【ダイレクターズ】『大いなる不在』【HOME】
【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。
ダイレクターズ第十一弾は、7/12㈮公開の近浦啓監督『大いなる不在』です。
『大いなる不在』
2023 | 監督:近浦啓
2024/7/12(金)より
テアトル新宿、TOHOシネマズ シャンテ他
全国順次公開
オフィシャルサイト
“不在”を語るストーリー
本作は近浦啓監督が森山未來さんを主演に迎えた“サスペンス・ヒューマンドラマ”です。
認知症を患った父親と疎遠だった息子の交流を描く物語ですが、この映画をサスペンスたらしめるのは冒頭で物々しく父親が警察に捕まる描写からスタートするからです。
そして、父親の後妻であり主人公の義母にあたる女性の“不在”が作品全体にただならぬ緊張感をもたらしています。
近年、この“不在”が浮き彫りにする人間の本質や関係性の複雑さを物語った日本映画が増えてきているように思えます。
婚約者やパートナーの失踪・死亡により、これまで知らなかった身近な人の別の姿を知ることとなる作品に『市子』『ある男』『嘘を愛する女』などがあります。
どれも不在となった人物の過去を観客と共に知っていく過程で、そもそも存在していると思っていた表面的な関係性自体が朧げで危ういものだったと思い知らされます。
これは現代人が常に心に宿している心理なのかもしれません。
巧みなストーリーテリングに導かれて、登場人物たちの空白の時間を旅するような体験となります。
役者が担う“静”と“動”
今作の素晴らしさは、役者の存在感が負う部分も大きいと感じます。
主演を務める森山未來さんは、近年その身体性を大いに活かした活動をしています。
演劇やダンスなど身体表現をメインとする芸術で素晴らしいパフォーマンスを行っており、劇中でも舞台稽古中の俳優という役を演じています。
ただ、本作では“動”ではなく“静”、受けの演技が見事です。
観客とともに認知症の父親と向き合い、不在となった義母を探すという役割が与えられています。
出くわす出来事や明かされる真実に対してのリアクションがメインとなりますが、その一つ一つを通して映画内では描写されない過去の積み重ねまでも感じ取らせます。
一方、“動”の演技で主人公や観客を振り回すのが、藤竜也さん演じる父親です。
大学の教授だったという経歴はリタイア後の言動からもひしひしと感じられます。
後妻が姿を消しただけでなく、認知症の症状で様々なものが不在となっていく中で、削ぎ落とされ剥き出しとなった自分自身と向き合うこととなります。
藤竜也さんは近藤監督の前作『コンプリシティ 優しい共犯』でもタッグを組んでいます。
中国人の技能実習生を厳しくも温かな眼差しで見守る男を演じていましたが、同じく父性を携える人物として今作とは真逆のアプローチをしていて興味深いです。
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
『きみに読む物語』
2004 | 監督:ニック・カサベテス
認知症の人物が大切なパートナーとの大切な思い出を取り戻す、というあらすじは『大いなる不在』と『君に読む物語』で共通しています。
それでも語り口によってここまで違う作品が出来上がるのかと驚きます。
並べて観てみることで『大いなる不在』もある側面から見ると、愛の物語であることを感じられるかもしれません。