見出し画像

【ダイレクターズ】『辰巳』【HOME】

【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。


ダイレクターズ第六弾は、4/20㈮公開の小路紘史監督『辰巳』です。

(C)小路紘史

『辰巳』

2023 | 監督:小路紘史

2024/4/20(土)より
ユーロスペース他
全国ロードショー

オフィシャルサイト

『ケンとカズ』の衝撃

小路紘史監督待望の新作『辰巳』が公開されます。
本作が長編2本目の若手監督の作品が、なぜこれほど“待望”と言われるのか?
それは長編デビュー作である『ケンとカズ』まで遡る必要があります。

小路監督は高校卒業後、東京俳優・映画&放送専門学校(当時は東京フィルムセンター映画・俳優専門学校)で映画制作を学びました。
『ケンとカズ』でカズを演じた毎熊克哉さんはここでの同期で、俳優としてではなく制作側として共に学んでいたそうです。
卒業後、フリーランスのカメラマンなどを行いながら自主制作作品として短編版の『ケンとカズ』を撮ります。
この作品はYouTubeでも視聴できるので、ぜひこちらからご覧ください。

毎熊さんも出演していますが、長編版とは配役も異なり、その相違や共通点を見比べる楽しみがあります。
この短編版は国内外の映画祭で評価されました。
そして、満を持して監督自ら長編映画として制作。
このタイミングでカトウシンスケさんや藤原季節さんが演者として参加します。
メインの三人は、この作品を機にステップアップを果たし、間違いなく彼らのターニング・ポイントとなっています。
2015年の東京国際映画祭で日本映画スプラッシュ部門に出品され、作品賞を受賞します。
そして、翌年に劇場公開されると一気に口コミが広がり、自主制作映画としては異例のロングランヒットとなりました。
当時はお笑い芸人の水道橋博士が激推ししていたりと、映画コミュニティを超えた広がりを感じました。

リアリティとクローズアップ

ここまで支持を集めた理由の一つに、リアリティの高さがあると考えます。
クスリの売買を生業にしている若者たちの生活を描いていますが、実のところ現実ではどのようなやり取りがなされているのか知る者は、観客の中にはほとんどいないのではないでしょうか。
それでも「これは本当にありそうだ」と思える細やかな描写の積み重ねで、観客の心を離しません。

そしてもう一つ、熱もこもった役者の演技を余すことなくとらえた演出とカメラワークも特筆に値します。
正直、お茶の間でよく知られた俳優はほとんど出てきません。
しかし、画面に登場する人々は間違いなく映画の中の世界を生きていると感じさせる“良い顔”をしています。
その顔へのクローズアップを多用しながら、臨場感溢れるカメラワークで追いかける演出は、観客を作品世界に巻き込んでいき熱狂を生み出すパワーがあります。

これらの要素は『ケンとカズ』から『辰巳』へと受け継がれており、さらに洗練されています。

待望の劇場公開

『ケンとカズ』で一躍注目の若手監督となった小路監督ですが、間にドラマ演出を挟みながらも、長編2作目公開まで8年を要しました。
実は『辰巳』の制作は2019年からスタートしており、その情報も公開されていました。
新作を待ち望むファンは歓喜したのですが、その後の情報が途絶えてしまったことでヤキモキもしました。
コロナ禍による公開延期という憂き目にあい、その後作品クオリティ上昇のため再撮影なども行っていたようです。
そんな中でも、森田想さん主演の『わたしの見ている世界が全て』が公開されたり、遠藤雄弥さんが主演した『ONODA 一万夜を越えて』がカンヌ国際映画祭のある視点部門オープニング作品に選ばれたりと、公開までの間にキャスト陣の活躍の場もドンドンと広がっていきました。
なので昨年の東京国際映画祭でのお披露目発表はまさに“待望”という言葉がふさわしい場となりました。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

(C)小島央大/映画JOINT製作委員会

JOINT
2020 | 監督:小島央大

ダークホース的なノワール作品という意味では、『ケンとカズ』の登場ととても近い手触りを感じます。
取り扱っている題材もベンチャービジネスや特殊詐欺など現代社会をリアルに反映させた内容で、驚くほどのリアリティを提供しています。
そして何より、本作が俳優デビューという主演の山本一賢さんをはじめ、キャスト陣の演技があまりにも世界観に馴染んでいて惚れ惚れします。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?