバットを担いで 壁の前に立った
 
「今のまんまじゃ いい男に なれないよ」

そう言うと マールボロを口にくわえたまま 
左ボックスの位置に立って 右手人差し指を 僕に向かって差し出した

クイクイと 指を曲げる

「さっさと 投げてこい・・・」
マールボロの青白い煙が 挑発している
頭に血が上った僕は インコースぎりぎりの球で
カノジョの眼を覚まさせようとした

Byuuu!

「あっ!」 

Bannnnn! 壁が響く・・・
球は 思ったよりも頭部の近くを通過したが
カノジョはピクリとも動かない
ただ 青白い煙の幕に 丸く穴が開いた

「女相手に 脅しとは 情けないねぇ・・・」

僕は体中が燃え上がるような 恥を感じた 
小細工なんて 必要ないじゃないか・・・

気を取り直した僕は
いつもより 大きく振りかぶり 渾身の力を込めて ど真ん中に投げた!

と 同時に カノジョの肩に担がれたバットが
フーコーの振り子が ゆるりと線を引くように回る

Kyeeeeeeeeeeeeennnnnnnnnnnnnnnnnn

見事に打ち返された球は 白竜の尾となった

そして・・・

Bariiiiiiiiii

白竜は GZ20のヘッドライトに噛みついた

「あちゃー・・・」
カノジョが 目を覆う

完敗だ・・・ 
がくりと跪く僕に

「いい男は 女に弱いもんさ スウィートボーイ」
そう言って 僕の頬に軽く 口づけをしたカノジョは 
GZ20をそっと撫でて 行ってしまった

次の日 GZ20のヘッドライトには ドラゴンのステッカーが貼られていた

それから 一週間もしないうちに 
駐車場は マンションの建築工事現場となり閉鎖された 

僕が 再びカノジョに 出会うことは なかった
その年の秋季大会以降・・・
僕は 卒業まで無敗を通した 

♪ James Blunt - You're Beautiful ♪

そして今 ここにいる・・・

ダッグアウトまで 取材にやって来た
新人の女性記者が ガチガチに緊張しながら 僕に言った

「最後に・・・
 200勝投手になった あなたが
 これまでずっと30年前の国産車(ソアラ)に乗り続けているのは 
 何故ですか?」

「アイツは 僕にとって 永遠のライバルなんだよ スウィートガール!」

グローブに刺繍された 
真っ赤なドラゴンを見ながら 
相変わらず 女性は苦手だ・・・ そう思いながら 
左腕の男は ニコリと微笑んだ 


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hiropapaman
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