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【解説】なぜセーヌ川で泳ぐと危険なのか?

パリ五輪が近づいてきて、「セーヌ川でトライアスロン競技を!」みたいなニュースが流れてきて、「危険だろ!」とか「だいぶ綺麗なんだからいいんじゃない?」みたいな様々な意見がありますが、技術士として、きちんとロジカルに説明するためにnoteにアップすることにしました。


最初に原田の意見を書きますと、「日によっては大丈夫だけれども、日によっては非常に危険」という感じです。

その理由をいくつか述べていきましょう。

1.汚染の質が変わってきた。

まずは安心材料の方のファクトから、、、

昭和生まれの方は、環境汚染というと「工場排水からよからぬモノが流れている!」みたいなイメージを持つことでしょう。実際、水俣病やイタイイタイ病などの公害被害は、工場排水中に含まれるカドミウムや水銀によって引き起こされてきました。

ただ、1967年に「公害対策基本法」が制定され、その後も様々な規制によって、工場排水はかなり綺麗な状態まで処理されるようになってきています。(ちなみに公害対策基本法は、1993年に環境基本法に名前が変わっています。)

確かに、未だに誤操作による廃液流出、事故による薬品流出、極稀に排水処理水質の改ざんなどのニュースを見かけますが、そういったトラブルがニュースになって全国展開されるほど、今の工場は排水をきちんと管理されている状態であり、それら由来の危険度は大幅に下がって、ゼロに近い状態であると言っても過言ではありません。

更にどの都市でも一緒ですが、全世界的に、都市部への一極集中が加速しており、セーヌ川やテムズ川、ハドソン川や隅田川のように都市部を流れている河川には大きな工場が隣接している、なんてことは無くなってきました。

よって、昭和生まれの我々のイメージにある「公害の元は、工場排水」みたいな事は実際には少ないのです。

2.汚染の元は生活排水

では、河川を汚している原因はなんなのでしょうか?
そう、それは我々都市部に住んでいる住民の生活排水です。

つまり、キッチンで流している水、風呂で流している水、洗面所で流している水、そしてトイレの水です。

でも、こう思う人もいることでしょう。「我々の生活排水はすべて下水道で集められ、下水処理場で処理されているんでしょ?その処理水だってキチンと管理されて、環境中に流されていrんでしょ?」

そう、まさに正解です。
下水処理場(今では水リサイクルセンターという呼称に変えている施設が多いですが)では、かなり高度に処理されており、環境中に放出しても問題ないくらいまで綺麗になっています。しかも、処理の最後には塩素処理まで施されており、病原菌が環境中に蔓延することがないように最善の対策が取られています。

では、なぜ生活排水が河川を汚しているのでしょうか?
それは「合流式」という下水道方式のために、雨が降ると、下水が処理場にたどり着く前に河川への未処理で放流されてしまうからです。

3.水質悪化の原因、合流式下水道

ちょっと驚きですよね。まさか雨が降ると下水が河川に流れ出るって、、、
でもこれ、すべての都市で起こっている問題ではなく、「古い都市」ほどこういった仕組みになっており、致し方ない部分があるのです。

ちなみに、雨が降ったときに、その水を生活排水の下水管といっしょに流すようしている方式を「合流式」と呼び、雨の水は雨の水、生活排水は生活排水で分離した配管で流す方式を「分流式」と呼びます。

現代人の我々から考えると、なんで合流式なんて作ったんだ?どう考えても分流式一択だろ?と思うかもしれませんが、最初の下水道の誕生は紀元前5000年頃のメソポタミア文明!そう、人類創世の古代の時代から下水道は存在していたらしいのです!

とはいえ、現代のような地下埋設の巨大な下水道管路網が作られたのが1740年代頃のパリ。それでも1700年代ですからね。それまでは糞尿なんてツボに入れて道端に捨てていた時代ですよ!

それから考えると、「下水道と雨水を一緒にして何が悪いの?」という感情があってもおかしくはない。しかも、当時の下水道は糞尿を処理する、という目的の他にも、都市を水害から守る。という重要な使命も持っていました。

と、言うことで、古い都市ほど、雨が降ると、生活排水が河川に流れ込む。という状態になってしまっているのです。

4.合流式での汚染対策

私の最初の意見「日によっては大丈夫だけれども、日によっては非常に危険」というのが分かっていただけた事でしょう。

雨が降ると生活排水がセーヌ川に流れ込み、糞便中にある大腸菌が泳いでいる選手の口や鼻から入ってしまうから、、、という理由です。

では、この合流式下水道を分流式下水道に変える工事をすればよいのでは?と思う方もいることでしょう。でも、考えてみてください。東京や大阪で想像すれば容易でしょうけど、あの大都市において下水道管路を交換するために道路を封鎖したとした、どんな交通障害が発生することやら、、、

しかも下水道は「高いところから低いところに水は流れる」の原則で、かなり深度に配管網が存在します。そんな深度にある配管、しかも、都市部であればあるほどメチャンコ深いところに配管があるわけです。そりゃ、配管のやり直しなんて現実的ではないですよね〜。

では諦めるしかないのか?というと、知恵を絞って対策をしています。その一つが「スワール式分水槽」というもので、水の流れの力を利用して、比較的綺麗な上澄みを河川に流し、沈殿する下の方を下水処理場に流す。というものです。

他にも河川に流す前に消毒だけでも、、、ということで、オゾン処理を組み入れるなどして、少しでも河川の負荷を減らすような努力をしています。

5.ロマンと現実は分けて考えよう

以上の説明で、セーヌ川で泳ぐのは、まだ危険。ということを御理解いただけましたでしょうか?

ただ、人類のロマンとして、多摩川に鮎が登ってきた!とか、道頓堀で小魚が泳いでいるのをみた!というストーリーには燃え上がるものがあることは理解しています。

その気落ちはわかるものの、実際に人間の生活に当てはめた場合、直接泳ぐのは非常に危険です。人命がかかっていますので、個人の主義主張で泳ぐのは全く構いませんが、それを強要するような社会であってほしくないな、、、と思ってnoteを記載しました。

ちなみに私は東京湾の「豊洲ぐるり公園」で釣りをすることが多く、夏場から秋にかけては、ここで釣れたアジやサバを食べております。(流石に生食は危険度が高いので、焼いてますが、、、)


流石に「数値的には泳げる」といっても、ゲリラ豪雨などが多くなっている昨今、都市河川での遊泳は慎重になったほうが良いでしょう。というお話でした。

※2024年8月2日・追記
結局、泳いじゃいましたね。。。
少し前にNewsPicksでも寄稿してますので、コチラも併せて御覧ください。


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