見出し画像

なんで私はこんなに一生懸命、柔道についてあれこれ書いているのかな。フランスが強いのはなんでなの。Facebook投稿から転載。

(不適切かなと非公開にしていた投稿に、手を加えて、復活させてみた。でもまあ不適切だが)

 阿部一二三にフランスのギャバがかけた肩車を「タックルで柔道じゃない」とSNSが騒ぎになっていることを取り上げた日テレ「ミヤネ屋」で、番組スタジオで梅沢富美男さんもその意見に同調するのに対して、「足取り禁止ルールが採用されて以降に開発研究された(ほんとは古くからあったがそのとき以降に改良され多用されるようになったというのが正確だが)、足を取らない下半身に触らない変則肩車という高度で立派な柔道の技ですよ」とフランスでの指導歴も長い、バルセロナ五輪銀メダリストの溝口紀子氏が実演も交えて解説したというYahoo!ニュース記事をシェアしながらFacebookに書いたこと。

 柔道界にはロジカルに議論できる人、言語説明能力の高い人がいる。特に女性には、東京五輪組織委員会・森喜朗老害女性差別発言を厳しく批判してくれた山口香氏に始まり、フランスでの指導歴も長く、また2013年の男性首脳陣のパワハラ不祥事後の柔道界改革にも活躍したこの溝口氏など、国際的論理的な指導者が、たくさんいる。(あと塚田真希さんもとてもロジカルで言語論理明晰な方である。今回は出てこなかったけれど。)

 そういう人に日本のスタジオ解説をお願いすれば、今回の柔道をめぐる、なんでもかんでも「審判が」とか「日本に不利」とか、「外国のは柔道じゃない」とかの、レベルの低い間違ったSNSの大騒ぎを早く鎮火できたと思う。

 その点でNHKには苦言を呈したい。なにかというと、日本のスタジオで柔道放送のコメンテイターに松本薫氏を起用したことだ。

 知名度は高く好感度も高いだろう。しかし論理的な思考ができない、言語能力が低い。利口ぶらない可愛げがある好い人として好感度が高いのだが、利口ぶらないのではなく、利口ではないのである。いやまあそれは言い過ぎでも、まだ「選手目線」から抜け出せていない、ルール、審判、組織、社会の中での柔道、そういう視野で柔道を明確に多角的に語る能力はない。

「なんて失礼な」という方に具体的に起きたことで説明していく。

 最終日団体戦が終わった後、体操の内村航平氏が、現地会場から日本のスタジオとのやり取りの中で、アナウンサーに「試合の内容で何か聞いてみたいことはありますか」と促され、「なぜここまでフランスは強いのかということについて専門家の方に率直に聞いてみたいなと思いました。」と質問した。お茶の間の人も、単に悔しいではなく聞いて見たかったことだと思う。内村さん、ナイス質問である。

 日本のスタジオの松本薫さん「そうですね、いわれて明確にこれですというのは言えない。リネールの存在が大きかった。今回はそれしかないかな、今は」 えー、そんなテレビ視聴者素人みたいな答え、あるかーい。そんなことはみんな分かるよ。そうじゃなくて、なんでこんなにフランス人はみんな柔道が好きで、なんで日本より競技人口が多くて、そして強いのか。日本発祥の武道なのに、なんでなの。リネールが強いから、じゃないでしょう。

 隣に座っていた羽賀龍之介さんがそれはあんまりひどい答えだということで、横から助け舟、「フランス人選手もこれまでの戦いでオリンピックを経験する中で技術の進化が見られる。各階級でたくさんのメダリストが生まれ、そういうスター選手がいる、そのスター選手を追いかけてフランス国内各地で強化する仕組みが出来上がっている、長い時間をかけてそういう仕組みが出来上がっているということを今回、感じました。」

 羽賀龍之介さん、横浜の朝飛道場出身。慶応大学柔道部監督を務める朝飛大先生が、日本で一番といっていい理論的合理的指導する少年少女育成では日本トップクラスの道場出身。極めて知的、フランスの強さの理由をきちんと言語化できる。

 松本薫さんは、岡田准一さんが武道武術の達人を招きつつ岡田さん自身もその技を実演解説するNHK番組「明鏡止水」で、柔道寝技などの回に登場している。岡田准一さんのようには寝技の細かい手順についたきちんと説明できず、ザブングルなように「悔しいー」という様子が面白くて受けた。あの番組でお茶の間に親しまれているということも、今回NHKが松本さんを起用理由なのかもな。

 しかし、「岡田准一のように上手く解説できない」のが松本薫さんの持ち味である。解説には向かない。もちろん金メダリストだから、身体操作として自分では見事にできるが、言語化して解説する能力は低い。ということがあの番組で証明済みなのである。人柄はチャーミングだが解説向きではない。

