3月19日 「地上波テレビは」って言ってきたけれど、今日のテレビ朝日の『タモリ・ステーション 緊急生放送』から『報道ステーション』は、いろいろと素晴らしかったと思う。タモリさんと高橋杉雄さん。
「地上波テレビは」って言ってきたけれど、今日のテレビ朝日の『タモリ・ステーション 緊急生放送』から『報道ステーション』は、いろいろと素晴らしかったと思う。
まず、ミュージックステーションの時間を借りて、全編、ウクライナ戦争特番にした『タモリ・ステーション』。
タモリさんは、はじめと最後に一言ずつ、真面目に短く話しただけで、途中、一切、口を挟まなかった。そのことが、何より素晴らしい。アベマTVの方で、戦争についての報道バラエティーでの芸能人コメンテイターのあり方を批判するということがあった直後、ということもあると思うが。
ただ、じっと聞いているだけのタモリさんがいる、ということの意味は、実は大きかったと思う。もし単に「報道ステーション」拡大みたいな形にするのと、タモリさんがじっと座って聞いてるのとだと、なんでか、全然、違う。「まじめに見なきゃ、と思わせ、かつちゃんと見続けよう」と思わせる力がある。そういう力が、タモリさんにはあると思った。うちの妻も「タモリさん、何にも言わないねえ」と、気にしながら見ていた。
それから、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の生い立ちから、大統領になる経緯から現在までをまとめて対比して見せるVTR企画。実は、ゼレンスキー大統領の、「国民の僕」ドラマの映像と言うのは、初めて見た。かなりたっぷり使われていて、「プーチン政権が転覆したぞ」の鉄板ギャク決め台詞と言うのも、本物を初めて見た。プーチンの生い立ちや、大統領になる経緯もよくまとまっていたと思う。ゴールデンに、タモリさんが座ってみている状態で、お茶の間で、改めて、プーチンという人と、ゼレンスキーというのがどういう人なのか、また現地ウクライナの人のゼレンスキーに対する肯定的、否定的、両方の評価、この危機が来るまでは、なかなかうまくいっていなかったこともきちんと紹介されている。そして小泉悠先生の、ゼレンスキー大統領の的確な評価が、こうしたVTRのおかげでさらに説得力が増す。「あの、戦争始まる前は20%台(の支持率)だったんですよ、ドラマではうまくいったんだけれど、ほんとに政治家になってみたら、何でもかんでもうまくいくわけじゃなくて、やっぱりダメじゃないかって思いを持たれていたわけですよけども。それが有事になったら非常に強かったわけですね。つまり、本当の大統領として有能かどうかというよりも、有事のリーダーとして「どんな姿を見せてほしいか」とということを多分ゼレンスキーさんはすごくよく分かる人で、国民が大統領がこうだったらきっと勇気づけられるだろな。あるいは、外国から見てこんなリーダーだったら支援してあげたくなるだろうな、という像を自分の中でうまく作り上げて、今、それを全力で演じているという感じですよね。でロシアからすると、しょせん元コメディアンじゃないか、支持率低いじゃないかと侮って戦争を始めたんたと思いますが、そのロシアが侮っていた元コメディアンであるというところが、今のウクライナの強さの源泉になっているし、逆に今ロシアは、国際社会からものすごい非難を受けているわけですよね、彼らは見せ方に失敗している。ウクライナは上手くいっている。というその戦場ではウクライナの方が今、押されてしているけれど、国際社会からの支持、国民からの支持なんかに関してはにウクライナの方がうまくやれているのは、そこに原因があるのだと思います。」
が、えらく納得できる。
その小泉悠さん、防衛研究所の兵頭慎治さんと、コメンテイターの人選も望みうる最高の人選、
そして、大越健介君は、ポーランドのウクライナ国境、ウクライナからの避難民がたくさんいるところでの取材、インタビューということで、NHKから報道ステーションに転職以来、スタジオではやや精彩を欠いていたけれど、こういう現場に出て行くことで、なんというか「現場の緊迫感」で活が入った、元気になったような印象である。
また、歴史と地政学から、ウクライナを解説するパート、これはやや難しかったなあ。バラエティ的にしようとすれば、ここでブラタモリ的に、タモリさんの地理や歴史や地学の教養を利用するという手もあったと思うが、そういうことはせず。真面目なVTRになっている。キエフ公国の昔から真面目なHK教育テレビみたいなVTRだった。
