毎回、期待を軽々と超えていく、「玉置浩二ショー」という至福の時について。「サウダージ」での岡野昭仁さん、「母へ」半崎美子さんも。「メロディー」鈴木雅之さんも、そして安全地帯ミニ編成も。音楽って、いいよね。

 玉置浩二ショーが始まったのは、2014年から。当然、全ての回を、もう擦り切れるほど(HDDだから擦り切れないのだが)、全部、トークで何をしゃべったかまで完全再生できるくらいすべてを繰り返し見てきている。

 もう8年も前からなので、玉置さんもだんだん年をとるし、途中、心臓の病気、手術もされたし(心臓の病気が悪化して中断した八王子でのコンサートも、見にいっている)、玉置浩二ショーで演奏される曲も、二度目、三度目という曲も出てきたし。それでも、毎回、「何かすごいことが起きるかな」と期待していると、毎回、期待を遥かに超えるものがあるのだよな。音楽って本当にいいな、と思わせる、いろいろな感動や発見がある。

 今回、冒頭は「太陽さん」。この曲も、玉置浩二ショーでは二回目だと思う。ライブでも、ものすごいロングトーンと、ラストのパーカッションの中北裕子さんと玉置さんの「パーカッション叩き合い」で盛り上がることは、もう知っているのだが。知っていて視聴しても、それでも本当に盛り上がる。今回、新しかったのは、バックコーラスの若い男女。大山佳佑さんと早川咲さん。大山さんは声質に特徴があり、早川さんはものすごくがんばっている。過去CD版やライブでも、この曲のバックコーラスは重要な味付けなので、「ちょいと気負い過ぎかな」とも思ったけれど、「玉置さんがこの曲だけであまり声を使い果たさないように、私たちががんばる」と思っているようでもあった。

 そのおかげか、次の曲「Mr.Lonely」では、玉置さんの声、絶好調ぶりを発揮。この曲も玉置浩二ショー、何回目かの登場だが、毎回「声の種類の使い分け」が違う。CD版でもたいていのライブ曲でも、1番2番のサビ最高音はファルセットにして、大サビだけ地声(ミックスだけど地声分多め)で最高音、というパターンが多いのだが、今回は全部地声多めミックス。しかも、間奏やアウトロでも、昔の「完全アカペラ、ライブのアンコール」伝説の歌唱、みたいに、ボーカル用マイクからはるか遠くに下がって「別のマイクで生声みたいにこの声を拾え」とばかりに、シャウトするという荒業を早くも披露。すごい。全然老化しておりません。

 そして次が、ポルノグラフィティの岡野昭仁さんとのコラボ。バックは沖仁さんフラメンコギター入り編成での「サウダージ」。

 沖さんギターのみ伴奏で、岡野さんがサビから入る歌い出し。玉置浩二ショーに出てくる実力派歌手たちの、いつにもまして集中力を高めた第一声には、「玉置さんと歌うからには」という、並々ならぬ気合が感じられる。ここだけで鳥肌が立つ。一緒に歌う歌手の、普段の何割増しかの、真の実力を引き出す。

 そして、Aメロ。ものすごく早口の譜割、リズムの正確さと滑舌の良さが必要。岡野さんはもちろん持ち歌だから完璧なのだが、Bメロに入ったところで、なんと、ここに玉置さんがファルセットでハモリをかぶせてくる。そう来るか―。すごい、リズムも滑舌もハモリも完璧。鳥肌ブワー。いや、ここは予想外の展開。すごい。これは玉置浩二ショーコラボ史上でも、名シーンに残るぞ、このファルセットハモリ。
 一番終わりの間奏で大胆な転調、と言うか、キーをオリジナルのホ短調(Em)からハ短調(Cm)に二全音(カラオケなら(-4)下げる。さすがに岡野さんキーより下げた方が玉置さんは歌いやすいのだろう。しかし、それだけでない、間奏のストリングス演奏も、キーが下がったことで、さらに低音の効いた、何か、ダイナミックさ、ドラマチックさが増して聞こえる。玉置さんのメイン―ボーカルと相まって、曲の表情が変わる。そして、今度はサビで、岡野さんが上からハモリを入れる。完璧。
 ブリッジ部分は完全なユニゾン。すごいな、岡野さん、ピッチ正確だな。ユニゾンがきれいに溶け合うのは、当たり前のようで、当たり前ではない。
 間奏で原調のホ短調に戻り、岡野さんのロングトーンシャウトからの軽いフェイクの応酬に、沖さんの火の出るようなギターソロがかぶさる。
 そして、再びサビを二人でユニゾン。サビ二回め、さらに半音アップ転調でキーをアップしていく(ヘ短調 Fm)。「さあ、玉置さんどうなる」と聞いていると、玉置さんが気合の表情で応え、最後の一音、玉置さんがロングトーンで挑発(どうだ、出たぞ、という表情で楽しそう)、その後フェイク合戦となる。

