いずれWINGでてっぺんを盗る海賊達へ ~シャニマス「海に出るつもりじゃなかったし」考察~
2021年の幕開けと共に始まったノクチルのイベントコミュ「海に出るつもりじゃなかったし」、そこではプロデューサーがノクチルの面々に高い目標を目指して真剣に取り組む事、彼の言葉を借りれば「いっぱい生きてほしい」という思いを伝える為にノクチルの面々を地上波番組の騎馬戦に参加させる事にしました。
彼女たちは実装されて以降、シャニマスに登場する過去のアイドルと比較してアイドルとしての意識の低さから幻滅される事が作品内外で多かったように思われます。私自身も2度目のイベントに至ってもしゃっきりしない姿とWINGや感謝祭で彼女たちが成長、あるいは変化していく姿を交互に見る事により、今「ノクチル」がどの段階にあるのかわからず混乱していました。
しかし,これまで語られてきた彼女たちのコミュを振り返ると今回のイベントコミュが過去のシナリオで語られた事を明らかに共有している事に気づき、とある仮説が頭の中に浮かび上がりました。それは、
WING本戦と感謝祭は「海に出るつもりじゃなかったし」の後に起きた出来事である
ということです。言い換えると、ノクチルはWINGや感謝祭を経てもフラフラした集団のままでいるのではなく、干された時期を経て成長し、WINGや感謝祭で多くのファンと思いを共有するまでに至ったのではないか、ということです。私自身がノクチルPである事から、彼女達に対して贔屓を込めて見ている可能性はあるのですが、少なくとも「海に出るつもりじゃなかったし」がこれまでのノクチルのコミュの存在を前提に作られているという事に関しては共感していただけるのではないかと信じてこの記事をまとめる事にしました。
長い人生、いっぱいしあわせを探そう
プロデューサーが伝えたかった「いっぱい生きろ」というメッセージには具体的に、「芸能界に迎合してほしいのではなく、将来したい事を探す為に芸能界を利用することも考えてほしい」という想いが込められていたと思われます.
私が注目した点は、この真意がノクチルに伝わって”いない”ことです.彼女たちが優勝した時に見えるものを知る事ができずプロデューサーの考えが結果的に伝わらなかったならば、この物語には何の意味があったのでしょうか?
実は、「いっぱい生きろ」というプロデューサーの言葉はノクチルのWING共通コミュやSSRイベントの中で別の言い回しでプロデューサーが話していたのです.
透に対しては「人生が長いなら、嬉しい事増やそう」と.雛菜に対しては「どこかでここまででいいやと思っている」とそれぞれ直接話すことで、透は自分の思いを伝える事に積極的になり、雛菜は彼女自身がまだ知らない「しあわせ」を探すようになるなど、彼女たちが自己完結させていた人生観を柔軟にし、外の世界に飛び出す意思を持つようになりました.そう、プロデューサーが「ちゃんと言葉にしてくれないと伝わらない」と透に言ったように、プロデューサーが「幸せに生きていけるようになってほしい」という願いを言葉で伝えたからこの時に初めて彼女たちは理解できたのではないでしょうか。
逆に言えば、願いを言葉では伝えなかったからこそ、このイベントでは真意を伝える事ができなかったとも解釈できます。
このイベントでは伝わらなかったプロデューサーの願いは、後に彼女たちを変えてしまうような出来事の伏線になっているのだと考えられないでしょうか。
> Wouldn't it be nice to take a walk on some pure white sand, gaze at the horizon, without live on fear? 澤野弘之”Barricades”より
優勝したから見えたもの
福丸小糸はプロデューサーに初めてあった日に「小糸自身がどんなアイドルになりたいのか」という宿題を与えられていました。他の3人と比較して自分が劣っていると認識し、舐められる事が多い彼女はそれでも幼馴染に追いつくために理想の姿について考え抜き、努力を怠らなかった結果として「居場所がない人の居場所を作りたい」という夢を明確にする事ができ、2週目のSSRでは夢のような日々を超えた現実で夢を実現するとまで考えており、今やノクチルの中で一番未来を明確に考える事ができる存在になっています。
そんな彼女も今回のシナリオでは上記の夢をはっきりした形にできていないように感じ取れました。
このシナリオでの小糸はまだ透が動き出さなければ動く勇気を持てていない段階にありました。
つまり、小糸にとって「優勝したら見えてくるもの」とは自分だけが持っている夢の事を意味しており、WINGの中では優勝した時だけに彼女が夢を語れるようになった事と深い繋がりがあったと言えるのではないでしょうか。
