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天使

どーん、バリバリバリバリ

近くを雷が通ったらしく、驚いて落ちてしまった。
せっかくうとうとしてたのに。


たくさんの人が駅のあたりにたまっているのが見えたので近づいて覗き込むと、記録的短時間大雨情報とか運転見合わせとかが表示されたモニターを皆眺めていた。

時間が経つにつれてどんどん人が増えてきて、これ全部魚とかだったら面白いのになとかどうでもいいことを考えていたら、少しは仕事をする気が出てきた。

ここしばらく10年ほどは仕事をサボりがちだった。

定期的に上役からどうなってるのとリマインダが来るけど、彼らはこっちの世界に来ることなど決してない-生理的に受け付けない-はずなので、大して気に留めてはいなかった。

あまりにここが気に入りすぎて、なんだか仕事をするのももったいないと思っていたのである。

ん?
本当にそうだっけ?


人波をすり抜けて駅に入り、どうするかを考えてみた。

何を言ってるのかさっぱりわからない放送で駅の中は騒々しかったので、音声はミュートした。テレビやそこらからの意味不明な音が響き渡る病院の待合室をちょっとだけ思い出した。

とりあえずそのあたりにいる人間たちと同じ格好をすることにした。上が白く下が濃い灰色の衣装。注意深く身長を合わせてお腹を少し膨らませる。周囲には子どももいないようだし、これで目立たない。

雨がおさまったのか電車が動き始めるらしい。人の波に合わせてふわふわと移動し、止まっていた電車に乗り込む。周りは同じような格好の人間だらけで、とても都合がいい。


しばらくすると電車は走り始めた。

よし。ここでやってしまおう。
時間的にもちょうどいいぐらいだろう。


目を閉じて意識を広げ、同じ車両にいる人間たちをそのまま固定して取り込んだ。だいたい300人ほど。

そのまま屋根を通り抜けて最寄りの育成場に移動する。衣装はそのままにして、お腹だけは引っ込めておいた。なんとなく。別に嫌じゃないんだけどさ。


育成場は一年中よく日のあたる場所にある。

取り込んだ意識を育成場にばらまいて放置しておくと、いろいろなものが生まれてくる。魚が出てくるといいな。

眺めていると芽吹いた意識たちが思い思いの形を取り始めた。

食べられないものが生まれるときがあり、生まれたときには自動的に取り除かれる。取り除かれたものは自由にして構わないことになっている。排出口を見ていると一体の人形が出てきた。


人形は天使の形をしていた。


あれ?

さっきの電車に乗ってたんだ。


よく見てみると人形はすごく美化されていて、本当にそんな顔したことあったかなという笑顔だったし、傷跡があるはずのお腹も滑らかになっていた。

それがなんとなくくすぐったくて、ちょっとだけ変になるように爪で修正して、左胸のポケットに入れた。今の気分はいつかきっとあの人に伝わるはず。


そろそろあがる頃合いじゃないかと思っていたけど、もう少しだけいようかな。仕事をサボるのにちょうどいい理由を手に入れることができたし。


やっぱりここは大好きだ

覚えていないほど昔に排水溝で生まれたときからずっと


もちろんあの人のことも