 すごかったな。これは名演でした。岡野さんとの競演、相性、予想外かつ予想以上、極上でした。

  岡野さんの音域は、女性ボーカルに近い。しかし、原曲キーに戻った後、ラスサビのさらに半音上げの最後のロングトーンを普通に歌い切った玉置さんも、「そんなに声、高くなさそう」なのに。ものすごい。バケモノでした。

 次いで、「田園」を初めてコラボで。FNSでは何度かあったけれど、玉置浩二ショーでは初。玉置さんが「岡野ならぴったりだ」という通り。声質と、リズム感の良さ。一番は玉置さんがメインで、岡野さんが上からハモる。二番、転調(原調ト長調からGからCハ長調へ、カラオケならばプラス5)でキー上げて岡野さんがリードボーカル。おお、ここで沖さんのフィルインが印象的。やはり、この曲、滑舌とリズム感が岡野さんくらい良くないと歌いこなせないのだよね。いいぞ、これ。「JUNK LAND」なんかで明らかなように、玉置さんの早口歌詞でのリズムマシーンのような正確さで曲をグルーブさせるボーカルテクニックというのは、普通のボーカリストでは太刀打ちできないものだが、岡野さんは、この点では全く互角。すごい。大ヒット曲だから、みんな歌いたがるけれど、田園は難曲なのである。この疾走感。そう、疾走感をボーカル自体で表現できる人は、ごく少数なのである。

 この曲、玉置さんとしてもかつて歌ったことのないCキーで、最後まで歌いきりました。(その分、いつものラスサビからエンディングでの定番の「愛はどこへもいかない、いかなーーーい」のロングトーンが入らなかったのでした。あれは、音域のせいだと思う。でも、それを補って余りある、岡野さんとの楽しい掛け合いがありました。玉置さんも岡野さんも、心から楽しそうでした。

  いやあ、僕はポルノグラフィティを好んで聞いたことはほとんどないのだが、(もちろんテレビの歌番組ではずっーっと見てきた聞いてきたが)、岡野氏の実力、素晴らしかった。そして、玉置さんとの相性も最高だった。

 あと、いつものことだが、いや、この番組が歌詞字幕をきちんと出してくれるせいもあるのだが、「サウダージ」の歌詞が初めて頭に入ってきました。これは玉置さんが歌った時にだけ起きる特殊現象、あるあるなのである。AIの「STORY」でも、エグザイルのTi Amoでも、玉置さんが歌って初めて歌詞が胸に響いてきたのだよな。どうしてなんだろう。

 浩二バーのゲストはピアニスト、アレンジャー武部聡志さんと、シンガーソングライター半崎美子さん。

 玉置さんが斉藤由貴さんに提供した「悲しみよ、こんにちは」を武部さんのピアノで半崎さんとデュエット。ここでは武部さんのピアノの響きのやさしさにまず感動。半崎さんはまだ緊張気味かな。

「ALL I DO」のスタジオ演奏を一曲はさみ、(これも玉置浩二ショーでは二度目の披露だと思う、ここでも、バックボーカルの二人がちょいと新鮮でした。)

 ふたたび浩二バーに戻り。小林麻美(聡美じゃないよ)に提供した「哀しみのスパイ」を、これは玉置さんが一人で、武部さんのピアノで歌う。歌い終わった後、武部氏が「ずるいよ。玉置はずるいよ。この声はずるいよ」と。まったく同感。この浩二バーでの歌唱は、ボーカル用ハンドマイクでは声を拾わないから、「生のピアノの音と生の声」というバランスで、その場にいる青田典子さんや半崎美子さんは聞いている、その状態を聞いているような体験をさせてもらえる。(もちろん本当はいろいろちゃんとミキサーの方がバランスをとっているのだが。)このコーナーの良さはそこにあるんだよな。加工しない、生のギターやピアノと、その音量に合わせて歌う、生声の玉置さん。それを生の音で聴く青田さんとゲストの方のリアクション、表情。

