チョコレートコスモス
秋桜は自分の名前が気に入らなかった。
私はコスモスなのに秋の桜ってなんですか?と思っていた。
桜が留守のときの代わりかなにかか私は。
周りのコスモスたちにどう思う?と聞いてみた。
コスモスたちはゆらゆらと楽しそうに風に揺れながら、別にいいんじゃないのだの、気にする方がおかしいだの、考えすぎだの答えてきたので、心の中のもやもやが濃くなった。もやもやを見つめていると、秋桜の濃い紫色もさらに濃くなった気がした。
その気持ちを伝えたくて一番仲の良かったオレンジコスモスたちにも聞いてみたが、桜もどきみたいな名前じゃなくてよかったじゃんねと、彼女たちの性格そのままの返答が返ってきたので、もやもやは、どことなくおかしな色まで帯び始めてしまった。閉口した秋桜はまさにそのとおりに口を閉ざした。
その野原にチョコレートコスモスの株は一つしかいなかった。
そのためでもあったのか、口を閉ざして考えることには慣れていた。
もやもやについてひととおり考えても何も答えが出てこなかったので、秋桜は身をかすめて通り過ぎる風の音に耳を傾けることにした。
風は、ただ流れていた。
ただ静かに。
周囲にいるコスモスたちの小さなささやきを包みながら。
秋桜は風の行く末にある遠くの桜の木を見やった。
見ているうちに、ふと、自分の名付け親は秋に特別な意味を込めたのかもしれないなと感じた。
その人の語彙が貧弱なだけだったかもしれないが。
もやもやは消えていた。
そして野原の真ん中で今ここに一人でいる自分の気持ちはずっと変わらないだろうなと思った。