 話は横にそれるが、アスリートには野村克也さんのように「身体でできる+頭。言葉で論理化して説明できる」右脳左脳両方優秀な人と、「身体では天才butしかし言葉や論理ではまるで✕✕」な、長嶋茂雄タイプがいるのだ。松本さんは長嶋茂雄なのだ(長嶋茂雄タイプ。たいていチャーミングで魅力的ではある)。でも、解説をお願いしてもダメなのだ。

 なぜ私が、松本薫さんには失礼と分かっていて、わざわざこういうことを書くのか。それはね。

 柔道はそもそも嘉納治五郎という、東京帝大出の当時の超インテリが作り上げた武道だ。大河ドラマ「いだてん」で役所広司が演じていた。ので、本当は「最も知的かつ合理的に指導習得すべきもの、そう出来るように体系化したもの」なのだな。

 フランスの柔道がなんで強いかというと、柔道の技術体系を、フランスに広めた指導者が、もう一回ロジカルに整理し直して、すごく合理的な技術と指導メソッドとした再編成した上で教えられているから、ということもあるのだ。

 ところが、日本では、嘉納治五郎本来のそういうロジカル技術体系よりも、「精力善用自他共栄」なんていう精神論のほうが前面に喧伝され、「頭の悪い力自慢の乱暴者を矯正するためにする精神論がもとにある武道」みたいなイメージが先行。

 その弊害なのか、実際に柔道家の半数くらいはどっちかというとそういう「あんまり頭の良くない、力と運動神経自慢の、もとは乱暴者いじめっこでパワハラ上等みたいなタイプの人たちが多くいる世界」、ジャイアンみたいなのがいっぱいいる世界だったりする。

 ちょっと柔道のおかげで矯正されていても本質はジャイアン、そういうタイプが、そのまんま年を取っておじいさんおじさんになっているようなのが柔道界には今でもたくさんいる。

 そういう生まれながらにパワハラ系人間含有率高くできている古くさいパワハラコミュニティの問題が、柔道界の中心において、ほんの10年ほど前に多数噴出した。2013年のことだ。日本語もまともにしゃべれない「絶体に笑ってはいけない」代表発表記者会見の吉村ヘッドと園田女子チーム監督がパワハラ問題で辞任したのは、わずか10年前のことだ。

 トップがそうなだけではなく、それは柔道界全体の体質だったのだな。全国津々浦々の道場から地域の柔道協会から各地の名門高校大学から柔道界の上層部まで、そういう「古くさい頭悪い&パワハラ体質」みたいなものが色濃く残っていたのである。

 このままでは柔道が衰退してしまう。少子化時代に親が子どもにそんな体質の武道を習わせたいか?習わせたくないだろう。保護者がそう思ったら、柔道なんて本当に簡単に衰退してしまう。

 そういう危機感を持った新世代の指導者が、ここ10年ほど増えてきた。現代的で知的な指導と、組織体質改革、透明化に取り組む新世代の指導者が、柔道界のトップから地方の道場まで、たくさん出てきている。

 不祥事からの建て直しを担って代表監督になった井上康生さんから、山口香さんも、溝口さんも、そして、有名無名の地方の道場まで、危機感をもって柔道は変わろうとしているのである。

 今回コーチとして選手に帯同していた小野卓志さんや秋本啓之さんら若い世代のコーチたちはそういう流れの推進者たちなんだな。秋本啓之さんなんて、恐ろしく強いのに、今でも強いのに、パワハラ度ZEROな上に、めちゃくちゃ面白いもんな。その上、柔道の教え方が世界一ロジカル。秋本さんのことをもっとみんなに知ってほしいよな。

 そういう変化の過渡期に柔道界はあると思うわけだ。

「柔道は、そもそもの成り立ちからして、東大君が作った、知的論理的なスポーツであり、日本がフランスに負けたのは、その、そもそもの成り立ちの根幹を忘れて、知的指導の度合いでフランスに負けちゃったからだよ」

ということを、私は、声を大にして、皆さんに伝えたいから、こんなことを書いているのだ。

 知的なスポーツとしての、みんなが忘れているほうの、嘉納治五郎が作った柔道本質の復活再生を私はしたいと思って、こうして五輪の機会だからこそ、一所懸命いろいろ書いているのである。

 この記事の溝口紀子さんも一番国際派で知的で論理的な指導者、柔道界の顔なのだな。

 だから本来は、NHKも、知名度だ好感度だと言わず、ちゃんと誰もが納得できる言語化解説ができる人を、スタジオには呼ぶべきだったと思うぞ。

 それなのになあ、NHKはそもそも実況アナの選定からして、いちばん頭悪い感じの実況アナを柔道に割り当てていたもんな。やはりNHKは古くさい「柔道、頭悪い系スポーツ」と思っているのかな。

 救いは解説をしてくれた大野将平さんが知的で視野が広い、先進的考えのひとであったこと。国際スポーツとしての柔道イメージ革新のための希望の星だったな、今回の五輪における大野さん。

 大野将平さんと秋本啓之さん、かつてのライバル二人が柔道界の幹部ツートップになる世界をみたいなあ。


いいなと思ったら応援しよう!