小説 『キラー・フレーズン・ヨーグルト』(4)
【前の話】
ハルさんは急いで頬張り始めた。テーブルには、まだパンケーキもチョコパフェもプリンドリンクも残っている。
そして何より、本題が丸ごとすべて残っている。まだ肝心のことについては、一言も話せていない。
声をひそめて言う。
「あの……、何回かこうしてお会いして、みたいなのが必要なんでしょうか?」
「あれ? 電話のほうがよかった系?」
プリンドリンクを飲み干すと、今度はチョコパフェを頬張り始めた。
「え、電話で進めてもらう、みたいなのもあるんですか?」
「うん。遠方の人とかはねー、どうしても毎回会ってとか厳しいじゃん? 電話でってのもありっちゃあアリだけど」
そんなライトな依頼もあるのか……
「でも、まあ、やっぱり人と人だからさ、こうして会ってじっくり話を聴くほうが、その人の抱えてる悩みとか迷いとかがしっかり伝わるってのはあるよね」
「それはそうかと思うんですけど……」
「そのほうが俺もいいアドバイスできるし」
アドバイス……?
「あの、わたしもなにか、やる必要があったりするんでしょうか?」
ハルさんはチョコパフェに集中したまま、
「あー、そういうのよくないなあ」
と言って、指だけこっちに向けた。
「やっぱりあなた自身の問題なんだから。
ちゃんと今の状況をどうにかするって強い想いがないと」
「いや、そういう気持ちはすごくあるんですけど、わたし……手伝うとか、そういうのは……無理だと思うんです。
むしろ足手まといになりそうですし……」
下を向いていた目がぐりん、っと上がった。
獲物を睨むような目がこっちを見た。
深い青色がわたしの顔をとらえている。
身体が硬直する。
「誰かが何とかしてくれるのを待ってちゃだめだって。
こっちはあくまでお手伝い、そう思ってもらわなくちゃ。
あなたが自ら拳を上げなくちゃ」
ええー!!
そんなの無理だし、虫一匹殺せないようなわたしが、できるわけない!
「ハルさんが、手を下してくださるんじゃ……ないんですか?」
「あのさぁ、前から思ってたんだけど、発言がいつもネガティブだよね。
手は、下げるもんじゃなくて、自ら上げるものだから。
まずは言葉選びから明るくいかなきゃ」
ウィンクしながら顔の前で拳をグッと握った。
「ポップに行こうよ。
コボたまも言ってるっしょ。えがおでやっちゃお〜、って」
むちゃくちゃだ。
この人、単なる殺人鬼じゃないか。
「ふざけないでください!」
ここ二ヶ月ずっと溜め込んでいたものが、わたしの中で爆発した。
「笑顔で人殺しなんてできるわけないじゃないですか!」
隣の女子がぎょっとしてこっちを見た。
やってしまった。
自分のバカさ加減に気づき、急速に熱が冷めていく。
こんなところで大声で出してしまうなんて。
ハルさんもさすがに焦ったのか、目がキョロキョロとせわしなく動いた。
そして、キャラの顔がプリントされているパンケーキを指さした。
「そ、そうだよな。このかわいい顔に、ナイフを入れるなんて、そんな人殺しみたいなこと、笑顔でできるわけないよな!」
伝票をつかみ、席を立った。
「それでこそ、コボたまファン! そう思うよね〜!」
隣の女子高生にまで捨て台詞を吐いて出口に向かっていく。
グッズコーナーで慌てて品物を選び、レジに置いていく姿を見て、わたしはますます混乱した。
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