*なお、透もWINGの本戦では「勝つ」「てっぺんを目指す」という言葉を連呼している。これは彼女が頻繁にイメージしていたジャングルジムになぞらえた表現であることは間違いないのですが、正月イベントで「優勝できなかったから見えなかったもの」を見ようとしたという解釈も成立しうると考えています。
Locked and loaded, ready to go . If you take us on then under you go. The plan is so simple We fight to win. Try to take our freedom Let the battle begin. 澤野弘之”Ready To go"より
幼き日の誓いは彼女の中に
感謝祭のコミュでは「こっちが見ている分見られていた」と樋口に言われていた透は、海の情景が表示される演出とともに「見えていたのか、あれ」という台詞を残していました。以前のイベントコミュ「天塵」では彼女たちが子供の時に4人で海に行く約束をしていたが、それを言い出した浅倉はその事を忘れているかのような描写があります。透は心情の意図が掴みにくい事と重なってジャングルジムでのプロデューサーとの出逢いによって幼馴染の重要度が低くなっている、という危惧がありました。
しかし、今回のコミュでは透が海に行く事を言い出したきっかけがかつてみんなで読んでいた本の中にあった事、そして彼女が頻繁に幼馴染と一緒に航海に出る夢を見る描写が確かにあります。
この事から、透は幼馴染との約束を頭から取り出す事はできなかったが、実際には彼女の心の中に深く刻まれていたという事が伺えます。透の態度からは認識しにくいですが、ジャングルジムの出会いと幼馴染との約束は同じ価値を持つほど彼女にとって重要だったのです。
そしてこの情景を、彼女は感謝祭という舞台で観客と共有する事ができています。
ここから先は推測になりますが、「海に出るつもりじゃなかったし」では誰からも認知されていない、テレビにすら映らない透明な状態が強調されていたノクチルが感謝祭では自らの姿だけでなく、「みんなで海に出る約束を叶える=幼馴染4人で精一杯生きている」という事を観客から理解されるにまでなったという読み方ができるのではないでしょうか。正月の段階では風が吹くのをただ待っていた彼女たちが今や「蒼い風」になったのです。
いつか金星を手にする海賊達へ
私がこれまで書いてきた事は、「ノクチルは4人とも一度言われた事、さらには自分の中で強く記憶に残った事を忘れてしまうほど頭は悪くない」という私の願いを前提にしてきました。このコミュで描かれたノクチルは永遠に人気が出る事がないのかもしれませんが、私は彼女達には自分の力で人々から認知され、小糸が言ったように世界に居場所がないと感じていた人も巻き込んで居場所を作れるだけの力があると考えています。恐らくプロデューサーも似た事を考えてノクチルが4人でいなければならないと思っているのではないでしょうか。
アンティーカやストレイライトのように、社会から与えられる悪意や理不尽に対して清濁合わせのみながらも自らの社会的な力を高めていくという姿勢は間違いなく正しいです。ただ、それだけを正しいと描いてしまっては「自分より強い、偉い人間の言う事に抵抗してはいけない」という構造が生まれてしまい、何かを主張したり抵抗する事を諦めて「いっぱい生きる」事ができなくなる人は少なくないのではないでしょうか。現実社会を思い出せば思い当たる現象は少なからずあると思います。
私は少なくともそれはシャニマスの描きたい事ではないと解釈していますし、「偶像」として名が通るストレイライトと比べて人々に寄り添う姿勢が強調されるイルミネーションスターズが看板を背負っている事に意味を見出したいと考えています。
手を振らない子供たちが終わらせなかった好きに広がる宝地図 あの場所で答えなんて欠片すら必要なかった SawanoHiroyuki[nZk] Aimer ”StarRingChild”より
1人だけ「いっぱい生きる」事に伴う恐怖に心が軋み始めている樋口円香に関しては本編の中で別の側面からフォーカスする必要性がありますが、その点に関しても以前まとめた記事を読んでいただけると恐縮です。
めっちゃ応援した [がんばれ! ノロマ号] 「かんぱい」*騎馬戦で優勝したアイドル達の特集の中で熱い思いを込めていた事を知った後の発言
控え室にいた人たち、ものすごく必死だったのに つまり、勝ち負けは気持ちの問題じゃない 違いますか? 「二酸化炭素濃度の話」
過剰に大人に忖度せず、自分らしさを貫き行動する彼女たちが海を制すなら、その時に起こる風がまた誰かを出港させて、面白い世界になるとあえて希望を持てる方に解釈していきたいと私は考えて考察を終わらせる事にします。
まだ硬く蒼い心にとってそれはつまずくほどに遅く感じられるかもしれない しかし巻き戻ると言うことはない
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