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パリ五輪 男子バスケットボール決勝、スティーブ・カー監督と最後の3分間のステフォン・カリーの活躍を見て、だいぶ昔2015年6月NBAファイナル前に書いたブログを思い出し、転載します。レブロンvsカリーのファイナルだったのだな。

スティーブ・カーとステファン・カリー NBAファイナルに寄せて 

 今期のNBAファイナルは、メディア上ではステファン・カリーVSレブロン・ジェームスの新旧MVP対決!という話題で盛り上がっていたが、私個人的には、スティーブ・カーの采配、というか「スティーブ・カーの夢、やりたかったことの実現」と、その素材としてのステファン・カリーいう点に興味の中心があって、ずっと見ていた。

 スティーブ・カーと、ステファン・カリー。日本語表記通称だとスティーブとステファンだが、どちらも同じstephenだ。そして191センチの身長、オールスターの3ポイントコンテストのチャンピォン、圧倒的に優れた3ポイントシューターという共通点を持つ。違うのは、カリーが、大学時代からプロのキャリアを通じてずっとチームのエースだったのに対し、スティーブカーは、プロのキャリアでは「3ポイントスペシャリストだが、控えのポイントガード」という、渋い脇役の立場にあったことだ。

 マイケルジョーダン全盛期のブルズに在籍し、後期三連覇では、決定的なシュートをたびたび決めたものの、なんといっても当時のブルズは、ジョーダンが毎試合30点以上を取り、ピッペンも20点以上を取り、残りをあとのメンバーがちょぼちょぼと分け合う、というチームだった。ポイントガードとセンターにエゴの強いスター気取りはいらない、というのがマイケルジョーダンのチームの鉄則だった。ポイントガードには派手なドライブも気の利いたアシストパスもいらない。自陣に球を運んだらマイケルに球を預けて、あとはせっせとトライアングルオフェンスのシステムにそって動き回り、最終的にはコーナーにまわって3ポイントの準備をしておく、というのがマイケルのチームのポイントガードの役割だった。複雑なトライアングルオフェンスのシステムも、最終的にマイケルの得点能力を最大化するために使うのだ。前期3連覇ではBJアームストロングとジョン・パクスン、後期ではロンハーパーにスティーブカー。もともとシューティングガードだったロンハーパー以外は同じようなタイプの3ポイントシューターだ。

 体の小さいポイントガードにも、古くはアイザイアトーマスから、ティムハーダウェイ、アレンアイバーソンなど、身体能力の高い攻撃型のポイントガードというのはいたが、ステファンカリーは彼らと比べると身体能力がさほど高くない。シューターなのだ。そして彼らのようなむき出しの闘争心とエゴ、というものが感じられない。得点をものすごく取る割に、エゴの強さを感じさせない。エゴの強さを感じさせない割に、最後の責任は全部自分が負う、という心の強さはある。

 この、「フィジカルはそれほと強くないが、きわめてすぐれたシューターであり、闘争心はうちに秘め、より知的である。知的なシューターがチーム最大のスターである。」というのは、もしかして、スティーブ・カーがなりたかったけれどなれなかった存在なのではないか。「もしそんな自分がチームの中心で、そして圧倒的に強いチームを作るとしたら、こんなバスケットしかない」とスティーブカーが温めていたバスケット。マイケルジョーダンもピッペンもいない、自分のようなタイプの選手中心のチームを作る、そしてマイケルがいるようなチーム(つまりレブロンがいるキャブスを)を倒すというのは、スティーブカーの長年夢見ていたことの実現なのではないかしら。

 今期、スティーブカーは、レギュラーシーズンからただの一度も3連敗しなかった。スティーブカーの分析力と選手の人心掌握術、戦術家としての優秀さは見事というしかない。ステファンカリーと並ぶ能力がありながら、チームのために地味な役割も果たすクレイトンプソン。スターターの力を持ちながらシックスマンにまわったイグダーラ。脇役としてシカゴブルズや(その後スパーズでも)優勝経験を積んだスティーブカーだからこそ控えも含めたチーム全員の気持ちを理解し、チーム全員のバスケットIQを上げることに成功できたのだと思う。

 シリーズの流れを決定づけた第4戦勝利の後のインタビューでイグダーラが「我々は今期、リーグで一番IQの高いバスケットをし続けてきた」と胸を張って答えていたことに、スティブカーがどういう意識づけを選手にしてきたかが、よく表れていた。「バスケットIQ」の勝負、という新しい競争をリーグに持ち込んだスティーブカーのウォリアーズ、今後、かつてのブルズのような黄金期、王朝を築くことができるのか。来季も楽しみで仕方ない。 

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