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【ダイレクターズ】『石がある』【HOME】

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。


ダイレクターズ第十六弾は、9/6㈮公開の太田達成監督『石がある』です。

(C)inasato

『石がある』

2022 | 監督:太田達成

2024/9/6(金)より
全国順次公開

オフィシャルサイト

ヴァカンス映画とは?

“ヴァカンス映画”をご存知でしょうか?
そもそもヴァカンスというのは、フランス語の長期休暇を意味します。
日本にも夏休みなどの長期休暇はありますが、フランスにおけるヴァカンスは一ヶ月ほど期間を取って別荘などで過ごす習慣となっています。
これを題材としてヌーヴェルヴァーグの監督たちが撮り始めたモノを“ヴァカンス映画”と呼ぶようになりました。
ジャン=リュック・ゴダールの『気狂いピエロ』や『緑の光線』をはじめとするエリック・ロメールの作品、そしてジャック・ロジエなどなど。
明確な定義があるわけではなく、必ずしもヴァカンスを描いているわけではありませんが、作品が醸し出すムードのようなモノがある種のジャンルを築き上げてきました。

これはフランスだけに限った話ではなく、世界中で共有される感覚となっています。
例えば韓国のホン・サンスにはそのムードが色濃く出ていると感じます。
そして、世代をも越えて継承されています。
ミア・ハンセン=ラブギヨーム・ブラックなどを筆頭に国際映画祭でも評価される若手にも“ヴァカンス映画”を感じさせる作品を発表する監督たちが出てきています。

日本で撮られた“ヴァカンス映画”

太田達成監督の『石がある』は、「現代のヴァカンス映画」という宣伝文句が付けられています。
ヴァカンスという習慣に馴染みのない日本において、何をもってヴァカンス映画と呼んでいるのでしょうか?
あくまでも推測にはなってしまいますが、ヴァカンス映画を支配しているのは弛緩した時間だと考えます。
時間の芸術である映画では、上映時間というリミットがあり、劇映画であればラストに向けて設定された目標や目的を達成するために動きます。
時限爆弾を爆発までに解除できるかというサスペンスであったり、先輩と付き合いたいというラブコメ的主題もこれにあたります。
ただ、ヴァカンス映画においては、避暑地で過ごすという状況だけが設定されています。
そこで成し遂げなければならない強靭な目的がないまま進む時間は、所詮暇つぶしにしかなりません。
これを映画で描くと、弛緩した時間が流れる描写となっていきます。
ウェルメイドなエンタメ映画を作る場合は、まず初めにカットされてしまうであろうこれらのシーンが、ヴァカンス映画の醍醐味であり、本質だと考えます。

『石がいる』では、主人公が仕事で訪れた郊外の町で一人の男性と出会います。
休暇ではありませんが、本来の目的から外れたところで、見ず知らずの他人と川原で水切りをしたり石を探したりをします。
まさに弛緩した時間であり、無目的だからこそ贅沢な時間の使い方にも感じられます。
そして、これこそがヴァカンス映画を現代日本で体現する方法だと確信します。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

『ブンデスリーガ』
2017 | 監督:太田達成

太田監督が東京藝術大学大学院の修了制作として撮った作品です。
卓球のドイツリーグであるブンデスリーガに挑戦するという同級生と母校で出くわし、鬼ごっこやタイムカプセル探しに興じるという内容は、『石がある』にも通じる弛緩した時間の映画であり、太田監督の作家性を感じます。
どちらにも共通するのは、この弛緩した時間がある種の喜びと一抹の寂しさや険悪さを伴っているという点です。

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