【ダイレクターズ】『若武者』【HOME】
【ダイレクターズ】
六本木 蔦屋書店 WATCH PLANがお送りする日本映画紹介プログラム。
2024年に公開される日本映画の中から、映画監督という切り口で厳選したオススメ作品を紹介していきます。
ダイレクターズ第八弾は、5/25㈯公開の二ノ宮隆太郎監督『若武者』です。
『若武者』
2024 | 監督:二ノ宮隆太郎
2024/5/25(土)より
世界同時期公開
オフィシャルサイト
New Counter Films第一弾作品
今作『若武者』はNew Counter Filmsという新しいレーベルの第一弾作品として制作されました。
“誰もが観たい映画でなく、誰かが観たい映画をつくる”をミッションとして掲げているレーベルで、映画監督の作家性にフォーカスした作品制作を行っています。
聞くところによると、この『若武者』の企画や脚本は2019年頃には既にあり、新レーベルの為に企画されたものではないそうです。
二ノ宮隆太郎監督の前作『逃げきれた夢』の制作プロダクションであるコギトワークスの代表、関友彦さんと、長年二ノ宮監督と共に映画制作を行ってきた鈴木徳至さんが新たに立ち上げるNew Counter Filmsの理念と合致するということで新レーベルの第一弾作品として『若武者』に白羽の矢が立ったという経緯があります。
二ノ宮隆太郎監督の作家性
最大公約数のマスではなく、個人の中に深く刺さる作品を届けるためにレーベルが託した二ノ宮隆太郎監督の作家性とは?
二ノ宮監督は少し変わったキャリアを築いてきた映画人です。
元々は俳優としてスタートし、現在も鈍牛倶楽部という事務所に所属しながら様々な作品に出演するバイプレイヤーです。
キャリア初期から監督としても作品を発表しており、『魅力の人間』がPFFでの準グランプリをはじめ国内外の映画祭で評価されました。
さらに『枝葉のこと』ではロッテルダム、『逃げきれた夢』ではカンヌに出品、と国際的にも注目の監督と言えます。
『枝葉のこと』までは監督自身が出演し、ほぼ本人なのではないかと思われるキャラクターを演じています。
もちろんフィクションではあるのですが、恐らく実体験からくる社会への視線や肌触りが色濃く反映されている作品を撮ってきました。
その根底には“怒り”を原動力としたクリエイティビティを感じます。
特に残酷な描写があるというわけではありませんが、社会の構造や制度への不満、個人に向けた些細な憤りという刃が四方八方に向けられています。
そして、いつしかその刃は自分自身の内側や鑑賞している観客にも矛先を向け始めます。
鑑賞後、ただではいられない。
そんな感想を持ってしまうほど、映画とは恐ろしいものだということを思い出させてくれる監督だと言えます。
『逃げきれた夢』では、事務所の先輩でもある光石研さんという年の離れた存在を中心に据えることで、監督自身から少し距離感ができ、新たな地平が垣間見える作品となっていました。
一方『若武者』では、主演している坂東龍汰さん、高橋里恩さん、清水尚弥さんは監督より下の世代ですが、間違いなく監督自身を反映しているキャラクター性を三者に振り分けるように配置されています。
溢れる台詞と絵画のような画角
本作ではとにかく台詞の量が尋常なくらいあります。
特に、メインである英治と光則は滔々と自らの考えを語ります。
数人が絡む会話シーンであっても、スタンダードサイズで切り取られた画面にはほとんど話している人物しか映らず、まるで対話ではなく一人語りをしているような錯覚に陥ります。
本気か冗談か、正義か悪か。
彼らの語りは観客の分別の線引きを曖昧にさせていくようなある種悪魔的な魅力があります。
間違いなく台詞の映画と呼べるでしょう。
だからといって、映像の力が負けているわけではありません。
むしろ絵画的な一枚画の強烈さは、この作品の不穏なトーンを生み出しています。
これまで撮影監督として組んできた四宮秀俊さんから、今作では岩永洋さんにバトンタッチしています。
ワンカット長回しの多かったこれまでの二ノ宮監督の作風からは、かなり異なったアプローチが取られています。
そして今泉力哉監督とのタッグで知られる岩永さんのこれまでのルックとも異なることから、互いに新たな挑戦として今作に臨んでいることが伺いしれます。
【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
『ファイト・クラブ』
1999 | 監督:デヴィッド・フィンチャー
意外に感じるかもしれませんが、『若武者』の鑑賞前後に合わせて観たい作品はあの『ファイト・クラブ』です。
もはや古典と化してきた名作ですが、世紀末の時代が醸し出していた空気感と個人が抱える多面性を見事な語り口で重ね合わせていた作品だと認識しています。
そして、『若武者』にもそういう側面があるように思えます。
これはあくまでも個人的な感想になってしまい、監督にそういった意図はないかもしれませんが、『ファイト・クラブ』を念頭に置いてから改めて『若武者』を見ると、全く別の見方が立ち上がってくる感覚があります。
一度、お試し下さい。