ウクライナのHIMARS

古いニュースですが、ウクライナがHIMARSの運用を始めました。

米供与の高機動ロケット砲、第1弾がウクライナに到着
https://www.cnn.co.jp/usa/35189494.html
2022.06.25

HIMARSは早速効果を発揮しているようで、Twitterにはロシアの弾薬集積地を破壊した、と称する映像・画像がどんどん上がっています。

TwitterにはこのHIMARSについて説明している人もいるので、今回はそうした人たちのツイートからメモを取っておこうと思います。

※M270 MLRS=装軌型のロケット発射機。M142 HIMARS=装輪型のロケット発射機。GMLRS=両者で使用される精密誘導ロケット。


https://threadreaderapp.com/thread/1529955321229234177.html
Trent Telenko May 26

・GMLRSは200ポンド(90.7kg)の弾頭を持つ精密誘導兵器で、GPSと慣性誘導によって3メートルの命中精度を持っている。
・初期のMLRSで使われていた無誘導のクラスター弾ロケットは処分された。2000年代初頭にはクラスター弾を搭載したGMLRSが試験的に製造されたが、そのほとんどは単一弾頭型に変更された。
クラスター弾の代わりとしては、破片弾頭型が作られている。
アメリカがクラスター弾の使用を避けるのは、1991年の砂漠の嵐作戦で、M26ロケットクラスター弾の不発弾で兵士を失った嫌な思い出があるからだ。※クラスター弾は不発弾の発生をゼロにできないので、クラスター弾を使ったエリアに立ち入った味方の歩兵が被害を受けてしまう。
・アメリカには4万発以上のGMLRSの在庫がある。製造者のロッキード・マーティンは、GMLRS生産5万発目を記念したビデオを公開している。https://www.youtube.com/watch?v=SIZ5WLv-CSE


https://threadreaderapp.com/thread/1531012132975910912.html
Thomas C. Theiner May 29

・M270とM142は、ソ連時代に作られたBM-27 Uragan ウラガンやBM-30 Smerch スメルクに比べ、技術面で何十年も進んでいる。
UraganとSmerchは光学照準である。Uraganの場合、兵士は車輪を回して仰角と偏角を調整しなければならない。2本のアウトリガーも、人力で降ろして設置しなければならない。
光学照準では、目標の計測と準備、発射台の調整に10-12分かかるのだ。
光学照準で無誘導ロケットを発射するので命中精度は悪い。例えば、Smerchが12発のロケットを発射するときのCEPは170メートル。これは、実際の標的の半径170メートル以内に50%のロケット弾だけが命中し、残りの50%は標的から170メートルよりもさらに遠くに落ちることになる(米国のGLMRSミサイルのCEPは5メートル)。
これが、ロシア軍がクラスター弾を搭載したロケット弾を多用する理由だ。少なくとも何発かが目標に命中することを願いながら、目標の周囲をクラスター弾で飽和させるのだ。
ではMLRSやHIMARSの場合はというと、GPS誘導ミサイルを使うので、キーボードで目標の座標を入力するだけである。

・リロードについて。
ウラガンやスメルクはリロードに時間がかかる。ウラガンならリロードに20分、スメルクなら12発のロケット弾を装填するのに、5人で40分もかかるのだ。
MLRSやHIMARSのリロードは速い。両方とも、工場であらかじめGMLRSミサイル6発またはATACMSミサイル1発を搭載したロケットポッドを使用する。リロードは、弾薬供給地点において、内蔵されたクレーンにより、使用済みのポッドを新しいものと交換するだけだ。5分しかかからない。

・各ロケットの説明

  • M26…無誘導クラスター弾のロケット弾である。アメリカ陸軍は506,718発を取得し、約17,000発を使用した。子弾は不発率が5%以上であった。M26A1は射程延長版だが、不発率は約4%であった。2008年にブッシュ政権は、「2018年以降に不発率1%以下のクラスター弾のみを保持し使用する」方針を打ち出した。米軍は2019年までにM26ロケットを解体するプログラムを開始、2012年までに98,904発のM26が解体されている。何発のM26米国に残っているのかは不明だが、米軍(およびすべてのNATO加盟国)は、少なくとも過去10年間、M26ロケット弾を現役で保有していない。

  • M28 …訓練用弾

  • M30 …GPS誘導ミサイル(GMLRS)である。M30は、M101クラスター弾(2%の不発弾)を搭載している。不発率を1%にできなかったので、米軍はM30A1の開発に集中した。2022年現在、M30ミサイルがまだ米国の兵器庫にあるかどうかは不明。

  • M30A1 …代替弾頭として、16万個以上のタングステンボールを搭載。巨大な散弾銃のようなものだ。

  • M31/M31A1…高爆発性単弾頭を持つM30 GMLRSミサイルのバリエーション。

  • M39/M48/M57 …ATACMS。M39はM74クラスター弾搭載。非誘導型。M39A1で搭載量を減らしGPS誘導にした。M48は単弾頭、M57は単弾頭で信管を新型にした。米軍の現役装備としてはM57だけが残っているようだ。


https://threadreaderapp.com/thread/1531067601006301184.html
May 30   Thomas C. Theiner

・M270 MLRSは、3つのバージョンが存在する。
 M270A0、M270A1、M270A2で、A1/A2とそれ以前のA0はランチャーに付いたGPSアンテナの有無で見分けることができる。A0は非誘導型のロケットのみ撃てる。2022年現在、M270A0を配備している国はない。
M270A1は現行のミサイルをすべて発射できるが、処理能力が遅いので、A0をオーバーホールして新しい射撃統制システムを搭載し、A2とする予定。


https://threadreaderapp.com/thread/1532841019548520448.html
Jun 3    Thomas C. Theiner

・はたしてロシアはGMLRSミサイルを妨害できるか?
まず、GPSだけで誘導されるミサイルは存在しない。GPS誘導と称するミサイルは慣性航法装置(INS)を搭載している。INSの出力に、GPSの測定値を加えることで誘導の精度を上げているのだ。
GMLRSのINSは、3個のリング型レーザージャイロ(RLG)が使われている。米軍はRLGを安価なIFOG(干渉型光ファイバージャイロ)で置き換えるという計画を進めているが、どちらにせよ、RLGやIFOGを妨害することはできない。
GMLRSのINSはCEP7mの精度を持ち、これにGPSの測定値を追加することでCEPが5mに改善されている。
ではロシアはGPSを妨害できるのか?
GPSには2種類ある。SPSとPPSだ。
SPS(標準測位サービス)は、民間が利用する。SPSは単周波のC/A-Codeを使用し、ロシアはこれを妨害しスプーフィングすることには成功 している。PPS(Precise Positioning Service)は、暗号化された2周波のP/Y-Codeを使用する。PPSはSPSより正確で、2種の周波数を使用するため、性能上も利点がある。そしてロシアがPPSの妨害に成功したことはない(だからPPSを利用するGMLRSも妨害できない)。