ひとつ、やはり仕方のないことだが、ナチスとの関係でも「被害者」としてのウクライナを印象付ける内容で、ウクライナ東部の、反ロシアの人たちが、大戦中にナチス側に協力した、という類の情報はない。つまり、プーチン側の「ウクライナの現政権はネオナチ」主張に根拠あるのかも、と思わせるような要素は慎重に排除してあった。ここはセンシティぶなところなので、よく注意されていた。
一方で、ソ連崩壊以降の応酬の変化、特にNATOの東進、子ブッシュのウクライナ、ジョージアのNATO勧誘が、プーチンに脅威と感じられたという、今回の戦争の直接原因、プーチン側の動機は、はっきりとわかるように描いている。そのことをゴルバチョフの側近、プーチンの元側近へのインタビューを交えて、わかりやすく整理していた。(と書くとネトウヨさんたちが、また、「朝日がロシアサイドに立って」といきり立つと困るのだが、別にそういう印象にはなってはいない。小泉悠さん、岩本さんがちゃんとウクライナ寄りアメリカ寄りの見方で解説してくれているのでご安心を。)
そして、この番組から、チャンネルはそのままで『報道ステーション』には、防衛研究所の高橋杉雄さんが。これは歴史的名放送。素晴らしかった。
高橋杉雄氏、軍事的なロシア軍の動きを精緻に解説したのは、それはその道のプロなので、流石だったのだが、今回、素晴らしかったのはそこではない。
大越君のポーランド国境の街に避難してきた避難民へのインタビュー「戦争であなたが失ったもの」という、かなりエモーショナルなVTR。故郷を失い、友と離れ離れになり、そんな中、サッカー選手になる夢を失った14歳の少年のインタビュー「戦争のせいでサッカーへの道が完全に閉ざされました。サッカー場が全部閉鎖されてしまったし、サッカーか人生のほぼすべてで一番時間をかけてきたので。」と。老人もこう語る「一番大事なものはみんなと同じです。私たちの子供たちの未来です。」その後も、いろんな夢を失い、描いた人生が、まるで壊れた子供、若者たちのインタビューが続いた。
このVTRが終わって感想を求められた高橋杉雄さん。
「ひとつ思い出したことがあって、スペインのレアルマドリードというサッカーチームにモドリッチ選手がいます。彼はクロアチア出身で、ちょうど少年時代がユーゴ内戦の戦っていた時期で、家族を失い、家を失い、その中でサッカーの練習をして、クラブに入り、レアルマドリードにまで上り詰めて、2018年ワールドカップで準優勝に輝いた、2018年、世界最優秀選手に輝いた。そういう夢があるということを、さきほどのサッカーを諦めたという子供には、諦めないでほしいと思いますね」と、涙目で語り。続けて声を震わせながら
「人間として、専門家であるとかジャーナリストではなくて、この時代に生きた人間として、我々は、いまウクライナで起こっていることから目を背けてはいけないし、見届けなければいけないし、そしてそれを忘れてはいけない。そして忘れずにいて、この惨劇を引き起こしたウラジミール・プーチンという人間を歴史の法廷に立たせ続けなければいけない。僕たちにできることは何もないですけれども、それぐらいのことはできる。そう思いますね。」
聞いてた徳永有美アナ、目が真っ赤。
僕の、いやいや待て待て。
感動すると、すぐにものごとを白黒善悪で納得しそうになるな。待て待て。
結局、今回のことが第三次世界大戦のようなことになるとすると、プーチンはヒットラーに匹敵する歴史に残る完全無欠の大悪人として歴史に名を刻むことになるのだろうかな。プーチンには宥和も和平もしてはいけない、徹底的に叩かなければいけない、チェンバレンの間違いを繰り返してはいけない(初め、ヒトラーに対する宥和策を取り、禍根を残した。)、という立場が有力な考え方としてあるのだよな。それはそうなのかもしれない。
しかしまたその一方で、チャーチルは極悪ではなかったのか。原爆開発を、日本への投下まで裏で主導したチャーチルと言うのは、もう一人の極悪人ではなかったのか。スターリンはどうなのだ。スターリンやチャーチルは、勝ったから、そういう評価になっていないだけではないのか。英国の戦後処理の様々な何枚舌外交が、今につながる中東の紛争を用意したのではないのか。その結果死んだ人の数は、ヒットラーの殺した数といい勝負なのではないか。あるいは、スターリンは、粛清その他で殺した人の数では、ヒットラーといい勝負ではないのか。何が言いたいかと言うと、プーチンがヒトラー並みの大悪人なことには同意するとして、妥協せずに倒れるまで追い詰める必要があるとして、今回の戦争にプーチンを追い立てた側に、そっちサイドにも同じくらいの大悪人はいないのか。どうしてもそのことだけは、心の底に、頭の隅に、忘れずに問題意識としてはもっておきたいのである。