 ついで、武部さんが語りだす。
「音楽をやってきていろんなことが変わっていく。その届け方がCDでなくなったり、技術が発達していろんな作り方や届け方が変わっても、音楽はなくならないし、音楽を作る人がいなくなることもない。その根っこの部分に純粋にちゃんと真摯に向き合って、いい音楽を作りたいと思いますな」
玉置さんが答える
「音楽は、いっぱいある。でも、自分でなんとなく思っているのは、今回、半崎さんに来てもらったけれど、半崎さんの『母へ』が、これぞ歌だって。歌を歌うっていうのはこういうことだと。聴けば一発でわかった。来たな名曲が。上手い上手くないではなくて、感動だけが来た。どんなふうに生きてきた人にもびったりはまる」と半崎さんを見つめて語る。玉置さんと青田典子さんが泣きそうになる。と、もう、半崎さんが涙目と言うか、ボロボロ泣いていた。玉置さんにまっすぐ見つめられて、こんなことを言われたら、それは泣くよな。

 そして、泣いてはいるのだけれど、そこはプロ。武部さんのピアノ伴奏で歌い始める。一番を半崎さんが、微笑みながら、涙を浮かべながら、玉置さんを見つめながら歌う。
 武部さんのやさしい間奏に、玉置さんのやさしいハミングがかぶさる。二番を、玉置さんが、深い、やさしい声で歌い始める。それを聞いていると、半崎さんが、目も鼻も真っ赤になって、ますます泣いてしまう。自分が作った歌を、玉置さんが歌う。それも目の前で。声に包まれる。どんな気持ちなのだろう。
 最後、サビを、ゆっくり、かみしめるように、二人で歌いました。半崎さんの表情、ピアノを弾き終えた武部さんの表情。音楽って、ほんとうにいいなあ。

 次、鈴木雅之さんとの競演。これも、ほとんど人とコラボはしない曲なのだが。(森山直太朗さんとFNSかミュージックフェアであったと思うが)、メロディーを。これはねえ。なんか、へんな言い方だけれど、いい意味で、面白かった。

 鈴木雅之さんの歌には、鈴木さんの体の中のリズム感、グルーブが強烈に出る。リズムアレンジが、いつもと全然違うように聞こえる。譜割というより、リズムの取り方が、独特。すごく上手いのだけれど、もう、そのリズムの取り方で、鈴木雅之さんの歌になる。全体が、ちょっとシャッフルしたように聞こえる。そういうアレンジなのかな。サビの「メロディー」をすごくきれいなファルセットで歌いながら、次の「泣っきなっがら-」とシャウトする。すごい。鈴木さんの歌になる。鈴木オリジナル「メロディ―」である。
 二番で玉置さんが歌うと、ああ、やっぱりアレンジがいつもと違うんだ。リズムがシャッフルするようにアレンジされている。でも待てよ。鈴木さん歌い出しはAメロは、静かな、普通のピアノのアルペジオ。別に跳ねてないリズムだったはずなのに。
 リズムがシャッフルしてても、玉置さんが歌えば、玉置さんの歌になる。すごいなあ。これはもうすこし繰り返して聴いて分析しないとダメだな。バンドの、バックの演奏よりも、歌い手のリズムの取り方で、音楽がこれだけ違って聴こえてくるというのは。奥が深いなあ。
 サビで、二人で歌う。鈴木さんが上でハモる。上手いなあ。鈴木さん、当たり前だけれど、鈴木さんの方がハモリを入れるというイメージが無かったので新鮮。そして間奏のフェイクも、こんな風にメロディーでフェイク入れる人、鈴木さんしかいない。サビの「なっきながらー」。いやあ、もう。
 全体の「歌のノリ、リズム」は、一緒に歌うところでは玉置さんが鈴木さんにあわせようと、一生懸命、玉置さんが鈴木さんを見つめる。最後のオオサビ「なっかなっいでー」。こんなに相手の歌いまわしを見極め、タイミングを合わせようとする玉置さん、井上陽水さんとの「夏の終わりのハーモニー」NHK ソングス以来だな。いやあ、面白い面白い。立ち姿二人が並んだところも面白かったが、感動というより、interestingというニュアンスで、きわめて面白かった。

