脱糞~汚物を見る目~
僕が小学生の頃の話だ。「帰りの会」をやっている時に、ある生徒が脱糞した。「帰りの会」とは学校の一日のスケジュールが終わり、下校の前に先生が連絡事項等を伝える会のことだ。先生が色々話している時に、突然汚物の臭いが教室中に漂った。最初は誰かが強烈な放屁をしたのかと思った。おそらく教室中の誰もが、おそらく先生もそう思ったに違いない。しかし、時間が経つにつれ、その臭いは強烈さを増した。ある生徒が「先生!こいつうんこ漏らした!」と大声で隣の席の子を指さしながら叫んだ。その子の椅子の下には、汚物がピチャピチャと滴り落ちていた。教室いた全員が騒然とした。先生は「はぁ?」と言ったのを覚えている。漏らしてしまった子の周りの席の子は距離をとった。先生は何も言わずに帰りの会を進めて生徒を下校させた。僕も例に漏れず下校した。
僕は漏らした子のことが正直苦手だった。ガラの悪い子で、その子のお父さんお母さんに対しても怖い印象を持っていた。服はいつもよれよれボロボロの服を着ていて、他の生徒とは明らかに雰囲気が違っていた。だから僕は彼に対して全く同情をしなかった。「臭い」という感想以外なかった。今思えばひどい少年である。
その後のことはわからない。先生と本人がちゃんと片付けたのは間違いないだろう。先生の対応は適切だったと思う。他の生徒がいる前で叱れば、その子の自尊心は木っ端微塵になり、一生のトラウマになっただろう。何もなかったかのように振る舞うことで、次の日も他は生徒も何もなかったかのように接することができた。実際僕も何もなかったかのように彼に接した。しかしながら、それでも彼の自尊心は大きく傷つき、きっと今でも時折悪夢として夢を見るのではないだろうか。
僕は脱糞した彼に対して良い印象を持っていなかった。できれば関わり合いたくないと思っていた。だから彼が脱糞をしてもなんの感慨も湧くこと無く、まさに「汚物を見る目」で彼を見ていた。
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