 安全地帯は今年活動40周年。だが、ドラムの田中さんとギターの武沢さんの二人は、健康上の理由、それぞれやや深刻な病気で音楽活動は休止というか、難しいのだと思う。それでも、「安全地帯でやりたい」と、元気な六土さんと矢萩さんを呼んで、サポートにこれまた付き合いの長い佐野聡さんがブルースハープやトロンボーンなどで参加して、安全地帯時代の「1991年からの警告」「ワインレッドの心」を演奏。玉置さんも矢萩さんもアコギでセッション。もう、何も考えずとも、玉置さんが弾き始めれば、どんな曲でもその場で合わせられるという雰囲気が伝わってくる。この編成で、かつて若かりしときの、活動休止直前「何をやるかが決まっていないライブ」というのをやってほしいなあ。玉置さんの気の向くままにギターを弾き始めると、六土さん、矢萩さん、佐野さんは何事もなかったのように完璧な演奏をするのだ。音楽って素晴らしいなあ。

 最後に、

 平原綾香さんのお父様、ずっと昔からの玉置さんの音楽仲間、サックス奏者の平原まことさんが亡くなられた。昨年の玉置浩二ショーで、平原綾香さんと玉置さんが「マスカット」を共演したときは、まだ健在だったそうだ。その直後に「また一緒にやりましょうよ」と言っていたのに。昨年の11月26日に亡くなられたのだという。

 話は横道に逸れるが、僕が初めて玉置さんのライブに行ったのは、「サーチライト」が収録されているアルバム「GOLD」をひっさげてのツアーの千秋楽の一日前。渋谷公会堂。ドラマで共演した金子ノブアキさんが、アルバム「GOLD」に収録の、母親、金子マリさんと玉置さんのデュエット曲「かくれんぼ」だけドラムを叩きに出てきたり。(金子ノブアキさんの父親のジョニー吉長=ジョニー・ルイス・チャーの名ドラマーは、前年に死去している)。アン・ルイスと故・桑名正博の息子、美勇士さんが、このツアーでは前座も務め、バックコーラスで参加している。さらに「さよならありがとう」の亀梨君パートを歌い、合間に「セクシャルバイオレットNO1」を挟んで二人でデュエットした。また、「客席に尾崎の息子さんが来ています」と紹介してから「アイラブユー」を歌ったりもした。「ああ、玉置さんは、ご本人には子供がいない代わりに、いろんな(亡くなられた)アーティストの子供たちを、自分の子供のように気にかけている人なんだなあ」ということを強く印象付けるコンサートだった。

 平原綾香さんの楽曲「明日」が、今回の玉置浩二ショーの最後の曲。編成は先ほどのミニ安全地帯。六土さんベース、矢萩さんアコースティックギター、佐野さんトロンボーン。玉置さんはさっきのマーチンD45から、ガットギターの名品、パスカリーノに持ち替えて。歌詞が、声が、心に沁みました。

 長い付き合いの音楽仲間、顔を合わせれば、すぐに何も言わずに音楽を紡ぎだせる盟友たち、しかし、そうした友たちは、ある者は健康を損ねて、共に演奏できる者も減っていく。ついには、この世を去るものも出てくる。

 かわりに、その子供の世代が、新しい音楽を生み出していく。

 そういう、素晴らしい音楽が世代から世代へ引き継がれていく歴史そのものを、一時間の番組の中に感じさせる。奇跡のような番組なのでありました。

こちらの、noteもどうぞ。

その他、玉置さん、藤井風くん、奇跡の天才高校生アコギソロギタリスト西村ケントくんなど、音楽関連noteはこちらのmagazineにまとめてあります。

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以下、上のnoteの中で触れた、過去の名演DVDを、ちょいと紹介。まあ、いまどきはだいたいの名演はYouTubeで見られるのですが、参考まで。

●私が観た翌日の、GOLDツアー千秋楽を収録したもの。この日は金子ノブアキさんは、登場しません。↓


●一曲の中でプライベート映像とライブをつなぎ合わせた、変わったDVD。アンコールでの、「Mr.Lonely」の、完全アカペラ、最後ノーマイクの絶唱があります。「ロマンス」や「JUNKLAND」は、このときの歌唱が最高、という人は結構多いと思う。

●セトリもなく、玉置さんが弾きはじめる、歌い始めるのに合わせて、バンドメンバーが演奏したという幻の、安全地帯、初めの活動停止前のライブ。この直前に、もっといい画質音質で撮ったものを発売しようとしたのだが、こっちの内容があまりにすさまじかったので、こっちが画質も悪いのに発売されたという。伝説の、狂気すら感じさせる「好きさ」や、今回演奏した「1991年からの警告」も収録されています。


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